いつも見る夢を見た。
 
夢の中のわたしは、赤い肌をした鬼で、戴輝であったはずのものを喰らっている。
 

それは、わたしの願望だった。
 
幼い頃より、わたし達にはひどい噂が付きまとっていた。
好奇心の入り混じった、でたらめばかりの馬鹿げた噂たち。
 

わたし達は双子だ。
古くから、双子は不吉だと言われていた。

大陸では、双子同士で国の利権を争い、とある大国が一年にして焼け野原になったのだという。

それ以来、双子は忌み嫌われ、双子であることを隠すために片割れを捨てたり、殺したりするところもあると聞く。
 

それをおもしろがってか、あれこれ言う者もいた。

中には、わたしが鬼で、戴輝の命を糧に生きていて、それで戴輝が病弱なのだという者も。
 

わたしは時折思う。本当にそうだったらいいのに、と。
 

そうしたら、わたしが死にさえすれば戴輝は助かる。
 

――だが、実際はそうはいかない。


わたしは戴輝を守るために生き続けなければならないし、戴輝の病は一生治らない。

春乃

…戴、輝…

夢と現のはざまで、恋しい弟の名を呼ぶ。


お願いだから、戴輝。
わたしの前から、いなくならないでくれ――…

奏多

…妬けますね

俺は杯を手に、隣で眠る少女の髪を撫でた。
少女の口から零れたのは、他の男の名だった。
 

美しい夜桜に、せっかくいい気分になっていたというのに――まったく。

奏多

貴女というひとは、いけないひとだ…

そっと、白いその頬に口づける。
 
眠るこの人は、本当に初心な人だった。
先ほども、最後までいく前に、気を失われてしまった。

意識のない少女を無理やり奪う気にもなれず、俺はこうしてすべてを酒に流していたのだった。
 

あの時、なぜ俺はかっとなってしまったのだろう?
 
確かに俺はあの時、顔も名前も知らない相手に嫉妬していた。
 

それもこれも、彼女が予想以上におもしろかったからだ。
 

すやすやと寝息を立てる彼女を、起こさないようにそっと笑いをこらえる。
 

そんなにうれしそうな顔をして。
…どんな夢を見ているんだ?
 

艶やかな髪に手をのばして、弄んでみても彼女は目を覚まさない。
 

――まぁ、いい。
 

時間はこれからもたっぷりある。
時間をかけてゆっくりと、彼女の心も奪えばいい。

奏多

…明日が楽しみだ…

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