その後、私はMI6のお姉さんが撮ったというビデオを観た。

 そこには、私たちがCIAのお姉さんの立ち合いのもと、立ちバックにいそしむ姿があった……ーー。

CIAの工作員

立ちバックよ

 お姉さんは飛びっきり顔でそう言った。

 それから私たちに向かって、

CIAの工作員

ペアになって、立ちバックのポーズをとってね

 と言った。

 小夜が私の後ろにまわって、私の腰をつかんだ。

 CIAのお姉さんは、いつきの腰をつかみながら言った。

CIAの工作員

性に関心をもつのは、それが謎めいているからよ。だから実際にやってみればいい。そうすれば意外とさめるものなのよ

だから女の子同士で?

CIAの工作員

そう。友達とこうやって面白おかしくしてみるの。もちろんマネだけよ。股間にオモチャとかをつけずに、ただこうやって腰を振って遊ぶだけ

あはは

CIAの工作員

そうそう、笑いながらやるのよ。ほんとバカバカしいけれど、でも、『なんだ、たいしたことないや』ってエッチのことを思えるようになるわよ

 お姉さんはそう言って、いつきの腰を乱暴に引き寄せた。

 いつきは、くすぐったそうに身をよじって笑っていた。

でも、なんで立ちバックなんですか?

CIAの工作員

ベッドがなくてもできるでしょ?

そっか

CIAの工作員

それに、ほかの体位だと妙な雰囲気になっちゃうかもしれないし

あはは

CIAの工作員

その点、立ちバックはどことなくコミカルだから安心よ

ははははは

 私たちは、ぎこちない笑みでうなずいた。

 それから、しばらく立ちバック・ゴッコを楽しんだ。

ほらほら、智子ォ。もっとお尻を突きだしなよお

やめてよお

 小夜は、ノリノリで私の腰を引っ張った。

 私のお尻に、自身の腰を何度の叩きつけた。

 といっても、小夜の股間にはなにもなく、別に痛くもかゆくも気持ちよくもなんともなかった。

 だけど、後ろから腰を両手でつかまれた状態というのは、自由がきかなくて、それはひどく屈辱的だった。

 私は、しばらくの間、完全に小夜に支配されていた。

 すごく、くやしかった。


 ビデオに映った私は、あまりにも情けない姿をしていた。

 そして小夜は、すごく楽しそうな顔をしていた。


CIAの工作員

交代しましょう

 CIAのお姉さんが朗らかに言った。

 いつきが息をきらせてやってきた。

 笑いすぎて、ほっぺたが桜色になっていた。

智子おねがい

 いつきはそう言って背を向けた。

 トレーニングマシンに手をついて、前屈みになった。

 お尻をくいっと突きだした。

 ああ、なんという艶めかしさ。


 おまえは本当に女子中学生なのかよーーと、思わずお尻をひっぱたきそうになった。


 だけど、なんとか思いとどまった。

 それでも腰をつかむ手に力が入ってしまった。

あぁんっ

 いつきは嬉しそうな声をあげた。

 私は、即座にツッコミを入れた。

 手を伸ばして思いっきり後頭部をひっぱたいた。

 まるでコントのような、とても気持ちのいい音がした。

もう

 いつきがくやしそうな顔をして、首をねじむけた。

 うらめしそうな目で私を見た。

 私はクスリと笑うと、乱暴に腰を引っ張った。

 立ちバック・ゴッコをはじめたのである。

智子、激しいよお

悦んでるくせにぃ

 私は完全なる、いつきの支配者だった。

 いつきはトレーニングマシンに手をつき、ぐったりしていた。

 背中が思いっきり反っていた。

 あごをあげて、どういうわけか息を切らせていた。


 私はひたすら腰を叩きつけていた。

 いつきは懸命に身をよじって抵抗したけれど、しかし、私のなすがままだった。

 私は大いに支配欲を満たされた。

 しばし全能感に酔っていた。

ああん

 いつきがエロい声を出すと、私はお尻をひっぱたいた。

 それはお姉さんから言われていたことだった。

CIAの工作員

あくまでコミカルに! すこしでも妙な雰囲気になったらお互い注意しあうのよ

 だけど私がいつきを叩く本当の理由は、おそらくは嫉妬だった。

くぅん

 いつきのお尻はエロかった。

 くねらせかたもエロったけど、そもそも、かたちがエロかった。

 私はそんないつきの発育のよさに嫉妬した。

 いつきのお尻をひっぱたく私の瞳には、蒼白い陰湿な炎が宿っていた。


 その表情がよく撮れていた。

 このときの私の顔は、ひどく残忍で、嗜虐的で、くやしそうで愛おしそうで、そしてあまりにも悦んでいた。

 いつきの腰を後ろからつかみ、自由を奪い、ひたすら腰を叩きつけて見下ろす私は、サディスティックな笑みをしていた。


 事実、このときの私は快美に酔いしれていた。

CIAの工作員

交代よ!

 このお姉さんの声で、私は我に帰った。

 手を放すと、いつきは上体を起こした。

 くやしそうな、それでいてどことなく嬉しそうな顔で、いつきは私に詰め寄った。

 私は後ずさった。

 壁に追いつめられた。

 と、いつきは笑顔で壁に手をついた。

 私をひっくり返した。

ちょっとお!?

今度は私の番だよお

 いつきはそう言って、私を壁に押しつけた。

 私は壁に、ほっぺったをくっつけた。

 手をついた。

 そんな姿勢の私に、いつきは後ろからおおいかぶさった。

 手を私の腰にまわし、おへそのところで交差させて、いつきは私の背中に体を密着させて、耳元でささやいた。

じっくり、いたぶってあげる

 いつきはそう言って、私の後ろから頬(ほほ)をぴたりとくっつけた。

 微笑んだいつきは、痴女というよりも淫魔だった。


 私はこれが遊びだということをしばし忘れた。

 絶望的に支配されたこの姿勢に、私はツバをのみこんだ。

うふ

 いつきは、そんな私に満足すると腰をふりだした。

 それは下から突き上げるような、しかし、ねっとりとこすりつけるような運動だった。

だめ

 私は、激しく蹂躙(じゅうりん)されたわけではない。

 じっくりと時間をかけて侵蝕(しんしょく)されたのだ。

だめっ

 私はただ壁に手をつき、どうすることもできず、じわじわと屈服させられた。

はあ……はあ……

 そのときの私の顔は、あろうことか、たしかに淫びで、ひどくみだらで、間違いなく悦んでいて、そして少しだけオトナに見えた。

 ……ーー私はビデオを止めた。

 ハンディカメラの電源を落とし、布団に飛びこんだ。

 消灯時間のすこし前、寝具店のベッドである。

 一緒に寝るのは、MI6のお姉さんだった。

もう、なんで撮影してるんですかあ?

MI6の諜報員

だって面白かったんだもん

こっそり隠れて、お酒を飲みながら観てるとかひどいですよ

MI6の諜報員

あはは

まったく。なんで撮影までしてるかなあ

 私は大げさにため息をついた。

 すると、お姉さんは可愛らしく舌を出した。

 それから開き直ってこう言った。

MI6の諜報員

記念になるかなって思ったんだよ。若いころのバカやってる映像や写真ってさ、後で見ると結構楽しいんだぞ

じゃあ、お姉さんも中学のころ撮影したんですかあ?

MI6の諜報員

あはは、するわけないじゃん

 お姉さんは、あっけらかんと言った。

 私は、たしなめるような目で見て、それからぶっちゃけて言った。

あの、地味に性格悪いですよね

MI6の諜報員

だって英国スパイだもん

そういうのよく分からないんですけど

 それに理由になってないような気もする。

 だけどお姉さんは、そんな私の不満顔に気づいた様子もなく、話を続けた。

MI6の諜報員

MI6は、ミリタリー・インテリジェント・シックス。イギリス情報局秘密情報部の通称だ。まあ、ジェームズ・ボンドだよ

ああ、あのダニエルなんとかってオジサン

MI6の諜報員

私は、ブロスナンのスケベな笑みが好きなんだけどね。って、あまりこういう話をしていると歳がバレちゃうのだけれども

はあ

MI6の諜報員

ちなみに、トモメ・ヤマイダレはムーア・ボンドが好きだって。こう、常に女の子のお尻をさわってるとことか最高だってさ

ちょっと、さわらないでください

 私は、お姉さんの手をぺちんと叩いた。

 お姉さんは、きゃっとわざとらしく身を引いて、それからイタズラな笑みをした。

MI6の諜報員

あはは冗談だよ。キミたちには手を出さないよ。ヤマイダレに怒られる

ほんとですかあ?

MI6の諜報員

ヤマイダレは世界大戦を生き抜いたスパイだ。しかも何度か冷凍睡眠から目覚め、米ソ冷戦時代も経験している。我々とは違うホンモノだよ。敵にまわしたくない

そんなふうには見えないけどなあ

 私は、ぼんやりつぶやいた。

 ちょうどそのとき、電気が消えた。

 私たちは布団に入った。

 眠ることにした。



 ぼんやりと天井を見ていると、お姉さんが言った。

MI6の諜報員

セックスする?

するかっ!

 なかば無意識でツッコミをキメた。

 するとお姉さんは腹をかかえて笑い出した。

 それからしばらくの後、お姉さんは存外冗談にも聞こえなくもない、そんな調子でこう言った。

MI6の諜報員

したくなったら、いつでも言ってね

pagetop