その日はよく晴れた日だった。
俺はそれまでずっと住んでいた部屋を解約して、ある場所を訪れていた。
都会の喧騒から少し離れた静かな場所。
そこには、真新しい大きな家が建っている。
すぐそばにある駐車場に車を停めて、それから庭に向かって歩き始めた。
駐車場には見覚えのある真っ赤な高級車と改造されたバイクが停めてあった。
ということは、ふたりは確実に着いているはず。
案の定、広めにデザインしておいたテラスで、見覚えのあるふたりがなにやら準備をしていた。
その日はよく晴れた日だった。
俺はそれまでずっと住んでいた部屋を解約して、ある場所を訪れていた。
都会の喧騒から少し離れた静かな場所。
そこには、真新しい大きな家が建っている。
すぐそばにある駐車場に車を停めて、それから庭に向かって歩き始めた。
駐車場には見覚えのある真っ赤な高級車と改造されたバイクが停めてあった。
ということは、ふたりは確実に着いているはず。
案の定、広めにデザインしておいたテラスで、見覚えのあるふたりがなにやら準備をしていた。
あ、響(きょう)さん!
そのうちのひとりが、俺に気づいて人懐っこい笑みを浮かべた。
勝気そうな目をした少年の名前は心平(しんぺい)。
うちの下手(しもて)ギターだ。
もー、響くん。遅いよ~?
眼鏡の奥、優しい瞳をした彼の名前は将(しょう)くん。
うちのリーダーでベース。
どうやら今日はオフのためか眼鏡らしい。
ごめん、ちょっと手間取っちゃって。
ふたりは今夜のパーティーの準備をしていた。
今日から俺達はこのシェアハウスに住み始める。
今夜はそれを記念してみんなでこれからよろしくねパーティーをするのだ。
俺の荷物がもう届いているか訊くと、ふたりで先に運んでおいたと言われた。
さすが心平に将くん。気が利くー。
俺は最低限の荷物として自分で持ってきたキャリーをリビングに置いてから、再びテラスに出た。
あ、将くん、俺ハンバーグが食べたーい。チーズ入りのやつ!
キッチンで料理に取り掛かろうとしている将くんにそう言うと、くすくすと笑われた。
響くんはハンバーグ大好きだね。大丈夫、ちゃんと材料用意してるよ。
腰エプロンを着けながらそう言う将くんにお礼を言う。
将くんはすっごい料理上手。
将くんに任せておけば安心だ。
下手に手伝わない方がいい。
俺はなにかすることないかなと心平の所へ向かった。
心平は今夜使う皿やグラスを箱から取り出しているところだった。
一旦洗う?俺手伝うよ。
そう言うと心平はぶんぶんと首を振った。
そんなこと響さんにさせられませんよ!オレがひとりで洗うんで大丈夫です!
なんかそんなふうに言われたら強く言えないじゃないか…。
俺は皿洗いを心平に任せることにした。
…でも困る。なにもすることがない。
暇だ、どうしよう。
俺がリビングにぽつんと立ちつくしているとタイミングよくスマホが鳴った。
どうやら新着メッセージを受信した模様。
開いてみるとのんちゃんからLINEが来ていた。
のんちゃんはうちの上手(かみて)ギターをしているイケメンさんだ。
飲み物買ってきたから誰か駐車場まで運ぶの手伝いに来いよ。
グループLINEの方だったけど、まだ誰も気づいて無さそう。
仕方ない、ここは俺が行ってあげることにしよう。
スリッパから靴に履きかえて駐車場まで行くと、のんちゃんが車から飲み物を下しているところだった。
よお、響一(きょういち)、来てたのか。
のんちゃんは俺に気がつくとそう言った。
うん。ねえねえのんちゃん、ちゃんとコーラは瓶で買ってきた?
重たい買い物袋を受け取りながらそう言うと、のんちゃんはイラッとしたように眉をしかめる。
てめぇいつまでもその呼び方すんのやめろよ。
てかなんでコーラなんか俺様がわざわざ買ってこなきゃなんねーんだよ。
…え、なにそれ信じらんない。
この人コーラを侮辱してる。
俺が笑顔を消し、無言のまま頬を膨らませて見つめていると、やがてのんちゃんは仕方ないといったふうにため息をついた。
仕方ねーな。買ってきてやるけど、おまえそろそろ酒くらい飲めるようになれよ。
…別に飲めないんじゃなくて飲まないだけなんだけどなーと思いつつ、面倒くさかったから適当に流しておいた。
のんちゃんがコーラを買いに行ったおかげでひとりで運ぶ羽目になってしまったけど、仕方ない。
3往復くらいすれば足りるかな。
それにしてもこんなに大量のお酒どこで冷やすんだろうと思っていたら、なにげにテラスに大きなポリバケツが3つ置いてあった。
ちゃんと氷水まで張ってある。
さすが将くん(以下略)。
3往復した後お酒を氷水の中へ入れる。
どうやら本当に全部お酒――てかビールみたい。
心平とかまだ未成年なのに飲ませちゃってもいいのかなと思っていると、本人がやってきた。
どうやら皿洗いは全部終わったようだ。
心平さ、ビール飲めんの?
手伝いましょうかと言ってきた心平にそう尋ねると、彼はあからさまに面食らったような顔をした。
目を泳がせながら、
…の、飲めますよ…
とか言ってるけど、絶対これ嘘だ。
のんちゃんが俺のためにコーラ買ってきてくれるから、心平もそれで我慢してね。
そう言うと心平はほっとしたような顔をした。
よし、今度こっそり酒飲ませて反応見てやろう。
そんなことを企んでいるうち、ビールも全部バケツの中に入れ終わってしまった。