あん

んー。終わった―

一週間後。
4日間にも及ぶ期末テストが終わり、あたしはありすちゃんと街にいた。

テスト後帰ろうとしていたところに、ありすちゃんから遊びに行かない?と誘われた。

それから運転手の池さんに来なくていいという電話をして、ありすちゃんちの車に乗り込み、街まで来た。

こうして友達と放課後遊ぶのは実に3カ月ぶりで、あたしは浮かれていた。

あん

このクレープおいしい♪

ありす

でしょぉ。あたしのお気に入りなのぉ

この街にはまだ不慣れで、あたしはありすちゃんに案内してもらっていた。

街を歩いて、おんなじクレープを食べて、ガールズトーク。

そんな風にしていると、今までの現実離れした生活が嘘みたいに思えてくる。

…やっぱ、こういうのっていいな。

ありす

よく考えたらさ、すごいよねぇ

あん

…なにが?

笑顔でクレープを食べていたありすちゃんが、急に真顔になって言ってきた。

…訊き返すと、ありすちゃんはだって、と続けた。

ありす

あんちゃんってさ、高校生で、あんなお金持ちの婚約者でしょぉ?
…なんか、まんがみたいだよねぇ。

思わずクレープを食べようと開けた口が固まった。

ありす

ねぇねぇ、あんちゃんと理事長ってどこで出逢ったの?
…やっぱりお見合いとか?

興味津々で訊いてくるありすちゃん。
…ここで下手に本当のことを言ったら、怪しまれるに違いない。

あたしは嘘をつくことにした。

あん

…親の、紹介?

嘘じゃない。
あの仕事を探し出してきたのはお母さんだし、お父さんの借金がなければ怜一郎さんはあたしにこんな契約持ちかけなかっただろう。

多少強引ではあるが、そう言えなくもない。うん、きっと。

ありす

へぇ。ねぇねぇ、理事長のどこが好き?

あん

ちょっ…、そういうのは訊かないで!

慌ててそう言うと、ありすちゃんは笑った。

あたしはなんとか話をそらそうと、そういえば…と、口を開いた。

あん

ありすちゃんは好きな人とかいないの?

そう言うと、今まで見たこともないくらいありすちゃんは真っ赤な顔をした。

…あれれ?なにこれ、かわいいんだけど。

あん

絶対いる!…そうでしょ?

あたしはからかうように続ける。

ありす

気になる人はいるんだけどなぁ…

あん

ありすちゃんくらいかわいかったらすぐ落ちるでしょ!

ありす

そうだといいんだけどなぁ…

一瞬、さみしそうな顔をしたのは気のせいだろうか?
 
ありすちゃんは次の瞬間には完璧な笑顔を浮かべていた。

ありす

ねぇねぇ、あの店行っていい?

そんな笑顔のまま、近くの店を指差し訊いてきた。
結構大きなアクセサリーショップだ。

さっきのありすちゃんの好きな人の話は気になったが、それ以上聞ける雰囲気でもなかったのでありすちゃんの言葉に従った。

ありす

ここね、よく来るんだけど結構かわいいんだよぉ

そのありすちゃんの言葉通り、そのお店のアクセサリーはどれもかわいいものばかりだった。

今あんまりお金ないけど、欲しいな…
 

ちなみに、あたしのお小遣いはもちろん怜一郎さんがくれたものだ。

最初、怜一郎さんから札束を渡された時は焦った。
もともとカード(ブラックだった…)も渡されていたので、一万円だけもらって後は返した。


実際、こちらに来てから現金を使うことはなかった。

外に買い物に行くときは怜一郎さんがカードで支払っていたし、学校でお金を使うこともない。

どうやら学内限定で使えるカードがあって、それで学食、購買、自販機の支払いが可能なのだ。
 
だから、さっきクレープを買った時は焦った。
…ちゃんとお金あるかなぁって。

ありす

ねぇ、おそろいでなんか買わない?

あん

いいね、それ!

なんだか懐かしい響きだ。
あたしたちはさっそくどれを買うか見て回った。

かわいいものがたくさんあって迷ったけど、ふとありすちゃんがひとつのアクセサリーを手にした。

ありす

このピアスは?

しゃらしゃら揺れる、女の子っぽいピアス。すごくかわいいんだけど…

あん

ごめん。ピアスはこれ以外つけたくないんだ。

あたしは今身につけているピンクダイヤのピアスを見せて言った。

ありす

このネックレスかわいい♪

次にありすちゃんが見つけたのが星のモチーフのネックレスだ。
でも…

あん

ネックレスはちょっと、…

あたしは今ネックレスチェーンに通してある結婚指輪のことを考えていった。

ありす

指輪は――って、なおさらだめか

あたしの婚約指輪を見てありすちゃんは言う。
 
なんだかすごく申し訳ない。
うつむくあたしに、ありすちゃんは笑った。

ありす

すごいねあんちゃん、すっかり理事長のものだね!

なんだかその言い方はよくない気がするんだけど…

でも、ありすちゃんが笑ってくれてよかった。

ありす

じゃぁ、ブレスレッドは?大丈夫?

あん

ブレスレッドなら大丈夫!

そう言ってありすちゃんが選んだのはシルバーのシックなブレスレッドだった。

唐草模様で、花をイメージしているらしい石を、それぞれの誕生石に合わせて買った。

その時まであたしはその石が本物なんて知らなくて、値段を聞いた時には桁を間違っているんじゃないかと思いながらカードで支払った。
 
いろいろびっくりしたけど、楽しかった。
店を出たあたし達は、再びふたりで歩き出した。

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