一服終えてきた小暮忍の第一声。

小暮忍

何だ、手が止まってるよバイト君。明日のパチ屋の閉店データチェック間に合わなくなるから早くまとめてくれない?たっぷり寝たわけだからさ

織原経華

…おばあさん、すいません。先ほどの発言を撤回してもよろしいでしょうか?

ばあさんはコクリと頷いてそのまま寝息を立てた。

かさやを後にした小暮と経華。

小暮忍

悪いね、遅くまで付き合わせて。これで帰りの電車賃足りるかい?

と1000円札を渡す小暮。

織原経華

申し訳ありません!明日必ずお返しします!何時なら空いてますか?

小暮忍

悪い。明日は朝からマイホールで新台入替初日だから手が離せない

織原経華

では明後日!

小暮忍

悪い。グランドオープン初日のパチンコホールがあって神奈川に遠征に行く

織原経華

明々後日

小暮忍

平和島のボートレースG1決勝だから外せないな

織原経華

…じゃあ来週の今日!競馬ありますよね?またあの喫茶店で待ち合わせ致しましょう!

小暮忍

悪い。そもそも競馬はそんなに得意じゃないから今日みたいな固いレースしかやらないことにしてるんだ。ヒマな時に馬券の払い戻しをして部屋のポストにでも封筒で入れておいてくれないか?その方が効率的だろ?君もまだ就活で忙しいだろうし

織原経華

その点はお構いなく!それよりも私の掟に反するんですよ!恩は熱いうちに返せ!

小暮忍

めんどくさいなあ。何にも掛かってないし

織原経華

と・に・か・く、今日という今日は譲りませんよ!?

小暮忍

会ってまだ二日じゃなかったっけ?君と俺。ったくまるで

と言いかけて小暮は止めた。

織原経華

まるで何ですか?どうせ小暮先生から見たら私はまるで赤子同然という事ですか!



『まるで粧子みたいな事言うよな』


と小暮は言いかけた。



しかし、

それを口にしたらばあさんのシナリオ通りになってしまうと思い躊躇った。


そして口惜しさ交じりでフッと笑った。


不思議そうにじっと見る経華に対して

小暮忍

何でもない。じゃあ、週末の夜にまた別の患者の予約が入ってるから。またバイト頼まれてくれるかな?その時にお金は受け取るよ。バイト代も払えたら払う

織原経華

イエス!払えたら、が気になりますけどおおむね納得は出来ました!

小暮忍

交渉成立だな。ここにあとで連絡先送っておいて。施術道具はそのまま俺のアパート前に置いといてくれればいいから。それじゃ、あとはよろしく

といい小暮は名刺を差し出した。


屋号には


やすだカイロ施術院

と書かれている。

織原経華

あれ?院の名前、どうして小暮じゃないんですか?

小暮忍

…まあ、なんていうか俺がこの屋号をは借りてるというか、継いでるというか

歯切れ悪く話す小暮に経華は違和感を覚えた。

織原経華

安田…粧子…先生?

小暮忍

まあ細かいことは追々気が向いたら話すよ。それじゃ、そろそろ店が閉まるから失礼する。荷物最後までよろしく。ああ、それとご褒美

小暮はポケットからシュガースティックのようなものを経華に差し出す。

織原経華

およよ何ですかコレ?疲れた体に甘いものとは聞きますけど、さすがに雑すぎやしませんか!?

小暮忍

確かに甘いけどシュガースティックじゃない。カルシウムサプリメントさ。カルシウムには骨の生成だけじゃなく、筋肉、血液、血管、神経の動きを作る。人間にとって一番大事な栄養素であって…あ、まずい店閉まるから続きはまた来週

織原経華

ええ!今日一番カイロプラクティックらしい事言いかけたのに!?

そんな経華のつっこみを遮るかのように逃げ去るようにその場を後にする小暮。

続く

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