あたし

時間が時間だから、まずお昼だね。


あたしたちは商店街の先にある


飲食街へ足を踏み入れる。




お昼時を過ぎた飲食街は、


人通りも少なく、落ち着いた雰囲気だ。

あたし

何食べよっかー。

おねえちゃん

あれは?

あたし

ちょ、ちょっと。
何言ってんのさ、おねえちゃん。

あたし心の準備ができてないよ!

おねえちゃん

違う違う、その手前。
ここのお寿司なんかどう?
一皿100円だし。



おねえちゃんが飲食街を入ってすぐの


回転寿司屋の看板を指差す。

あたし

え、あ…そっちね。

あたし

お寿司かぁ。たまにはいいね。

おねえちゃん

はい、じゃあ決まり。
入るよ。











Identity











繁忙期が過ぎ去った後の店内は


空席がかなり目立つ。






まばらな人影は一抹の寂しさを覚える。

いらっしゃいませ、2名様ですか?



案内の店員さんが話しかけてきた。

あたし

はい

では、こちらへどうぞ。


あたしたちは、ファミリー席へと案内される。

ご注文の場合には、こちらのタッチパネルでご注文下さい。

おねえちゃん

はーい。

あたし

さーて、食べよう!



店員さんが去った後、


あたしたちは思い思いの皿を取る。



あたし

あとはどんなのがあるかな―。



ひとしきり食べた後、


タッチパネルのページを送る。





サイドメニューのページに見つけたのは


アタシの目を引く存在。

あたし

あれ……、
こんなのもあるのか……。



頼んどこ。



あたしがタッチパネルを操作して品物を選ぶと


注文した品が注文レーンを流れてくる。


あたし

おー、きたきた。

おねえちゃん

えー…

寿司屋のギョウザ

おねえちゃん

回転寿司屋で餃子を頼むあたり、さすがリツだねぇって思うわ。

あたし

い、いいでしょ!
最近、どうやったら餡がふわっとした食感になるかが気になってるの!

あたし

そういうおねえちゃんだって、炙りびんちょうペッパーマヨばかり何皿取ってるのさ!?

おねえちゃん

海苔あり、なし、マヨ少なめ、マヨ多め……。一つとして同じのは取ってないよ。

あたし

何よそのこだわり!


あたしは『寿司屋のギョウザ』と銘打たれた


餃子を口に入れる。

あたし

やっぱり、アタシが作るのより餡が柔らかいね…。肉の量が少ないのかな……。

あたし

ハッ!


と気が付くと


おねえちゃんが

おねえちゃん

ジーッ!

とあたしの顔を覗きこんでる。

あたし

な……なに?
おねえちゃん?

おねえちゃん

リツってさ、餃子作ったり食べたりするのが好きな理由って、自分で覚えてるのかなー?って。

あたし

んー?



改めて考えたことなかった。


なんでだろ……。




物心ついた時から、


餃子が好きだったような…。

おねえちゃん

まぁ、覚えてないのも仕方ないよね。



なにか知ってそうなおねえちゃんの口ぶり。


……気になる。

あたし

なんでかおねえちゃん知ってるの?

おねえちゃん

んー……。

おねえちゃん

まあね。

あたし

ふーん。

おねえちゃん

さて、そろそろ行くかね。

あたし

そうだね。





遅いお昼ごはんを済ませたあたし達は


飲食街をちょっと戻ったところにある商店街へ行く。


あたし

夜どうしよっかな。

おねえちゃん

食べたばかりで、食べたいものが浮かばないねぇ。

あたし

とりあえず、野菜を多めに考えよう。

おねえちゃん

お願いします。

あたし

レタス、アボガド、トマト、ツナ、タマゴ……この辺でコブサラダかなぁ…

あたし

後はメインメイン……。




お昼にお寿司を食べたから


魚の気分は全く無い。





それに、もう5時前。




作る時間もあまりない。


手軽にできる肉料理というと……。



あたし

えーっと……
おねえちゃん……。

おねえちゃん

なんだい?






あたしの思考はもう停止していた。





あたし

メインディッシュ……

あたし

餃子でいい?


小さくなるあたしの声。

おねえちゃん

ぷっ…。




思わず吹き出すおねえちゃん。





いつもなら


『なにさ!』


と言っちゃうところだけど


流石に餃子じゃない物にしようと言って


おねえちゃんを連れ出して、


餃子を食べた挙句


夜も餃子にしよう、と言う提案は


我ながらどうかしてると思う。

あたし

ダメかなぁ?

おねえちゃん

なんとなくそんな気はしてたさ。

おねえちゃん

いいよ。







おねえちゃんはニッコリと微笑んだ。


























つづく

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