遅いよ、リツ。行っちゃうよ。
待ってよー、もー!
出かけると決めたあとの
おねえちゃんは早かった。
何かを決めたら
すぐ行動するのがおねえちゃん。
この決断力の早さは、
漫画家を始めたきっかけにも繋がってるみたい。
うー……。
一方のアタシは
クローゼットとにらめっこしながら
着ていく服が決まらない。
あー、もういい!
ちょっとラフだけどこのまま出かけよう。
ほぼ部屋着だけど、
昼間ならまだ寒くない。
と急いで階段を降りるアタシ。
オッケー!レッツゴー!
おー!
アタシ達は意気揚々と買い物へでかけた。
気晴
はぁはぁ……待ってぇ、リツ……。
ちょっとストップ!
へぇ……?
アタシ達が家を出て3分ほど。
ゆるい上り坂を登り始めてすぐに、
おねえちゃんはダウンした。
道路脇の電柱に手をかけて
肩で息をするおねえちゃん。
……はぁ……もう帰ろう。
なんとも早い決断。
ある意味おねえちゃんらしい。
なに言ってんのさ、おねえちゃん。
あまりのくじけ方に呆れてしまう。
せっかくでかけてるのに……。
これじゃ、かたつむりの散歩より
短いじゃん。
ご飯だって食べれないよ!
もう、ごはんだって
おうちでリツの餃子でいいよぅ。
おそらく近年、稀に見る重労働で
体力を奪われたおねえちゃんは、
すっかり弱気になってしまった。
そんなおねえちゃんの姿を見て、
アタシの脳裏にふと一つの考えがよぎる。
まさか……おねえちゃん…
ずっと疑問に思っていた事の答え。
アタシはそれにたどり着いた。
部屋で寝ないのは階段登るのが嫌だからじゃないの!?
ガビーン
最近どっかで見たなぁ、この驚き方。
そそそ、そんな事ない!
めずらしい。
おねえちゃんがどもった。
はあ、はあ、じゃあ、
リツ、おんぶぅ……
……もう、しょうがないなぁ……。
この坂だけだよ?
アタシはおねえちゃんに
背中を向けてかがんだ。
おねえちゃんはアタシに体を預けると、
ふふふ……まさか、リツにおんぶしてもらう日が来るとはねぇ……。
と、小声で漏らした。
初めておんぶするおねえちゃん。
思ったほどよりは軽く感じた。
アタシが大きくなったからなのか、それとも……。
けど、そうは言っても大人一人。
はじめは良くても
坂を進むに連れ次第に辛くなる。
はぁ…はぁ…。
……リツ…大丈夫かい?
……くっ、大丈夫…あと少しで坂が終わる…。
あと10歩…。
5歩……。
1歩…。
着いたぁ!
ようやくゆるい上り坂の終点に到着した。
まだ目的地にはついてないけど。
アタシはおねえちゃんをゆっくり下ろした。
ここからなら歩けるよね?
おねえちゃん。
ゆっくり目でお願いします。
この先は駅前を抜けて
目的の商店街に続く平坦な道。
住宅街とは違い、
ここまで来るとだいぶ賑やかになる。
立ち話をする若者たちや街頭演説、
タクシーを待つ人々、
最近では珍しくなった
ティッシュ配りの人もいる。
タクシー
………
……
…………
どうぞ。
ホストCLUB 黒美巣
ありがとう。
!!!
ちょっと、おねえちゃん!
こんなティッシュもらって
どうすんのさ!
どうって……。
もらえるものはもらって置いたほうがいいだろ。
行くと思われたら面倒じゃんよー!
リツは心配性だねぇ。
ただのティッシュだよ。
だからって、こんなティッシュ…
…かあぁぁ…。
こんなんで赤くなっちゃうなんて、なんだかんだ言っても、まだまだ子どもだねぇ……。
おねえちゃんだって、出会いないくせに!
だったらなおさら
貰っておいた方がいいだろ?
……ぐっ。
アタシは何も言い返せなかった。
そんなアタシを見ておねえちゃんは
安心しなよ、ただのティッシュとして使うだけだからさ。
と言ってニッコリ笑った。
……!
思わず口喧嘩になったけど……、
もしかして、おねえちゃんの
気晴らしになってるのかな……?
それなら、いいかな……。
アタシ達は駅前の喧騒を抜けて
商店街へと向かう。
つづく