翌朝。
私といつきはジムに行った。
小夜を訪ねた。
小夜は、布団でぼんやり着替えていた。
お姉さんたちは、いなかった。
たぶんモール散策に出かけたんだと思う。
翌朝。
私といつきはジムに行った。
小夜を訪ねた。
小夜は、布団でぼんやり着替えていた。
お姉さんたちは、いなかった。
たぶんモール散策に出かけたんだと思う。
小夜おはよう
おはよう
私といつきはそう言って、小夜に抱きついた。
ぎゅうっと抱きしめた。
小夜は、ぎこちない笑みをした。
なんだよ、どうしたんだよお
あのね、小夜。私たち昨日の夜ね、ぎゅうってしちゃったの
だから小夜もぎゅうってするの
えっ、うん
ずっと3人で親友のままでいたいから、だから同じことするの
うん、それは分かったけれど
小夜はそう言って、スケベな笑みをした。
私といつきの顔を交互にまじまじと見た。
あっ、うん。いいよ
なんだよ、小夜ォ?
いや別に
急に素っ気なくなって。もうハッキリ言ってよお
ううん、だってなんかマジっぽいんだもん
だーかーらあ、そんな感じになっちゃったんだってえ
うーん。まあ、いいんじゃない?
小夜は、あっけらかんとそう言った。
だけど私たちの表情を見て、顔をこわばらせた。
やがて言った。
抱き合った後、まだ何かあるの?
うん
パンツ脱いだの?
脱ぐかっ!
もう、なにそれえ
なんだあ
なんだじゃないよお
でもね、小夜
精神的には、パンツを脱いだようなもんだよ。
私はそう心でつぶやきながら、小夜の目をじっと見た。
小夜は私の表情を正しく読みとった。
じゃあ、私はなにすればいいんだよお?
……キス
わりとマジなやつ
私といつきは真剣な顔をして、ひざを詰めた。
すると小夜は、ぎこちない笑みであごを引いた。
そして言った。
うん、分かった
私たちの真剣味に、ちょっとついていけないというような、距離感のある言いかただ。
なによ小夜ォ
私たち真剣なんだからね
私といつきはそう言って、ぷっくらとほっぺたをふくらませた。
すると小夜は、私たちの肩を抱いた。
ぎゅっと抱きしめ、ほっぺたをくっつけた。
そうやって、ぼうっとしたままの私たちのほっぺたに、
あっ
あっ
続けざまにキスをした。
キスしたよっ
小夜は立ち上がると、イタズラな笑みでそう言った。
ちょっと!
もう!
私といつきが詰め寄ると、
ちゅぱっ
今度は、大らかにくちびるを吸った。
私もいつきも口をぽっかり開けたままだった。
これで好いでしょ?
うっ、うん。でも
ずいぶん思い切りがいいんだねえ
犬とキスしたと思えばいいんだよお
なにそれえ?
ちょっと、ひどくない?
だってそう思うしかないじゃん
でもっ
それとも3人で恋人同士になるう?
ぐぬぬ
私といつきは言葉を詰まらせた。
だけど、しばらく考えたのちに、小夜の考えかたに賛成した。昨晩のことは、そう思うのが一番だ。そういう心の置きかたがオトナな対処のしかただと思った。
まあ、犬とキスしたにしては、愛犬家も顔負けの、全身全霊をぶつけ合うようなじゃれ合いかただったのだけれども。
じゃあ、これで今まで通りだね
うん
うん
私、これからお姉さんに護身術を教えてもらうんだけど、2人もやる?
えっ、うん
やろう
私といつきは、うなずいた。
格闘技はやりたくなかったけれど、それでも運動不足は感じていたのである。
じゃあ3人ね
えっ?
振り向くと、そこにはCIAのお姉さんがいた。
お姉さんはヘアメイクを終えて、ちょうど戻ってきたところだった。
※
私たちは、CIAのお姉さんとジムの真ん中で相対した。
お姉さんは言った。
まず初めにーー。CIAについて誤解があるようだから、説明しておくわね
うん
CIAは、セントラル・インテリジェンス・エージェンシー……アメリカの中央情報局よ。私はそこの工作員なのだけど、なんとなくアメリカ海兵隊と勘違い、もしくは混同しているような気がするから、まず初めにハッキリさせておくわね
違うんですか?
アメリカ海兵隊は、筋肉もりもりの体育会系。一方、私たちは文官よ。戦うことはあるけれど、銃や格闘がメインじゃない。理想はイスに座ったまま勝利することね
それじゃあ……
でも大丈夫。基礎訓練は受けてるわ。あなたたちは、まずそのレベルをクリアしたらいいんじゃない?
お姉さんはニコヤカにそう言った。
私たちは大きくうなずいた。
じゃあ私に続いて
はいっ
なんかエアロビみたいですね
あまり護身術って感じじゃないです
だって護身術じゃないもの
きっぱりと、お姉さんは言った。
私たちは、いっせいに眉をひそめた。
この訓練のポイントは、運動しながら思考すること。激しく動いてる最中でもクレバーな判断ができる、そうなるための訓練よ
なるほど
だから会話しましょう。動きながらしゃべりましょう。もちろん、よく考えながら話してね
お姉さんは、笑顔でそう言った。
音楽にあわせて体を動かしながらである。
私たちは、とりあえず動きをマネすることからはじめた。
しばらくすると、お姉さんが聞いてきた。
あなたたち、セックスに興味ある?
えっ? ずいぶんと直球ですね
あら、ごめんなさい。日本の言語感覚はどうにも難しくて……メイク・ラヴのニュアンスは『エッチ』が近いのかしら?
うーん。よく分からないですけど
そっちのほうが、まだ抵抗がない。
あなた、ずいぶんと夢にうなされてたわね?
えっ、まあ
ドギー・スタイル……バックに興味があるようだけど?
それはヤマイダレさんが好きだって言っていたから
彼女が大好きなのはスタンディング・ドギー、いわゆる立ちバックよ
それって違うんですかあ
いつきが無邪気に聞いた。
するとお姉さんは、
えぇっ!?
さすがアメリカ人ーーって感じのオーバーアクションで驚いた。
それからすぐに、
えっ、ええ。そうね、だいたい同じよね
と、愛想笑いをした。
ちょっと、気になるんですけどお
そんなに違うんですかあ
いよいよ謎が深まったんですけれど
私たちは、たたみかけるように言った。
すると、お姉さんはぎこちない笑みでうなずいた。
それから大きく息を吐いた。
そうやって気持ちをリセットした。
お姉さんは、おだやかな笑みで言った。
そうね、このままじゃ気になるものね。ちょっと話が脱線気味に長くなるけれど、それでも好いなら話しましょうか
うん
やった
ありがとうございます
アメリカってね、開放的なイメージがあると思うけど、実際はそうでもないの。もともとピューリタンが移民してできた国家だし、禁酒法をやった国だしね
はあ
それは性についても同じなの。私の生まれ育った州では、未成年の飲酒と同じくらい、未成年のエッチは嫌悪の対象よ。保護者は軽蔑されるし罪の意識も強い。そもそも宗教が婚前交渉を禁じているしね
そうなんですか?
私たちが大声をあげると、お姉さんはうなずいた。
その一方で、恋愛は盛んよ。あなたたちの歳には、みんな交際相手はいるし、親に紹介しているわ。まあ、そこはイメージ通りにオープンよ
※あくまで個人の感想です
でね、『交際するけどエッチは禁止』っていう十代がアメリカにはあふれているのだけれども。もう、彼氏なんか肉ばっかり食べてるから性欲旺盛なのよ
あはは
ほんと、いつも彼氏が鼻息荒くしてるのよ。で、そんな彼氏と一緒にいるものだから、女も影響されて性に興味がわいてくるわけで
あー
あなたたちは、痴女に囲まれたからよく分かるでしょう?
うーん
私たちは、ひどく実感のこもったため息をついた。
いわゆるこれが『セックス&レリジョン』……性衝動と信仰の対立よ。こういった悩みをアメリカの十代は、みな抱えているの
じゃあ
みんなどうしてるんですか?
我慢できるんですかあ?
私たちはお姉さんに詰め寄った。
するとお姉さんは、飛びっきりの笑顔でこう言った。
そこで立ちバックよ
私たちは、いっせいに首をかしげた。