ねえ、ユギ。何でいつもブラックコーヒーと牛乳を買うの?

 そう尋ねてきたのは、昼休みが終わる時間になるとよく購買の自販機の付近で見かける女子生徒だ。

……えっと?

駿の双子の妹の佐伯環よ。まあ、どうせ私は隣のクラスだし。そもそもクラスメイトでも駿の名前くらいしか覚えてないでしょ

覚えようとして覚えたわけじゃないけどな

本人に刷り込まれてやっと覚えたんでしょ

 ため息を吐く佐伯環を横目に、皐矢は自動販売機から珈琲の缶を取り出した。

別にお前の名前を忘れてたわけじゃない。久しぶりに話したから、驚いただけだ

 皐矢の言葉を聞いて、環が目を見張った。

何だ、覚えていたの

小学校から帰る道、いっつもお前に捕まって野球をしてたんだ。覚えているよ。

それにしてもお前、佐伯と兄妹だったのか。あいつがやたらと絡んでくるのはお前のせいか?

駿に、小学校の時ユギとよく遊んでたって話したらああなったの。たぶんユギにとってみれば鬱陶しいと思うし、見てるこっちも鬱陶しいけど……、意外に本人はユギに絡むの好きみたいよ

お前から止めるように頼んでくれるっていうのは……

無理。そして嫌

『嫌』?

 しばしためらった後、環は口を開いた。

……またユギが、ユギだけが、独りになっちゃうから……

 そう言い残すと、環は慌てたように去っていった。

『だけが』?

 取り残された皐矢の疑問は、予鈴のチャイムに消えていった。




ユギ―、予鈴なったぞー

 購買の前にある外階段の踊り場から顔を覗かせた佐伯が呼びかけてきた。




お前、環と兄妹だったんだな

 階段を上って二階にいる佐伯に尋ねる。

えー、知らなかったの? 結構周知の事実なんだけど。かっこいいアンド可愛い、学校のアイドル佐伯兄妹!

 まあ、ユギはあんま周りに関心がないからなー、と言う佐伯の言葉を無視して疑問をぶつける。

お前、小学校、何で環と別だったんだ?

 思ってもみない質問だったらしく、珍しく佐伯が口をつぐんだ。

 微かに目を泳がせた後、佐伯は苦笑する。

ま、別に大したことのない、家庭の事情ってやつだよー

 そう言うと佐伯は話を終わらせようとするかのように、教室へ皐矢を押しやった。




そういえば、なんでユギはいっつもそのセパレートコーヒー牛乳を飲んでるわけ?

 まさか、カフェオレさんの存在をご存じない?とショックを受けたようにわざとらしい演技をする佐伯に、皐矢は思わずイラッとした。

ブラックコーヒーを飲むのは、授業中に寝ないためだ! 塾に行きたくないからな。
……牛乳を、飲むのは、……

飲むのは?

……苦いのが、苦手だからだ

ちょっ、何それ!? 我慢して!? そんなに塾に行きたくないの!? でもわかるわかる、放課後まで椅子に座っていたくないよねー。でも、嫌いな物無理矢理!! ユギの努力が!!  








 ブラックコーヒーの缶で佐伯を撲殺しようとした皐矢は慌てたクラスメイト達に止められ宥めすかされ、爆笑していた佐伯もまたクラスメイトにぶっ叩かれて、この時は事なきを得た。

セパレートコーヒー牛乳に、何か文句でも?

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