ペコペコと頭を下げながら出て行こうとする南海を社が止める。
ニコニコと柔らかい笑顔を作りながら社は彼女の方へ立ち上がると、案の定南海は社に釘付けだった。
……突然入って来るな
ご、ごめんなさいね。
いつもの癖で……会議中って出てたからお客さんがいるなんて……失礼しました
いえいえ、こちらこそ綾女君に無理を言って時間を割いてもらっていたので。外部の者が失礼しました
ペコペコと頭を下げながら出て行こうとする南海を社が止める。
ニコニコと柔らかい笑顔を作りながら社は彼女の方へ立ち上がると、案の定南海は社に釘付けだった。
それでは綾女君、また明日に伺ってもいいでしょうか? 今日すぐに返事を聞きたい訳では無いので……
あ、あのっ
はい?
あ、あなたは……あ、綾女君の知り合いの方、なんですか?
いえ、僕は宍高校の教師をしている社といいます。今日は綾女君と、両校の親睦会についてお話をしようと思い伺ったのですが……
そ、そうなんですか。社、さん……
そうだ、僕達まだ時間があるので。せっかくですから校内を案内して頂けないでしょうか? カウンセリングの先生……なんですよね?
は、はい!
当校で学生カウンセリングをしています、……南海といいます。校内の案内、ですね……では
ありがとうございます!
それでは綾女君、また明日
扉が閉じられ生徒会室には綾女と向陽が取り残された。
綾女は携帯を取り出すとどこかへ電話を掛け、向陽を放置したまま話し出す。
先程南海が言っていた不備がある一年生のクラス委員へ電話しているらしく、口頭で問題を聞いてすぐに指示を出していた。
そんな彼を見ながら向陽はお茶を啜る。
社が飲み残した湯呑で、だが。
じゃあ、それでよろしく頼む。また十五分後に様子を見に行くから、頼んだぞ
十五分後、って今すぐ行かないんですか?
…………
大変ですね、生徒会長も実行委員長もやるなんて……うちの学校の生徒会長さんには出来ないことですよ!
器用だけど、全部をちゃんとやってるんですから凄いですね~
…………
そういえば、さっき来た南海さん……でしたっけ?
あの人ですよね!
今綾女君が〝邪魔だ〟と思っている人は。南海さんってああいう人なんですね!
もっと全然……
お前、どういう情報網で仕入れたんだ?
その話……
あれ、返事してくれた
必要最低限のことだけだ。それよりどこで仕入れたんだ、俺は誰にも話していないぞ
誰にも聞いてませんよ?
あの先生が来てから学校内で浮ついた話が多くなったっていうのはちょっと伝手を辿って聞いたんですけど、綾女君に関しては誰にも聞いてません!
自力です!
君はやめろ、先輩だぞ
すみません!
向陽の「自力」という言葉を聞いて、コイツは一体何を言っているんだ……と綾女は頭を痛めた。
誰かに聞いたのではなく、自力で……自分の力で、無理に、無理矢理、あらゆる手を使って、……こちらの頭の中を覗いたということなのか?
まるで秘密を打ち明けた専門医と話している気分だ。
でもあの先生も、会長に嫌われるのも無理ないですね
……俺は別にお前の学校の会長ではない
会長ですよ!
〝裏風紀委員会〟の会長になってもらうんですから!
何だそのセンスのない名前は
……、先生が付けてくれた素敵な名前を侮辱するんですか!?
向陽が勢いよく立ち上がるとそれよりも大きい
という音が部屋に響く。
向陽はそれを気にせず綾女を睨みつけているが、音のした方……綾女の方はというと、手を置いていたパイプ椅子の背もたれを握り潰していた。
それ以上近寄るな、穢れがうつる
じゃあさっきの言葉を訂正してください!
先生に対して失礼です!
両手全ての指を切り落として先生に献上するレベルに値します!
減らず口を、お前のその細い首を握り潰すぞ
では喉仏を切り出してそっちを差し出しますか?
綾女の額に青筋が浮かぶが、向陽も負けじとジリ……とすり足で前へ出る。
瞳孔の開いた眼で、まばたきを一度もせずに向陽は綾女を見ていた。
♪~
そこで、携帯の軽快な着信音が聞こえると向陽は猫のように携帯へ飛びかかる。
はい先生!
何でしょうか!?
……
音がし、視線を下げると床に細いボールペンが何本も散乱していた。
綾女はその内の一本が足元まで来ると躊躇なく踏み潰したが、少しばかり動揺していた。
あの向陽という女は、こんなもので自分の喉元を狙っていたのか、と。
えぇそんな!先生大丈夫ですか?
気持ち悪くありませんか?
何か帰りに先生の好きな物食べるか見に行くかしてケアしますか……?
え、もちろんあたしが出しますけど
女子高生に奢られる成人男性……
あ、大丈夫ですか。わかりました……ではひとまず裏門で待ち合わせで、はい!
…………
では、帰りま
帰れ
扉をきちんと閉めて向陽は小走りで裏門へと向かった。
一方綾女はというと、まだ生徒会室で一人静かに目をつぶり、椅子に座っていた。先の電話からもうあと二分で約束の時間となる。
……何なんだ、アイツら
ハァ……と大きくため息を吐くと、何かを思い出したように立ち上がって部屋に常備されている除菌スプレーを手にし……。
向陽が座っていたソファに吹きかける。
因みに彼女が使った湯呑や急須は既に漂白剤につけてあった。
まさかこの部屋に女を入れてしまうことになるとは……換気も必要だな
先程から息苦しいのはそのせいだろう。
窓を開けると風が強く入り、机の上の物が飛んでしまわないかと確認すると、見慣れない付箋が机に貼られているのに気が付いた。
先の二人のどちらかの仕業か? と見てみると、末尾に
「社」
という文字を見て安心してそれをつまみあげる。
明日十三時、出迎え宜しく 社
ふざけやがって
くしゃりと握り潰し、くずカゴに放ると一年生の教室へと向かった。
02.無骨堅物、女嫌い破壊神 試し読み終了
次回「03.天然電波、屍体愛好少年」
更新予定:03月06日