初瀬響一

将くーん!他なんかすることある―?

心平となにもすることないねと言いあった後、俺はとりあえず将くんにそう訊くことにした。


すると、バーベキューコンロを出しておくよう言われた。

へー。今日バーベキューもやっちゃうんだ。

言われた通り心平と一緒に物置からバーベキューコンロを出してみたけど、これの準備の仕方がわからない。

だって俺家族でバーベキューとかしたことないし。


心平もわかんないみたいで、ふたりしてバーベキューコンロとにらみあっこしていると両手に買い物袋を下げた忠(ただし)がやってきた。


忠はうちのドラムだ。
今はまだサポートメンバー、でも近いうち正式メンバーになる予定だ。


真っ赤な髪にピアスをちゃらちゃらつけた姿は一見誤解されそうだけど、本当はすっごいいいやつ。


そして子持ち。
生まれたばかりの可愛い娘と奥さんのために一生懸命働くいい父親だ。


俺も忠と会ったのは最近で、はじめ見た時はなんだかチャラそうなやつで俺と合わなさそうだと思ったし、あいつへの罪の意識もあってか忠を受け入れる気はなかった。


でも話すうち本当はすごくいいやつで、こいつだったら、あいつだって自分の後継者として認めるんじゃないかと思って受け入れることにしたのだった。


忠は今までいなかったみたいだけど、どうやら俺みたいに遅刻というわけではなく、お肉を買いに行っていたようだ。

水野忠

響一さん、それ俺がやっときますよ。

バーベキューコンロに苦戦する俺達に気づいた忠が、買い物袋を提げたままやってきた。

忠は

水野忠

ちょっと待っていてください。

と言うと、物置からなにやら色々持ってきた。

腕まくりをして軍手を着けるとてきぱきと準備をし始める忠。

さすが忠(以下略)。
所帯持ちはやっぱ違うね。
 

忠によってバーベキューコンロのセットが完全に終わる頃には、将くんの料理も完成しテラスに続くリビングのテーブルに並んでいた。


バーベキューに使うお肉や魚介類、野菜の準備も完璧みたい。


結局ビール運び以外なにもできなかったから、食材をテラスのテーブルに運ぶことくらいはしておいた。

そうこうしてるうちにのんちゃんもコーラを持って帰ってきて、全員がテラスに勢揃い。

高木望

まだちょっと早いけど、たまには良いよな。

のんちゃんがそう言って、まだ夕方で予定よりは早いけどパーティを始めることになった。

俺と心平はコーラの瓶、将くん、のんちゃん、忠は缶ビール片手に乾杯をした。

今日は暑い日だったから、冷たいコーラがいつも以上においしく感じる。

高木望

案外、早くできたな。

ビール片手にのんちゃんがハウスを見ながらなんだか感慨深げに呟いた。

橋本心平

そうですか?俺、家が建つのに1年もかかるなんて思いませんでしたよ?

お肉を焼きながらそう答えるのは心平。
そういえば、あれからもうそんなに時間が経つのか。

水野忠

響一さんの設備へのこだわりがすごかったですからね。

バーベキューコンロの火加減を調節しながら忠がそう言った。

そうだったかな、あれくらいの口出し普通じゃない。
だってこれからずっとここに住むんだし。

川崎将

忠には悪いことしたかな。奥さんも娘さんもいるのに、ここに住むの強制しちゃって…

申し訳なさそうにそう言ったのは将くん。

皆で一緒に住もうって最初に言い出したのは将くんだった。

でも――

水野忠

いえ、そんなことないです。俺、リーダーから声かけてもらえてうれしかったっスから。

初瀬響一

そうだよ、将くん。
みんな将くんの気持ち知ってる。

俺は箸を止め将くんの方を見て言った。

初瀬響一

それに、みんな同じ気持ちだから。

皆がテラスのテーブルを見た。
奥の方にあと一席ある。


よくあいつが好んで飲んでたメーカーの缶ビールと、1人分の料理が乗った皿。

そのどちらも減ることはない。
あいつはここにはいない。来ることもない。



…あいつはもういないのだから。

初瀬響一

メンバーは皆で支え合うもの、でしょ?

いつか将くんが言った言葉だ。



あの時、俺達はあいつのことを救えなかった。


まだ若かった俺達はあいつの気持ちにまで気を回すことが出来なかった。

ちゃんと冷静になれば気づけたはずなのに。

 
だから、もう二度と誰も傷つけない。
 

今度は、絶対にひとりで抱え込ませたりしない。
 


そう思って、皆で一緒にここに住むことを決めたんだ。

川崎将

そうだね、ありがとう、響くん…

将くんは笑って言った。
 

ちょうどその時、ドン!という大きな音がして、あたりが一瞬明るくなった。

音のした方を見ると、まだ暗くなりきってない紫色の空に花火が咲いていた。

初瀬響一

きれー

思わずそれに見惚れて、はっとなって将くんの方を振り返った。

初瀬響一

もしかしてこれって…

川崎将

…ベタすぎた??

照れくさそうにそう言う将くん。
いやいや、ほんと流石。
 
普通こんな演出思いつかない。
いや、思いついてもしないよね!

高木望

ベタすぎんだろ…

橋本心平

ベタなの、オレはいいと思いますよ!

水野忠

まぁ俺達の門出には、これくらいぱーっとした方がいいんじゃないすか

と反応も三種三様だ。
 

将くんのおいしい手料理とバーベキューを堪能しながら、俺達は飽きることなく花火を眺めていた。

 


今日から、ここでの暮らしが始まるんだ!
 


…健(けん)。
君にもこのきれいな景色、見えてるのかな?

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