買い物を済ませた私とアーシャは宿へ向かう。


宿の位置は『導きの石』が教えてくれる。
これはあらかじめ指定したものの位置を
示してくれる魔法道具だ。

これには馬車の位置を示すようにしてある。
  
 

 
 

ミリア

まだ直進でいいみたいね。

アーシャ

そうですね。

ミリア

それにしても――

 
メインストリートには相変わらず
兵士さんだらけ。
たくさんの人も行き交っている。

表向きは平和な町なんだけどな……。



でもおばあさんの話を知った上で
町の人たちへ視線を向けると、
同じ景色も違って見えてくる。




みんなの瞳の奥にある悲しみや苦しみ、
嘆き、恐怖――。

そんな彼らに対する兵士さんたちの
鋭い監視の目。
そういうのがハッキリと感じられる。



――絶対にこの状況をなんとかしなきゃ!


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
無事に宿へ辿り着くと、
座長とフロストはすでに戻ってきていた。

そして私たちが到着するなり、
座長は全員を1つの部屋に集合させる。


深刻そうな顔をしているから、
何かがあったんだろうな。

もしかしたら座長も
町の現状を知ったのかも……。
 
 

ルドルフ

実はみんなに大事な話がある。

アルベルト

どうしたんだ?

ルドルフ

町で興行をするため
役所へ手続きに行ったんだが、
困ったことになってな……。

ルドルフ

本当に申し訳ない。

 
座長は突然、深々と頭を下げた。

だけど状況が飲み込めない私たちは、
目を丸くして当惑してしまう。

唯一、フロストだけは
難しい顔をして推移を見守っている。



――そっか、フロストは座長と一緒に
役所へ行ったんだもんね。

何があったのか知ってるわけか……。
 

アルベルト

なんで座長が謝るんだよ?

ルドルフ

我々はこの町で暮らさなければ
ならなくなってしまった。

ミリア

やっぱりそうか……。

アラン

はぁっ?

ルドルフ

実はな――

 
座長から語られたのは、
私が手芸屋さんのおばあさんから聞いたのと
同じようなものだった。


興行をすると幸福税が課せられるということや
簡単には町を出られないということ、
人質を取られるということなど――。

興行の手続きをする際に、
お役人から言い渡されたみたい。



つまり町で商売をしようとした人は
みんな出られなくなっちゃうんだね……。
 
 

ルドルフ

もはや我が一座は連帯責任。
役人にはそう認識されて
しまっている。
本当にすまない……。

アルベルト

何を言ってるんだ、座長。
俺たちは元からみんな
一蓮托生じゃないか。

アラン

そうだよ、
謝る必要なんてないさ。

ルドルフ

お前ら……。

 
瞳を潤ませ、思わず目頭を押さえる座長。
それをアルベルトとアランは
笑顔で見守っている。



なんか、こういうのっていいな。
私まで胸が一杯になってきちゃった。

横にいたハミュンも小さく鼻を啜る。
 
 

ハミュン

あなたたち、素晴らしいわ。
ジーンとしちゃった。
また少しは人間を見直したわ。

アーシャ

それはなによりです。

ミリア

――あのっ、座長!

ルドルフ

ん? どうした?

ミリア

実はその話なんですけど、
私とアーシャも
町で買い物をしている時に
聞いたんです。

ルドルフ

なんだとっ?

アーシャ

ミリアさんはその情報を
フロストさんに伝えるため、
身を捨てる覚悟で訊ねたのです。

フロスト

っ!?

ミリア

ア、アーシャ!
何を言ってるのよっ?

 
照れくささで、
顔全体が一気に熱くなっていった。
耳まで高熱を帯びている。

ううん、それどころか
なんか全身の血液が沸騰したみたい。


私が狼狽えていると、
アーシャはニッコリと微笑む。
 
 

アーシャ

そのつもりだったんですよね?

ミリア

う……それは……。

フロスト

そうだったのかい?
嬉しいなぁっ♪

ミリア

わ、私はエステル様のことが
心配になっただけよ!

フロスト

……ありがとう、ミリア。

 
 
 
 
 

ミリア

あ……。

 
 
 
 
 
爽やかですごく穏やかなフロストの笑顔。

嫌みったらしさは完全に消えていて、
心から感謝してくれているのが伝わってくる。



なんだか胸がすごくドキドキする。
しかも今すぐ跳び上がりたいくらいに嬉しい。
 
 

ルドルフ

ミリアは肝が据わってるな!
さすが、俺の自慢の義娘だ!

フロスト

それじゃ、
ミリアの仕入れてきた情報も
詳しく聞かせてもらおう。

ミリア

うん。でもほとんどは
座長と同じような話に
なっちゃうけどね――

 
私はおばあさんから聞いたことを全て話した。
さらに町の様子について感じたことも伝える。


――話が終わった時には、
重苦しい空気がその場を支配していた。
 
 

フロスト

なるほどな。
事態はよく分かった。

アルベルト

それで座長、
興行の税金はどれくらいなんだ?

ルドルフ

儲けの半分は税金として
取られてしまうらしい。

アルベルト

半分もっ!?

ルドルフ

しかも監視と税金徴収の兵士が
ずっと横で見張っているらしい。

アラン

げ~! それじゃ、
儲けの額を誤魔化すことが
出来ないじゃんか~!

ルドルフ

そういうことだな。

ミリア

ねぇ、フロスト!
このことをエステル様に伝えて、
バサール伯爵を
懲らしめてもらいましょうよ!

アルベルト

このまま放置すれば、
エステル王女の立場だって
危うくなりかねないしな。

アルベルト

王女の失脚を狙っている輩だって
世の中にはいるだろう。
そいつらより先に知らせて
早々に決着させる必要がある。

アラン

オイラはなんだってするぞ!
あんなに優しいお姫様を
悲しませてなるものかっ!

アーシャ

私も皆さんと同じ気持ちです。

ハミュン

私にも協力させなさいよ。
大きな借りもあることだしね。

 
全員の視線がフロストに向いていた。
一様にその瞳には
決意と強い意志の光が宿っている。


――私たちの心はすでに1つ。
迷いなんてないッ!
 
 

フロスト

やはり僕の目に
狂いはなかったようだ。
キミたちを選んで正解だったよ。

フロスト

今こそ全ての真実を話そう。
そして僕を、エステル姉さんを
助けてほしい!

 
フロストはいつになく真剣な顔になって、
そう強く言い放った。
そして私たちに向かって頭を下げる。



――全ての真実って何?

彼はこれから何を話そうというのだろう?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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