偶然か……?
それとも……。
アザミ……
偶然か……?
それとも……。
こんにちわ~
オマエ……
どうですか香奈恵さんとは別れましたか?
なんで……その事……
なんで知っていたか……ですか?
そんな事より早く別れないと、彼女死にますよ~?
あと、4日ですね……4日で死んじゃいますよ~
何言ってんだよ、オマエ!!
オレは思わずアザミの胸ぐらを掴んでしまっていた。
殴るんですか~?
私を殴っても運命は変わりませよ?
……くっそ……
運命を変えたいなら、アナタが彼女と別れるしかありませんから~
……ふざけるな、別れるワケねーだろ……
そうですか~……
絶対に別れない!
自分たちの運命は自分たちで決める!
オマエに指図されてなんか絶対に……
くすくすくす……
何がおかしい……!?
いいえ、いいえ、違いますよ~?
運命はアナタたちなんかが変えられるワケないですよ~……
何、言って……
私です……私しか変えられませんよ!
アザミは狂ったように笑い出した。
私の言うことが聞けないのなら……
死ぬんですよ
ヤメロ……
必ず……死にますよ
ヤメ……ろ……
死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!
オマエのせいでカナエは死ぬ!
ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ!
……死ぬんだよ
ヤメろおぉぉ─────っ
!!
その時は一瞬の事の様にも、長い時間の様にも思えた。
オレは、アザミを道路に突き飛ばしていた……。
よろよろとアザミの体は足をもつれさせながら、車道へと誘い込まれ、
そして──
衝撃音と共に、グニャリとその体が曲がっていくのが見えた。
横から来た大型トラックは、スピードを落とす事なくアザミの体にぶつかりそれを破壊した。
太い木の幹が折れるような音が響く。
これはきっと、アザミの体の骨を砕いていく音だ。
トラックの大きな車輪に巻き込まれたソレは、グルグルと回転しながらピンクと赤と黒のいびつな物体に変わり果てていく。
血と肉片をまき散らしながら、トラックは中央分離帯に衝突し黒煙を上げた。
おいっ! 誰か救急車だ!
ひでぇなっ……
やだ、事故~!?
あっ……あぁっ……
どうしよう、どうしよう、どうしよう……
どうしたら、どうしたら、どうしたら……
オレは辺りをキョロキョロと見回す。
目撃者はいないか?
防犯カメラは?
オレがアイツを突き飛ばしたって、バレたりしないか?
心臓が、いや全身が、バクバクとうるさく鳴っている。
ふと、衝突したトラックとアザミに視線を移すと──
車輪の側に転がっている丸いものに目がいった……。
アレは……?
それは……、半分顔の潰れたアザミの頭だった。
うぉえっ……!
吐き気がこみ上げて来た。
と、同時に恐怖もどうしよもないくらいに沸きあがる。
オレは震える手でスマホを操作した。
誰かと、誰かと話さないと……。
気持ちが落ち着きそうに無い。
香奈恵? いや、また心配させてしまうだろう。
それなら……。
何度めかのコールで電話は繋がった。
おっ、おい!! 宮田!!
先輩? どうしたんですか!?
死んだ……死んだよ……
えっ?
なんて言えばいい?
どう伝えるべきなんだ?
頭の中は未だ混乱している。
死んだんだよおぉっ!!
…………香奈恵さんですか!?
あっ、あ、アザミが……死んだ
えっ!?
脳裏には、今見てしまったばかりのアザミがこびりついて離れない。
目の前で……死んだんだ……血、血、血がぁぁ、肉も……飛び散った……潰れて……おぇぇっ……
また吐き気がこみ上げて来た、今度は我慢が出来ずにその場で嘔吐してしまう。
先輩!?
宮田の声が遠くに聞こえる。
オレはそのまま電話を切った。