社 優仁

すいません

綾女 剛孟





 そして辿り着き、社が声を掛けると……彼はコチラへ振り返った。



 だが。




社 優仁

……? ……あの、





 こちらを振り向くやいなや、


綾女 剛孟

……




 綾女は眉間に深くシワを刻んだのだ。




社 優仁

何だ? 実行委員なら一般客から何か質問されたりするだろ……。なのに何だこの反応は……




 実行委員長あるまじき態度、そう思った所で

社 優仁

(……あぁ!)




 気が付いた。


 そして、それをわかった上で話を進める。




社 優仁

すいません、綾女……剛孟君、ですよね?

綾女 剛孟

はい。そうですが

社 優仁

実は少しお話ししたいことがありまして。
こういう日でないと外部の人間が話すことなんて出来ませんし……少しいいですか?




 眼鏡は無くとも半分猫を被って笑顔で対応する。


 綾女も社に対しての不信感を露骨に出すことなく、しかし自身の仕事がある為返答に困っていた。


綾女 剛孟

ここでは出来ない話ですか?
例えば……大学の話とかでしょうか

社 優仁

いいえ。実は、あまり大きな声で言わないで頂きたいのですが……
僕、宍(しんかい)高校の教師なんです

綾女 剛孟

宍高(ししこう)?




 宍高校とは、社と向陽の所属している学校だ。



 武澤高校からそれほど距離も無く、互いの学校の生徒は知っているのもあり、綾女は一瞬考えを巡らせると他の生徒に声を掛けてからこちらへ向き直る。


綾女 剛孟

俺も忙しいので、少ししかお話し出来ないと思います。
それでもよろしければ……

社 優仁

あ、大丈夫です。ありがとうございます





 こちらへ、と案内されたのは一階隅にある生徒会室。



 その部屋で待機していたであろう生徒にも綾女は話を付けると、「会議中」の札を外に出して扉を閉めた。


 二人を座らせ、反対側に腰を下ろすと

綾女 剛孟

では




 と前置きをする。


綾女 剛孟

何の用ですか




 しかしその顔は決して穏やかなものではなく、はなから隠すつもりもないようで警戒と威嚇をこちらへ示してきていた。


社 優仁

いやあ……話が早そうで助かるな、その反応

綾女 剛孟

こういう態度をしても動揺しないということは、やっぱり何かあるのか……お前達

社 優仁

何かって言われてもな、用事は一つだけだ。向陽

向陽 眞桜

はい! 綾女剛孟君!
是非ともあたし達が今作っている組織、〝裏……

綾女 剛孟

断る




 机を叩くのと同時にバッサリと即答した。


 机を叩いた拍子に載っていたシャーペンがコロコロと転がったが、向陽は

向陽 眞桜

まだ途中なのに……

 としょぼくれている。




 社は変わらず、足を組み直した。


綾女 剛孟

お前達がどんな人間かはどうでもいい。だが、絶対に手を貸すことは無い

向陽 眞桜

な、何でですっ……


 か、という言葉は消えてしまう。




 抗議した向陽を突き刺す鋭い視線に、打ち負けた。



社 優仁

情報通り、堅いなぁ……何だよ。他校生だから許されないってか?

綾女 剛孟

無論だ

社 優仁

そもそもそんな組織に作ってやる時間も無い、と?

綾女 剛孟

俺はこの学校の治安維持と勉学、部活動もある。ただでさえ無い時間をくれてやる義理はない

社 優仁

ならウチに転校すりゃいいじゃねぇか

綾女 剛孟

何の冗談だ……全く……




女がいるから







 その一言に、綾女の体がピクリと揺れる。


社 優仁

だろ? 綾女会長

綾女 剛孟

…………




 鋭い視線は社へと向けられ、それから何秒もの沈黙が続く。



 互いに目を反らさず、口を開かず、こう着状態だ。


向陽 眞桜

……あ、あのー……先生。一体何の……




 空気の悪さにボソボソと向陽が口を開くと、すかさず頭を叩かれる。


社 優仁

オマエが資料に書いてたんだろ。コイツは大の女嫌いだ、って

向陽 眞桜

……あ、あぁ! そうでした! スミマセン





 笑って誤魔化したが……残念ながら社以外の人間に関する記憶力は弱いらしい。


社 優仁

だからさっきオレが声を掛けた時も初めは普通にしてたが、向陽を視界にとらえた瞬間、機嫌が悪くなった。……そうだろ?

綾女 剛孟

……そうだ。出来ることならソレだけでもこの部屋には入れたくなかった

社 優仁

ハハハ!
ソレ呼ばわりだってよ、向陽

向陽 眞桜

ソレ呼ばわりでしたね!

社 優仁

オマエはそういう奴だよな





 痛くも痒くもないという笑顔。



 それに対して更に機嫌を悪くする綾女だったが、社は構わず話を戻す。


社 優仁

しかし向陽を〝女〟としてカウントするってよっぽど、つーか重症だな

綾女 剛孟

どんな見た目をしていようが女は女だ。理解しがたい、敵対種族に違いは無い

社 優仁

でもお前アレだって?
そんなに徹底して駆除作業して来たって割には今困ってるらしいじゃねえの?

綾女 剛孟

……

社 優仁

立派立派!
今までは女子生徒が無断で校舎に侵入したり、武高の生徒が女性問題抱えたまま、その彼女が押しかけてきたりしたって話が……去年からはぱったりだって?






 去年。綾女が武澤高校に入学した年だ。




社 優仁

随分と校風が整って来たとか噂はよく聞く、だからこうして文化祭や体育祭も去年から更に来場者数が増えた。……が、外には漏れていないがここ数ヶ月、問題が上がってるらしいな

綾女 剛孟

……誰に聞いた

社 優仁

誰にも聞いてねえよ。だから誰も咎められない

綾女 剛孟

……ソレか




 綾女は忌々しそうに目だけを向陽に向けた。



 向陽はケロリとして大人しく座っている。


綾女 剛孟

確かに、最近はある奴のせいで校内が騒がしくなっているのは事実だ。だが、この問題は俺達だけで対処出来るレベル、部外者からの口出しはいらん

社 優仁

本当に対処出来るとでも思ってんのかよ、会長様お一人で

綾女 剛孟




 先程までヘラヘラと笑っていた社の声のトーンが下がり、顔つきが変わった。



 ドア一枚をへだてて外はずいぶんと賑やかだが、この部屋は違う。


 重かった険悪な空気は変わり、刺すような冷たさが満ち始める。


社 優仁

いくら武澤高校の生徒、生徒会役員とはいえお前と他の生徒は違う生き物だ。時間が過ぎれば過ぎるほど、お前の味方はどんどんいなくなるぞ

綾女 剛孟

そんなことはない!
そんな不届き物はこの役員にいはしない!
それに、あんな生き物ごときに……俺の作り上げた庭が、壊されること等ありはしない!




 また机を叩き、綾女は社を睨みつける。



 彼が置いた手の下からは深いヒビが伸びていた。机が軋む音が聞こえる。


社 優仁

言っただろ、他の奴等とお前は違う生き物……つーか、どっちかってーとお前が違う生き物なんだよ、綾女

綾女 剛孟

気安く呼ぶな!

社 優仁

お前はこっち側だ

綾女 剛孟

っ!?

社 優仁

お前一人じゃ今回の件は片付けられない。……が、俺と向陽が手を貸してやらなくもない




 社の顔に笑みが戻ると、前のめりになっていた綾女が少し身を引く。


綾女 剛孟

……お前達の力があれば、アレを駆除出来るというのか?

社 優仁

あぁ、しかも超短期でな?
保証するぜ?

綾女 剛孟

…………、だから組織に入れと

社 優仁

わかってるじゃねーか




 満足そうに社が笑うと綾女は大きくため息を吐いた。


綾女 剛孟

……

向陽 眞桜

お茶です! はい先生も!

社 優仁

おぉ、気が利くな





 向陽がお茶を二人分入れ、社と綾女の前へ出す。



 二人が言い争っている間に呑気に(しかも勝手に)お茶を汲んでいたのだ。


社 優仁

……ん? 飲まねぇの?

綾女 剛孟

飲むのを想像しただけで吐き気を催した

社 優仁

ハハハハ! 病気だ病気




 すると突然ノックが聞こえ、綾女が返事をする前にドアが開かれた。


南海

綾女君―?
ちょっと来て欲しいのだけど、一年生のお化け屋敷で不備があって……あら?




 現れたのは茶髪に少しウェーブをかけている女性。


 化粧は落ち着いていて、首からは名札を下げている。




 カウンセラー、南海(みなみ)。と書いてあった。

...続く
次回更新予定:02月21日

02.無骨堅物、女嫌い破壊神(3)

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