あのオフ会から3日。

香奈恵は会社を休み、マンションにこもりきりになった。

その方が安全といえば安全かもしれない。

うん、飲み物と食い物は買ったよ。

他に欲しいものはあるか?

大丈夫よ、ありがとう

じゃ、すぐ行くから

香奈恵とオレが付き合うようになったのは、数ヶ月前。


オレの放送のファンだという香奈恵と、スカイプで何度かやりとりするうち、親しくなったのがきっかけだった。

今日の放送も面白かったよ

今回のは自信作だったからさ~

でも、いつもの心霊系怖い話じゃなく、ストーカーの話ってなんかリアルだね

あはは……たまにはね

こういう系のもいいいかなって……思って

そういえば──

香奈恵と付き合い出す、少し前。

オレはストーカーの様な存在に怯えていた。

番組のファンが多くなり、少し調子に乗っていた時期だったから、ま、こういうのもネタになって面白いかとその時は真剣に考えていなかった。

番組が終わると、必ず携帯に見知らぬ相手からのメッセージが届く。

キョウモアナタヲユメデミタワ

アイシテル アイシテルアイシテル アイシテルアイシテル アイシテルアイシテル アイシテルアイシテル アイシテル

ワタシはアナタノウンメイノヒト

必ずメッセージは全てカタカナのみ。

少し気味が悪いと思い始めた頃。



今度は無言電話がかかって来るようになった。

もしもし?

………………

おい、誰だよ!?

もしもし?

………………ユメデアエル

はっ!?

ユメデ……

プッ……

ツー……ツー……ツー……


電話が切れるとそこにまた、メッセージ。

キョウノオヒルハハンバーグダッタネ

また別の日には……。

キョウハジカンナカッタノ?

ネグセツイテルヨ

どこかで、見てるのかコイツ?

どこだ?

どっから見てる?

そして、ある日の放送中。

本日の怪談は、開かずの踏切の怪異……

動画のコメント欄に……

ワタシハアナタノソバニイツモイル

モウスグアエル

………………アイツか?

これ、会えるって……そんな

だが、そのコメントを最後にストーカー行為はなくなった。

ただのイタズラだったんだとそう思うようになり、大分落ち着いて来たオレはその数日後、香奈恵と付き合い始めた。

なぜ、こんなことを今思い出したのだろう。

ツクヨミさんとアナタはお付き合いされてますよね?

そうだ、付き合っていることは、まだ誰にも言ってなかったはずだ。


どうして、アザミは知っていた……?

あのストーカー……もしかして

その時、電話が鳴った。

宮田から……

もしもし、先輩?

どうですか、香奈恵さんの様子は?

ああ、平気だよ

オレが様子見に行ってる……

そうですか……
じゃあ、大丈夫なんですね

ああ、会社もしばらく休むって家に閉じこもってるから、家なら安心だろ?

そうですね

もし、何かあれば連絡して下さい

ああ……

宮田との会話は全く頭に入って来なかった。

それよりも、オレの頭の中はアノ、アザミという女のことでいっぱいだった。



確か、アイツと知り合ったのは──

オフ会をする事になり、参加者を募った時だ。


当初来るはずだったリスナーが、急遽来れなくなって……
そいつの知り合いだというアザミが、参加する事になった。

私……

人の死を夢で見る事が出来るんですよ

確か、最初のメッセージからそんな事を言っていた。


アザミが、あのストーカーだった?
だとしても夢の事との関連性は無いだろう。

いや、もし……

本当は夢なんか最初から見ていなかったら?

オレと香奈恵を別れさせるのが目的で予言だとかアドバイスをして……

死亡した男性は刃物で十数か所刺されており……

そんなまさか、現実にキヨは死んだんだ。


でも……キヨがもしアノ女に殺されていたのだとしたら?

何考えてんだオレは……

ホラー映画の観すぎかよ?
バカバカしい……


そう一人考えながら歩いていたオレの目の前に



突然──

こんにちわ


アザミが現れた。

ツクヨミの章1    執拗な愛情における変異

facebook twitter
pagetop