夜遅く、怜一郎さんは帰宅した。
今日は金曜日。明日、明後日は休みだ。
それもあってか、今日の帰りはやけに遅かった。
もうすぐ12時だ。
おかえりなさーい
夜遅く、怜一郎さんは帰宅した。
今日は金曜日。明日、明後日は休みだ。
それもあってか、今日の帰りはやけに遅かった。
もうすぐ12時だ。
…ああ
いつものように鞄に手を伸ばすが、その鞄がさっと引かれた。
え…
怜一郎さんはスリッパに履き替えると、そのままあたしの横を通り過ぎた。
…いつもの抱擁がない。
あたしが戸惑っているうちに、怜一郎さんは階段へと向かっていた。
怜一郎さん、どこ行くの?
そう呼びかけると、今気がついた、というようにあたしの方を見た。
その目は、疲労がたまってちゃんと焦点を定められたいない。
…悪(わり)ぃ。いったん寝る。
そのまま、振り返らずに階段を上がる怜一郎さん。
あたしは、なにも言えなかった。
なにも言えないまま、今自分が来ているワンピースを見下ろす。
今日結人さんにもらったばかりのワンピース。
怜一郎さん、全然気づいてくれなかった。
…もともと、いっぱい服は持ってるんだし、仕方がないのかもしれない、けど。
あたしはダイニングルームへと向かった。
そこには、まだ手をつけられていない料理が並んでいる。
夕方あたしのために用意されたものだったが、怜一郎さんにひとりで食事はさせられないと、食べるのを待っていたのだった。
それなのに…
…おなかすいた
椅子に座り、料理に手を伸ばす。
怜一郎さんは今すごく忙しくて、疲れているのだ。
そんなこと頭では分かっている。
…それでも、こんなにもつらい。
あたしと怜一郎さんは、偽りの夫婦なのに。
この契約の話を持ちかけられた時、あたしはたしかに、怜一郎さんを最低だと思い、こんな男なんか好きにならないって、そう思ったはずなのに…
――こんなにつらいのは、どうして?
ひとりで食べる料理は、いつもより冷たくて、そしていつもよりすこし味気なかった。