と、僕と山の神さまが相槌しあう。
それを何度か繰り返し、
神饌を作る能力ですか
うむ
そうなのそうなの
そうですかそうですか
そうなのそうなの
そうですかそうですか
そうなのそうなの
と、僕と山の神さまが相槌しあう。
それを何度か繰り返し、
ええい、繰り返さずでもいいのじゃ!
穂波様は爆発した。
すみません、理解がおいついていないだけです
お主、面倒な言い返しをするのう
時間稼ぎとでも言ってください
余計面倒じゃ
ええと、神饌を作る能力、ですか
そうじゃ。ちなみに神饌といったが、正しくは想いを食物に込める能力のことじゃな
想いを、ですか?
そうじゃ。想いが詰まった料理というのは、人に活力を与え、神に力を与える
特に強い神饌を作る巫は、どの時代でも重宝されたのよのよ
RPGの超強力なバフアイテムみたいなものですか
なんだかよくわからんが、そんな感じじゃ
あ、私はわかるからわかるから
ともかくじゃ。神饌を作る能力は大小あるが、これほどの神饌をわらわは見たことがないのじゃ
稀代の神饌職人ね、職人ね
稀代の神饌職人、ですか
ちなみにちなみに、あのクッキー一つで私の接吻一回分ですです
は?!
これはさすがの僕も驚いた。
なんじゃと!?
そして穂波様も驚いた。いや、あなたは食べてたでしょうが。
すごいでしょうすごいでしょう?
流石にわらわもびっくりじゃ
つまり、クッキー一つ食べるだけで、穂波様は生存可能になると?
計るならそうねそうね。
でも、象徴を失っているから、ずっと生きていけるわけじゃないけど
――やっぱり
ひび割れた器に水を注いでも流れ落ちていくだけで、時間が経てばひびが大きくなり、より多くの水が流れていく。
穂波様の死は、なにもしない限り、避けられない。
穂波様……
僕は哀れみの表情を穂波様に向けた。
ふふふ……おいしい神饌を食べるだけで……接吻もせずに……
が、穂波様はにやけていた。にやけた上で目がキラキラ輝いていた。
なんか穂波さまが怖いんですが
あっ、耳が内側に向いてにやにやしてる時は悪巧みしてるときだからだから
いいことを聞きました。気をつけます
うん、気をつけてね気をつけてね。でもね、大体は――
おい、お主
はい
お主をわらわの巫にしてやるのじゃ!
……
穂波ちゃんの考え、わかりやすいから
はい、それについてはよくわかりました
なんじゃ! わらわが究極の決断をしたというのに!
いや、絶対に僕が作る神饌目当てでしょう?
そ、そんなことはないのじゃ
それ以外に何があるっていうんですか……
いや、ほら、神域に引きこもっていたのでの、最近の現世はどんなことになっているのか気になっての
……山の神様、穂波様が前に外に出たのは?
うーん、十五年前かしらかしら
僕が生まれた年ですか……
がくりと頭が落ちる。力が抜けていくのを感じる。
ええい、なるのかならんのか
なんで上から目線なんですかね
あはははは……
どっちじゃ!
穂波様が迫る。
山の神様がお願い、と僕に手を合わせる。
……はあ、部長の課題がこんなことになるなんて
本当に、長い溜息を吐いた後、僕は穂波様と山の神様に顔を向ける。
わかりました。僕が穂波様の神付きになります
おお!
ただし、条件があります
条件じゃと?
穂波様はちゃんとした神さまになってもらいます
……へ?
あらあら
穂波様、はっきりいいますけど、あなたはかなりの駄目神さまです
だめ?!
ええ、ええ
正直、信仰心とか芽生えないくらいの駄目神さまです
ななななな
ですよねですよね
だから、僕が
心に決めた。後悔はあるだろう。
でも、僕は、
こんな壊れかけの存在を放っておけない。
――穂波様を、神さまとして復活させます
こうして、僕は穂波様――駄目神さまの神付きとなった。
これが、神様を捕まえようとした話の顛末。
ここからは、神様を復活させる話の始まり。
神さまの長い春休みが終わり、そして、春が始まる。