おねえちゃん

遅いよ、リツ。行っちゃうよ。









あたし

待ってよー、もー!


出かけると決めたあとの


おねえちゃんは早かった。





何かを決めたら


すぐ行動するのがおねえちゃん。


この決断力の早さは、


漫画家を始めたきっかけにも繋がってるみたい。


あたし

うー……。



一方のアタシは


クローゼットとにらめっこしながら


着ていく服が決まらない。



あたし

あー、もういい!
ちょっとラフだけどこのまま出かけよう。



ほぼ部屋着だけど、


昼間ならまだ寒くない。



と急いで階段を降りるアタシ。







あたし

オッケー!レッツゴー!

おねえちゃん

おー!



アタシ達は意気揚々と買い物へでかけた。
















気晴














おねえちゃん

はぁはぁ……待ってぇ、リツ……。
ちょっとストップ!

あたし

へぇ……?




アタシ達が家を出て3分ほど。





ゆるい上り坂を登り始めてすぐに、


おねえちゃんはダウンした。






道路脇の電柱に手をかけて


肩で息をするおねえちゃん。


おねえちゃん

……はぁ……もう帰ろう。




なんとも早い決断。


ある意味おねえちゃんらしい。


あたし

なに言ってんのさ、おねえちゃん。




あまりのくじけ方に呆れてしまう。


あたし

せっかくでかけてるのに……。
これじゃ、かたつむりの散歩より
短いじゃん。
ご飯だって食べれないよ!

おねえちゃん

もう、ごはんだって
おうちでリツの餃子でいいよぅ。



おそらく近年、稀に見る重労働で


体力を奪われたおねえちゃんは、


すっかり弱気になってしまった。







そんなおねえちゃんの姿を見て、


アタシの脳裏にふと一つの考えがよぎる。












あたし

まさか……おねえちゃん…









ずっと疑問に思っていた事の答え。






アタシはそれにたどり着いた。








あたし

部屋で寝ないのは階段登るのが嫌だからじゃないの!?

おねえちゃん

ガビーン

あたし

最近どっかで見たなぁ、この驚き方。

おねえちゃん

そそそ、そんな事ない!



めずらしい。


おねえちゃんがどもった。

おねえちゃん

はあ、はあ、じゃあ、
リツ、おんぶぅ……

あたし

……もう、しょうがないなぁ……。
この坂だけだよ?



アタシはおねえちゃんに


背中を向けてかがんだ。




おねえちゃんはアタシに体を預けると、

おねえちゃん

ふふふ……まさか、リツにおんぶしてもらう日が来るとはねぇ……。

と、小声で漏らした。






















初めておんぶするおねえちゃん。


思ったほどよりは軽く感じた。


アタシが大きくなったからなのか、それとも……。













けど、そうは言っても大人一人。











はじめは良くても


坂を進むに連れ次第に辛くなる。


あたし

はぁ…はぁ…。

おねえちゃん

……リツ…大丈夫かい?

あたし

……くっ、大丈夫…あと少しで坂が終わる…。



あと10歩…。

5歩……。

1歩…。

あたし

着いたぁ!



ようやくゆるい上り坂の終点に到着した。


まだ目的地にはついてないけど。




アタシはおねえちゃんをゆっくり下ろした。

あたし

ここからなら歩けるよね?
おねえちゃん。

おねえちゃん

ゆっくり目でお願いします。



この先は駅前を抜けて


目的の商店街に続く平坦な道。




住宅街とは違い、


ここまで来るとだいぶ賑やかになる。




立ち話をする若者たちや街頭演説、


タクシーを待つ人々、


最近では珍しくなった


ティッシュ配りの人もいる。

タクシー

………
……
…………

どうぞ。

ホストCLUB 黒美巣

おねえちゃん

ありがとう。

あたし

!!!

あたし

ちょっと、おねえちゃん!
こんなティッシュもらって
どうすんのさ!

おねえちゃん

どうって……。
もらえるものはもらって置いたほうがいいだろ。

あたし

行くと思われたら面倒じゃんよー!

おねえちゃん

リツは心配性だねぇ。
ただのティッシュだよ。

あたし

だからって、こんなティッシュ…
…かあぁぁ…。

おねえちゃん

こんなんで赤くなっちゃうなんて、なんだかんだ言っても、まだまだ子どもだねぇ……。

あたし

おねえちゃんだって、出会いないくせに!

おねえちゃん

だったらなおさら
貰っておいた方がいいだろ?

あたし

……ぐっ。


アタシは何も言い返せなかった。


そんなアタシを見ておねえちゃんは

おねえちゃん

安心しなよ、ただのティッシュとして使うだけだからさ。


と言ってニッコリ笑った。

あたし

……!











思わず口喧嘩になったけど……、


もしかして、おねえちゃんの


気晴らしになってるのかな……?









それなら、いいかな……。



















アタシ達は駅前の喧騒を抜けて


商店街へと向かう。












つづく

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