スポーツ万能で、誰からも頼りにされる兄貴分、学園一の人気者と名高い少年――陸。
勉強はできるけれど、人付き合いが苦手な少女――あんな。
正反対な二人の道が交わることはないはずだった。
しかし、偶然同じクラスになったことから、二人の距離は縮まっていき……。
スポーツ万能で、誰からも頼りにされる兄貴分、学園一の人気者と名高い少年――陸。
勉強はできるけれど、人付き合いが苦手な少女――あんな。
正反対な二人の道が交わることはないはずだった。
しかし、偶然同じクラスになったことから、二人の距離は縮まっていき……。
なあ、俺、お前のこと好きになっちゃったみたい
壁際に追いつめられ、耳元で囁かれた言葉に、あんなはびくりと肩を震わせた。
何、言ってるの……ふざけてないで、どいてよ……
ふざけてなんかねぇよ。俺はいつでも本気だぜ
陸の真剣な眼差しを受け止めきれず、あんなは逃げてしまう。
それからも、陸はあんなが困っていれば手を差し伸べ、何度でも愛を告白する。
しかし、拒絶されるたび密かに傷ついていた陸は、最後と決めていた告白も跳ね除けられたことで、あんなと距離を置くようになった。
そうなってようやく自分の恋心を自覚したあんなは、今度は自分から想いを告げた。
俺が何度好きだって言っても本気にしなかったくせに。今さら、俺にお前のその言葉を信じろっていうのかよ
ごめんなさい。私、ずっと酷いことしてきた……好きって気持ちを否定されるのは、こんなにも苦しいことだったんだね……
俯いてしまった陸の肩に、あんなはそっと手を乗せる。
でも、やっと気づいたの。私は、あなたのことが好きなんだって。だから、今度は私があなたに信じてもらえるように頑張る
頑張るって……どうするつもりだよ
弱々しい声で吐き捨てられた言葉に、あんなは目を伏せた。
肩に手をかけたまま背伸びをして、そして――。
殺風景だった事務所の壁に、里見先輩の手によって一枚のポスターが貼られていく。
『アイドルドリームマッチ3 待望の開催!』と書かれた大判のポスターを前に、里見先輩はまるでガイドのように片手を上げて説明をはじめた。
アイドルドリームマッチは、活躍中のアイドルたちが事務所の枠を越えて新ユニットを結成し、人気を競う歌番組です
ここでしか見られないスペシャルなユニットが実現するので
アイドルファンからは熱い注目を浴びている番組なんですよ
今回は、人気動画サイトのイベント会場で開催されることが決定しています
どんな新ユニットが優勝するのか楽しみですね!
……里見さん、誰に説明してるんですか?
ハッ……! つい以前の癖で……
あんなのツッコミに、里見先輩は照れくさそうに口元を手で覆った。
それにしても、まさかまたこんな大々的なアイドルイベントが開催できるなんて思ってもみませんでした……
プロデューサーさん、ちゃんとお仕事してたんですね。遊んでるようにしか見えないとか疑っちゃってごめんなさい……!
プロデューサーは今、アイドリズム復活を目指して世界中を飛び回っている。
今回のアイドルドリームマッチ3開催は、そんなプロデューサーの尽力によるものが大きいようだ。
アイドリズム崩壊後、初となる大型アイドルイベントに、業界は俄かに活気づいてきている。
リーク情報によって、ネットでもアイドルに対する賛否両論が繰り広げられているが、熱烈なファンからの期待する声も多々見受けられた。
独自の音楽性を武器にヨーロッパで人気となった覆面アイドルも参加を表明したとか、単に暴れたいだけなんじゃないか、などという信憑性のない噂も飛び交っているらしい。
あんなちゃんも参加するんですよね。練習は順調ですか?
はい。歌もダンスも張り切ってやってます!
あんなは得意げに、その場でシングルターンを決めてみせた。
おお! 気合充分ですね!
えへへー
チッ……
パチパチパチという里見先輩の拍手の音に紛れて、小さく舌打ちの音が響く。
それに気づいたあんなが、頬を膨らませながらこちらへ歩み寄ってきた。
虎子さん、柄悪くなってますよー
どうしたらあなたのように能天気でいられるのか、教えてほしいくらいだわ
むー! 能天気ってなんですか!
まあまあ、落ち着いてあんなちゃん。虎子ちゃんも、準備に追われていて大変なのはわかりますが、今のはちょっと大人気ないですよ
里見先輩に窘められ、私は口を噤んだ。
余裕がないせいで、イライラしやすくなっているという自覚は一応ある。
アイドルドリームマッチ3に参加するためには、ただ参加表明をすればいいというものではなく、エントリーライブで観客票を一定以上集めなければならないのだ。
相変わらずどこにいるとも知れないプロデューサーから、私はエントリーライブの手配を一任された。
それ自体に不満はない。
メッセージアプリの画面に表示された、バナナボートに乗っているプロデューサーの写真と「よろしくー」の一言を見たときは絶句したが、頼りにされていると思えば純粋に嬉しい。
開催まであまり日がないため、ライブの会場選びやスタッフの確保などに追われてはいるものの、スケジュールを立てる作業は得意分野だ。
問題は、どうすればあんなを正統派アイドルとして売り出せるのかというところにあった。
知名度のない地下アイドルが、ただエントリーライブを開催しても、観客がやってくるとは思えない。
さらにそこから票を集めるとなると、一筋縄ではいかないだろう。
はあ……いくら宣伝を打っても限度があるし、なんとかお客が呼べそうなゲストを確保しないと……
思わず、大きなため息が漏れる。
するとあんなは、不服そうに唇を尖らせた。
酷いです! 最近はテレビの効果もあって、知名度が上がってきてるって里見さんは言ってくれましたもん!
…………あの結末で?
私は、あんなから目を逸らし、テレビのリモコンを手に取った。
みかん箱の上に置かれた液晶テレビの電源を入れ、HDDに録画してある例のドラマのデータを呼び出す。
チャプターでクライマックスシーンを選択し、再生ボタンを押した。
陸の肩に手を乗せ、背伸びをして顔を近づけていくあんな。
ぅ~~~~……
しかし勇気が出ず、ぎゅっと目をつむったまま動けなくなってしまう。
そんなあんなに陸は小さく苦笑して、
大丈夫だ
と励ますように囁いた。
あんなはおそるおそる目を開き、上目遣いで陸を見つめる。
すると応えるように、腰に回されていた手が優しく背中を叩いてくれた。
それらの仕草に勇気づけられたあんなは、再び目を閉じる。
小さく息を吐き、意を決して陸へと飛び込んだ――。
ぐぁっ……!
ああああああっ、ご、ごめんなさい~~~っ!
勢いあまったあんなにキスではなく、頭突きを食らわされた陸がのけぞったところでエンディングが流れはじめた。
あはははは~
あんなは、目を逸らしてわざとらしく笑う。
深夜ドラマとはいえ、全国ネットでこんな失態が放送されるなんて……
明らかに失敗なのだが、監督が自然な演技でよかったと気に入り、そのまま使ってしまったのだ。
か、監督さんはあんなちゃんのこと褒めてくれて、また機会があったら呼びたいとおっしゃってくれたそうじゃないですか
放送後、陸ファンからクレームが殺到しているそうで、その機会は永遠に訪れなさそうですけどね……
あー……
ネットでも悪い意味で話題になったようで、多くの女性を敵に回したことは間違いない。
で、でも陸くんはラジオで面白い撮影だったってフォローしてくれてましたし……!
過激なファンは、それでもっと炎上したようだけれどね
うっ……
思いがけずドラマに出演したことで、確かにある程度の知名度は得ただろう。
けれど、正統派アイドルとしてはどうあがいてもマイナスイメージだ。
わかったでしょう? 今度のエントリーライブで、なんとか挽回しなければならないのよ! そのためには、そのためには……! ぐるるるるっ、何も思いつかないわっ
虎子さん、落ち着いて! うなり声が虎っぽくなっちゃってますよ!
煮詰まってしまっているようですし、一度気分転換した方がいいかもしれませんね
しかし、今は時間が惜しいです……
急がば回れって言うでしょう? ちょっと休んで甘いものでも食べれば、いい考えが浮かぶかもしれませんよ?
里見先輩の言うことももっともかもしれない……。
そう考えていると、あんなが何かを思いついたように手を叩いた。
私、いいお店知ってますよ!
ちょっと、私まだ行くとは……
あんなに腕を引かれ、里見先輩には背中を押され、半ば強引に出入り口まで連れていかれる。
じゃあ、いってきまーす!
いってらっしゃい。お土産買ってくるまで、帰ってきちゃダメですよー
いい笑顔の里見先輩によって、無情にも事務所のドアは閉ざされてしまった。
ほらほら、行きますよー
はあ……わかったわ
あんなに連れられてやってきたのは、事務所の程近くにある喫茶店だった。
小さな店構えだが、洋風で豪奢な外観をしている。
入り口前のブラックボードには、『喫茶ぷらんく』と記されていた。
こんなところに、喫茶店があったのね
小さいお店ですけど、テレビ局やスタジオにケータリングもしていて、美味しいって評判なんですよ!
へえ……
木製のドアを引くと、カランカランと鐘の音が響いた。
いらっしゃいませ! あ、あんなちゃん!
店の中に入ると、元気な声と共にアルバイトらしい少女が駆け寄ってきた。
どうやら、あんなの知り合いらしい。
こんにちは、天音ちゃん
今日は一人じゃないんだね
はい! 私のマネージャーの月城虎子さんです。虎子さん、こちらは葛城天音ちゃん
紹介されたので小さく会釈をすると、天音と呼ばれた少女は不思議そうに目を瞬かせた。
あれ……前にどこかで会ったことがあるような…………あっ! 虎子さんって、先月、水族館の前にいませんでした?
確かに、水族館へは行ったけれど……
やっぱり! パンケーキの配達へ出向いて警備員さんに止められちゃったときに、目が合ったお姉さんですよね?
そう言われて、私は改めて天音の顔を見つめる。
可愛らしい顔立ちをしているが、これといって特徴のない――言ってしまえば、目立たない少女だ。
そういえば、警備員と揉めている人がいたような気がするけど……ごめんなさい、よく覚えてないわ
そ、そんなー……
ふふっ、天音さんは相変わらず芸能人オーラが皆無ですわねー
がっくりと肩を落とした天音のうしろから、今度は見覚えのある少女が歩み寄ってきた。
あなたは確か……EARTH・RAYの神楽柚希?
あら、私のことはご存知なのですね
えっ、柚ちゃんのことは知ってるのに、私のことはわからないんですか?
何故かショックを受けたような顔をしている天音に戸惑いつつも、私は頷く。
仕事で一緒になったことはないけれど、女優として出演している作品をいくつか観たことがあるの。特に二丁拳銃でゾンビを倒しまくるアクションは圧巻で、印象に残っているわ。ラストシーンの、バールで巨大ゾンビを仕留めるのはやりすぎだと思ったけど
優秀なマネージャーさんに覚えていただけているなんて、光栄です。ありがとうございます
柚希ちゃんは、最近でもよくテレビに出てますもんね
朝の連続ドラマに出演させていただいているおかげですわ。今日も、その撮影が終わってから、こちらに立ち寄ったんです。そうそう、ドラマといえば……先日は透子さんが大変お世話になりました
丁寧に頭を下げられ、あんなは首と両手をわたわたと横に振った。
そんな……! むしろ、私が代わりになったせいで変な終わりかたになっちゃって申し訳ないというか……!
先ほど見返したばかりだからか、一応気にはしていたらしい。
もう体は大丈夫なのかしら?
ええ、体の方はすっかり。今、奥の席で作業していらっしゃいますわ
手のひらで示された壁際の席には、大きなヘッドホンをつけて、ノートに向かっている透子の姿があった。
どうやら私たちが来店したことには気づいていないようだ。
よろしければ、声をかけてあげてください。迷惑をかけたと気にしていましたから
柚希に促され、私とあんなは奥の席へと歩み寄った。
真うしろに立っても透子は気づくことなく、小声で何かを呟きながらノートにペンを走らせている。
そっと覗き込んでみると、歌詞らしき文章が書かれていた。
……雨が止むことは永遠にない……もう二度と取り戻せない光……あなたのいない世界なんて壊れてしまえばいいのに……
く、暗い……失恋の歌でしょうか……
そんな話をしていると、さすがに気づいたらしい透子が訝しげな表情で振り返った。
えっ……虎子さん!? あんな!?
私たちと目が合うなり、透子は椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がった。
先日は、ご迷惑をかけてすみませんでした!
大きく頭を下げた透子の耳からヘッドホンが外れ、床に落ちる。
練習にまで付き合ってもらったのに、私……
あなたが一番悔しかったってわかっているから、そんなに気に病まないでちょうだい
そうですよ。元気になったみたいで、よかったです
あんなが床に落ちたヘッドホンを拾い上げ、透子に差し出す。
顔を上げた透子は、涙の滲む目を眩しそうに細めた。
虎子さん……あんな……ありがとう
お礼の言葉に被さるように、シャッター音が響いた。
え、何……?
音が聞こえた方を見やると、柚希が透子のノートにスマートフォンを向けていた。
ちょっと! 何してるの!?
柚希へ手を伸ばした透子だったが、軽やかな身のこなしでかわされてしまった。
さらに追いかけようとしても、柚希はひらりひらりと舞うようにテーブルの間をすり抜けていく。
可哀想な透子さん……こんな恨みつらみに溢れた歌詞を書くなんて、ドラマに出られなかったことが本当にショックだったんですわね……
口元が笑ってるわよ! そんな写真撮ってどうするつもり!?
せめて透子さんのこの力作だけでも、日の目をみせてあげようかと……
やめてー! それは個人的に書いてた詞なのよ!
ならば、みなさんに見せてもなんの問題もありませんわね
言い合いを繰り広げながら、二人は狭い店の中、追いかけっこを続けている。
止めなくていいのかしら……
まあ、今は他にお客さんもいませんし。あの二人、ああなっちゃうと止められないんですよね……
そんな無責任な……
店員がそれでいいのかと、軽く睥睨する。
そのとき、天音とあんなから同じ通知音が響いた。
聞き覚えのあるその音は、私も利用しているメッセージアプリのものだ。
ん? 柚ちゃんからメッセージ?
私のところにも……っていうかこれ、グループで届いてますね
自分のスマートフォンを確認した二人は、ほぼ同時に「あっ」と声を上げた。
どうしたの?
それが……これ……
天音が見せてくれたのは、『アイドル部屋』というグループメッセージの画面だった。
そこには、先ほど柚希が撮影したであろうノートの写真が、はっきりと歌詞が読み取れる鮮明さで載せられている。
さらにその下には、小夜子という人物からの『素晴らしい歌詞なので拡散します』というメッセージと、柚希の『お願いしますね♪』のスタンプが続いていた。
これは……止めなくていいのかしら……
たぶん、もう手遅れかと……
あ、透子ちゃんが気づいちゃった
あんなの声に、顔を上げる。
テーブルとテーブルの間の狭い通路に、スマートフォンを手にしゃがみ込んでいる透子と、その頭を優しく撫でている柚希の姿があった。
鬼ごっこは、鬼の勝利で幕を閉じたらしい。
どうもお騒がせいたしました
うう……
透子ちゃん、よしよし
一旦落ち着こうということで、私たちは六人がけの大きなテーブルに移動していた。
奥の席に私とあんなが、向かいの席には柚希、天音、透子が並んで腰を下ろしている。
店員の天音まで座っていていいのだろうかと気にはなかったものの、未だ落ち着かぬ様子を透子のためには必要な存在のようだ。
改めまして、私たち、愛と元気の力で地球を救うというコンセプトのアイドル、EARTH・RAYです……とは言っても、アイドリズムの崩壊と共に事務所のアイドル部門が閉鎖されてしまって、実質上は解散という状態ですが……
以前は人気ユニットだったEARTH・RAYまで、こんなことになっているなんてね……
なんでEARTH・RAYのことは知ってるのに、私のことはわかってもらえないんでしょう……
しょんぼりと俯く天音の頭を、柚希が慰めるように撫でる。
天音さん、影が薄いですから……
フォローになってないよお……
私は女優部門に移動、透子さんは歌手部門で作詞活動やラジオパーソナリティのお仕事をもらっていますが、天音さんは芸能人オーラがなさ過ぎるせいでどの部門のお仕事も振ってもらえず、今ではすっかり普通の高校生です
心はまだEARTH・RAYだもん……
どうやら天音は、EARTH・RAYに多大なる未練があるらしい。
他の二人も、実質上解散という状態を歯痒く感じているように見受けられた。
私も、アイドル業界の現状は嘆かわしいと思っているけれど……でも……EARTH・RAYってアレでしょう?
アレ、とは……?
あの1 million musicのイロモノアイドルの、宇宙人とかロボットとか妖精の類でしょ?
ぶふっ!
隣で大人しくしていたあんなが、突然お茶を吹き出した。
ちょっと何してるの。お茶くらい落ち着いて飲みなさい
だって! 虎子さんが……!
何かおかしなことでも言っただろうか。
首を傾げつつ正面に向き直ると、EARTH・RAYの三人が愕然とした表情でこちらを見ていた。
どうしたの?
イ、イロモノじゃないです!
声をかけると、最初に我に返ったらしい天音が身を乗り出して抗議してきた。
うちの事務所は、1 million musicじゃなくて真木プロダクション! 私たちは戦隊系アイドル、アースレイ! なんですよ!
その場で決めポーズらしきものをしながら名乗りをあげてくれたが、私には何が違うのかよくわからない。
やっぱりイロモノじゃない
ちーがーいーまーすー!
天音が地団駄を踏んだのとほぼ同時に、ドアベルが鳴った。
まあ。天音さんの怪獣のような地団駄でドアベルが……
か、怪獣じゃないよ!
突っ込むところはそこじゃないような……
お客さんみたいですよ
出入り口の前に立っていたのは、小学生くらいの男の子と女の子の二人組だった。
天音ー、連れてきたぞー
おにいちゃんつかれたー……あ、ショートケーキだ! あたし、ケーキたべたい!
ケーキは夜って、母さんが言ってただろ
えー、ケチー
ショーケースに収められたケーキを前にわがままを言っている女の子の姿が、パリで面倒を見ていたお嬢様アイドルと少し重なって見えた。
あの子もパティスリーの前を通る度に立ち止まっては、甘いものが食べたいとわがままを言っていたな……。
ぼんやりと数ヶ月前のことを思い返していると、
あー、もうそんな時間だったんだ!
と天音は焦ったような声を上げ、男の子たちのもとへと駆け寄った。
膝をついて目線を合わせ、両手で二人の頭をそれぞれ撫でる。
いらっしゃい。今日は来てくれてありがとうね。迷わずこれた?
とーぜんだろ!
……おにいちゃん、このひとだれ?
天音はなー……
妹に説明しようとした男の子の口に、天音はそっと人差し指を当てた。
しー。後のお楽しみね
男の子は少し顔を赤くして、こくこくと頷く。
幼い兄妹を、天音は店の奥の席へと案内した。
すぐ準備するから、ここに座って待っててね!
そう言い残すと、今度はカウンターの裏の扉へと駆け込んでいく。
さて、私たちも仕度をしなくては……
何かあるんですか?
今日は、ミニライブをすることになってるの
ミニライブって……EARTH・RAYの?
もちろん、それしかありませんわ
お店で、いつもそんなことをしているの?
ただの喫茶店ではなかったのかと驚く。
そんな私を見て、柚希は小さく笑った。
今日は特別、ですわ。せっかくですから、虎子さんたちも見ていってくださいな
照明を落とした、店内の奥。
小さなお立ち台の上に、三人が姿を現した。
パッと間接照明が灯り、お立ち台周辺だけを明るく照らす。
アースレイ・レッド! 葛城天音!
アースレイ・ブルー……一ノ瀬透子
アースレイ・グリーン♪ 神楽柚希
愛と元気の力で地球を救う全力救世主アイドル! アースレイ!
~ つづく ~