時間が時間だから、まずお昼だね。
あたしたちは商店街の先にある
飲食街へ足を踏み入れる。
お昼時を過ぎた飲食街は、
人通りも少なく、落ち着いた雰囲気だ。
何食べよっかー。
あれは?
ちょ、ちょっと。
何言ってんのさ、おねえちゃん。
あたし心の準備ができてないよ!
違う違う、その手前。
ここのお寿司なんかどう?
一皿100円だし。
おねえちゃんが飲食街を入ってすぐの
回転寿司屋の看板を指差す。
え、あ…そっちね。
お寿司かぁ。たまにはいいね。
はい、じゃあ決まり。
入るよ。
Identity
繁忙期が過ぎ去った後の店内は
空席がかなり目立つ。
まばらな人影は一抹の寂しさを覚える。
いらっしゃいませ、2名様ですか?
案内の店員さんが話しかけてきた。
はい
では、こちらへどうぞ。
あたしたちは、ファミリー席へと案内される。
ご注文の場合には、こちらのタッチパネルでご注文下さい。
はーい。
さーて、食べよう!
店員さんが去った後、
あたしたちは思い思いの皿を取る。
あとはどんなのがあるかな―。
ひとしきり食べた後、
タッチパネルのページを送る。
サイドメニューのページに見つけたのは
アタシの目を引く存在。
あれ……、
こんなのもあるのか……。
頼んどこ。
あたしがタッチパネルを操作して品物を選ぶと
注文した品が注文レーンを流れてくる。
おー、きたきた。
えー…
寿司屋のギョウザ
回転寿司屋で餃子を頼むあたり、さすがリツだねぇって思うわ。
い、いいでしょ!
最近、どうやったら餡がふわっとした食感になるかが気になってるの!
そういうおねえちゃんだって、炙りびんちょうペッパーマヨばかり何皿取ってるのさ!?
海苔あり、なし、マヨ少なめ、マヨ多め……。一つとして同じのは取ってないよ。
何よそのこだわり!
あたしは『寿司屋のギョウザ』と銘打たれた
餃子を口に入れる。
やっぱり、アタシが作るのより餡が柔らかいね…。肉の量が少ないのかな……。
ハッ!
と気が付くと
おねえちゃんが
ジーッ!
とあたしの顔を覗きこんでる。
な……なに?
おねえちゃん?
リツってさ、餃子作ったり食べたりするのが好きな理由って、自分で覚えてるのかなー?って。
んー?
改めて考えたことなかった。
なんでだろ……。
物心ついた時から、
餃子が好きだったような…。
まぁ、覚えてないのも仕方ないよね。
なにか知ってそうなおねえちゃんの口ぶり。
……気になる。
なんでかおねえちゃん知ってるの?
んー……。
まあね。
ふーん。
さて、そろそろ行くかね。
そうだね。
遅いお昼ごはんを済ませたあたし達は
飲食街をちょっと戻ったところにある商店街へ行く。
夜どうしよっかな。
食べたばかりで、食べたいものが浮かばないねぇ。
とりあえず、野菜を多めに考えよう。
お願いします。
レタス、アボガド、トマト、ツナ、タマゴ……この辺でコブサラダかなぁ…
後はメインメイン……。
お昼にお寿司を食べたから
魚の気分は全く無い。
それに、もう5時前。
作る時間もあまりない。
手軽にできる肉料理というと……。
えーっと……
おねえちゃん……。
なんだい?
あたしの思考はもう停止していた。
メインディッシュ……
餃子でいい?
小さくなるあたしの声。
ぷっ…。
思わず吹き出すおねえちゃん。
いつもなら
『なにさ!』
と言っちゃうところだけど
流石に餃子じゃない物にしようと言って
おねえちゃんを連れ出して、
餃子を食べた挙句
夜も餃子にしよう、と言う提案は
我ながらどうかしてると思う。
ダメかなぁ?
なんとなくそんな気はしてたさ。
いいよ。
おねえちゃんはニッコリと微笑んだ。
つづく