三之丈さんがどうしたんですか!?

はい、ともかく一大事にございます!

えっ!? 一大事!?

さぁ、早く姫さまご一緒に!!

私がどうしたら良いか戸惑っていると……。

どうぞ、行って下さい

二之継さんはそう言って微笑んだ。

は、はい……
あの、ありがとうございました!

すごく楽しかったです!!

いえいえ、私の方こそ……

そうだ里沙さん

はい?

私は、アナタを誰にも渡すつもりはありませんから……

たとえ、兄だろうと弟だろうと……

えっ……

もちろん、結婚は里沙さんの自由ですから
強要は致しませんが……

は、はい……

次は、きっと理性が保てませんから覚悟していて下さいね

二之継さんは人差し指で私の唇にそっと触れた。

あっ……えっと……

心臓がドキドキしている。

私を真っ直ぐ見つめて来る二之継さんから視線が逸らせない。

いってらっしゃい

ささ、姫様!

狐面さんに急かされ、私は二之継さんにお辞儀すると走り出した。

図書館を出て、少し行くと公園のような場所に来た。

大きな噴水とベンチがいくつかある大きな広場だ。

こちらでございます、姫様

見ると、噴水の下には何か白く長い箱が置かれていた。

これは……?

まさか、棺……?

綺麗な白い箱の中には、眠っている三之丈さんと色鮮やかな花が溢れるほどに入っていた。

…………

さ、三之丈さん!?

スーっ……スー……っ……

これって……寝てる……んじゃ?

うぅっ……
ワタクシが不甲斐ないばかりに

三之丈様に眠りの呪いがかけられてしまったのでございます……

眠りの呪い!?

三之丈様の眠りを覚ますには、姫様のキスしか方法がありません

えっ!?
キ、キスっ!?

なにそれ、白雪姫!?

それとも眠り姫?


なんで、そんな急に三之丈さんに呪いが?

キスですよ~姫様

えっ、でも、そんな……

キ~ス、あっ、それキ~ス……

なんか手拍子まで打ち始めたんだけど……。

んっ……?

んんっ……

すると──

キスをする事もなく、三之丈さんは箱の中で目を覚ました。

あの……キスしなくても起きましたけど?

そのようですね

一体、なんの為にこんな事を?

…………ピ~♪
ピピッ~♪

二助さん!?

ワタクシ三助にございます

…………

ワタクシ、少しでも三之丈様のお力になりたかったのでございます……

ヨヨヨ……

なんか、泣いてる……

だからってその、無理矢理キスさせようとか……

……ゴメン、僕のせいだ

三助を責めないで……

へっ?

あっ、いえ、別に責めてるワケではないので……

申し訳ありません! 三之丈様っ!!

ワタクシ三之丈様が心配で心配で少しでもお力になりたくて……

うん……

三之丈様は三人の中でも一番お優しく
物静かなお方……

お一人では心配で……

そうだったんですか……

その上、お兄さま方と違い三之丈様は誰よりも女性に奥手でコミュニケーション能力ゼロ!

そしてすこぶる…………変人ですから!

この人……

三之丈さんをほめたいの?

けなしたいの?

大丈夫だから……心配しないで……

三之丈さまあぁ~!!

さっ、僕の番でしょ?

行こう里沙……

あっ、はい……

泣き崩れる三助さんを尻目に、私は三之丈さんに手をひかれ歩き出した。

さて、どこに行こうか……

どうやら、三之丈さんは一之臣さんや二之継さんと違って、行きたい場所が決まっているわけでは無いようだ。

里沙、どこか行きたい場所は……?

少し小首を傾げ、私の顔をジっと見つめる。

少し甘えたような可愛らしいその表情に、思わずドキっとさせられてしまった。

えっ、えっと、そうですね……

いつも三之丈さんが行く場所とか……は?

いつも……行く場所……

三之丈さんは少しの間俯いて考え込み、やがて何か思いついた様に顔を上げた。

動物……好き?

動物ですか?

はっ、はい好きですよ

じゃあ、行こう……

行き先が決まると、三之丈さんは足早に歩き出す。


公園を抜け、大通りに出る。

人通りが多いので、私は少し一之臣さんの時の様な事になるのでは?と不安になった。

あっ、あの……三之丈さん

何……?

あまり、人通りの多いところは行かない方が……

どうして……?

その……
また騒ぎになってしまうかもしれないですし……

ちょうどその時、私たちの隣を若い女の子たちが通った。


しかし、ナゼなのか一之臣さんの時の様な反応はない。

えっ?

ど、どうして……

一之臣さんだけがやたら人気があるとか?


ううん、そんな三之丈さんだって目を見張るほどの美形だもの、女の子がほっておくとは思えない。

納得がいかず思い悩む私の肩を、ツンと三之丈さんがつついた。

里沙……見て

三之丈さんはスっと目の前のショーウィンドウを指さす。

するとそこには──


狐がいた。

…………

これは……?

ステルス……

ステ……ル?

僕の特技、里沙以外には鏡の中の姿で見える

そうなんですか?

だから、大丈夫……

騒がれたりしない……

ガラスに映るキツネと、三之丈さんを幾度か見比べて私は先を歩き出す三之丈さんの後を追った。


しばらく大通り沿いを進み、やがて緑に囲まれた自然豊かな場所に辿り着いた。

ここは……?

動物園……

動物園……ですか……

入り口のような門扉には看板がかかっているが、見た事も無い字で全く読めない。

行こう……

再度手を引かれ、私たちは中へと進んだ。

あっ、里沙

ほら……見て、緑いろの……

ウジュル……ウジュル……

あっ……はい

大きな檻に、いつもの緑色さんが一匹……。

あっ……緑いろの……

はっ、はい……

ウジュル……

ウジュル……ウジュルッ

今度は、サル山みたいなとこに緑色さんが二匹。

ウジュル……ウジュル……

ね、緑いろ……

…………

もう檻とかじゃなく、普通に歩く緑色!

ウジユルン……

ウジュルジュルッ……

緑いろ……

あっ、あの~……

ここには他の動物はいないんですか!?

あれ、緑色さんって動物なの?

大体どういう生き物??

いるよ……

ほ、他の動物が見たいんですけど……

わかった……

私は三之丈さんの後ろをついて歩き

やがて……


大きな湖のある場所が見えて来た。

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