森に囲まれた大きな湖、どこまで続いているのだろうか……。


底まで見通せる透明な水面はキラキラと輝いて、七色の魚が宝石みたいに煌めきながら泳いでいる。

まるで絵画のようだ。

ほら……あそこにいる……

そう言って三之丈さんが指さす先には──

クスクス……

うふふ……

上半身は女の子、だけど下半身は深い青や金色に輝く鱗で覆われた尾びれ……


人魚がいた!!

に、人魚……!?

そう……

彼女たちは岸辺に腰かけ、その色鮮やかな尾ビレで水をかけあい遊んでいる。

ほら、あそこにも
人魚……

…………

あっ、アレも確かに人魚だけど

謎めいた生物もいるが、おとぎ話の様なその光景に私が呆然としていると──

…………

いつの間にか私の隣に、なんだかモジャモジャした妙な生物がいた。

えっと~……

…………

モジャモジャは無言で私を見つめていた。

こらっ………里沙がびっくりしてるよ

…………

えっ……そうなんだ……

三之丈さん、この生き物が言っている事がわかるの!?

…………

うん……でも里沙は食べ物じゃないから……

……………

今、さらっと恐ろしい事を言われた様な……。

いや、僕も食べ物じゃないよ……

…………

どんだけ、お腹空かしてるの!?

っていうか、三之丈さん逃げなくても大丈夫なんですか!?

うん……じゃあね……

モジャモジャは、くるりと後ろを向いて森の方へと帰っていった。

あの……今の生き物は?

イエティ……

イエティ……ですか……

僕らを食べ物だと思ってやってきた
みたいだけど……
違うって言ったら帰っていった……

そ、それホントに納得したんですか……?

うん……

多分

多分……

若干の不安を残しつつ、私と三之丈さんは湖沿いを歩いて行く。



お天気はいいし、気候もぽかぽかと暖かい。



こういうのんびりとしたデートもいいな。

さっき、ちょっとした命の危険もあったけど……

あれ……見て

三之丈さんが立ち止まり、私が言われた方へ視線を移すと──


綺麗な白馬がいた。


ただ、普通と違うのは大きな翼が生えている事。

もしかして……
ペガサス!?

……うん。

ここはふれあい広場だから、乗馬が出来るよ……

そういえば、ここ動物園なんだっけ?


普通の動物園でもうさぎとかポニーにふれあえるコーナーがあったりするけど……。

あそこにいる係りに言えば乗せてもらえる……

三之丈さんの指さす先には係員さんがいるという小さな木の小屋があった。

そうなんですか……


係り員さんか……


今までの流れでいくと……また緑色さんかな……

馬に乗りたいんだけど……

…………

……………………

私、係りの人にさっき食べられそうだったんですけど……!?

三之丈さんはイエティの係りさんの側に行くと、何か話してすぐ戻ってきた。

……乗っていいって……


そうですか……

あの……
今度は食べられそうにはなりませんでしたか?

大丈夫……里沙は食べ物じゃないって言っておいたから……

やっぱり
また、食べられそうだったんだ……

……行こう

私と三之丈さんは、ペガサスに近づいていった。


三之丈さんが手を伸ばすと、ペガサスは大人しく自ら頭を擦り寄せる。

やあ……はじめまして……

君に乗せてもらいたいんだ……


三之丈さんは優しくペガサスの頭を撫でた。


目を細めリラックスしているように見える。


どうやら三之丈さんは、動物と交流が出来るみたいだ。

僕らを乗せてくれるそうだよ……

そう言ったかと思うと、突然私は三之丈さんにお姫様抱っこで抱き抱えられた。

えっ!? あのっ……

…………

三之丈さんは、そのまま私をペガサスの背中に軽々と乗せた。

見た目は凄く華奢に見えるけど、じつは結構力あるんだ……

あっ……ありがとうございます……

…………

そして、また無言で私の後ろに飛び乗った。

僕がしっかり支えてあげるから……

後ろから両腕でギュっと抱きしめられる。

……はっ……はい!

背中に三之丈さんの温もりが感じられた。


男の人に抱き締められるなんて事が、初めてだった私には刺激が強い。



顔が熱くなり、脈も速まる。



けれど、なんだか不思議と安心する。

ペガサスの羽が上下にゆっくりと動き出し、一歩、二歩と前へ歩み出したその瞬間、フワリと体が浮いた。


そして、ペガサスは空中を歩き出した。


馬に乗った事が無いけど、多分普通の乗馬もこんな感じなのかもしれない。

美しい景色を見ながら、空中をゆったりと馬で進む。



優しい風が頬を撫でた。

気持ちいいですね

振り返ればすぐ、三之丈さんの顔が目の前にあって私はドキッとした。

……楽しい? 里沙

はっ! はい!

顔が熱くなるのを感じた私は、即座に前を向く。

そう……良かった……

三之丈さんの私を抱き締める腕に、力が入ったのがわかった。

三之丈さん?

……里沙は……覚えてないんだよね……?

えっ……?

僕らの……事……

あっ…………はい……

昔、私が三人に会っていたという封印された記憶。


もしかしたら、三之丈さんとも何か約束していたのかも……。

ゴメンナサイ……

……里沙が悪いワケじゃないから……

でも……

……そうだ……

三之丈さんは何か思いついたのか、ペガサスの首を撫でて方向転換し、湖の反対側の方へと進み始めた。

下りるよ……

しばらく進むと、ゆっくりペガサスは地上へと下りていき、私は先に下りた三之丈さんに抱き上げられてペガサスから降ろしてもらった。

ありがとう……

三之丈さんが体をそっと撫でると、ペガサスはそのまま空へ戻っていく。


私は美しく空を飛んでいくその姿に手を振った。

ココ……

着いた場所は、不思議な感じの建物だった。

ここに、里沙の記憶を呼び起こすヒントがあるかもしれない……

えっ……?

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