刀を抜き放ち、彼女は叫んだ。
美しい女である。
白く透きとおった肌に、艶やかな長い黒髪。
鼻筋は通っていて、厚めの唇は桜色に色づいている。
びっしりと生えそろった睫の下の黒曜石の瞳は強い光を宿し、とても魅力的だった。
ただ解せないのは、その格好である。
今、彼女は白の小袖に紅の袴という下着同然の格好をしていた。
彼女の周りには脱ぎ捨てられた上着が散らかっている。
黙っていればきれいなのに、と俺は呟いた。
蓮見奏多(はすみかなた)。23歳。
蓮見家の棟梁、蓮見陽一(はすみよういち)の長男だ。
母は蓮見陽一の最初の正妻、白石いづみ。
長男にもかかわらず相続権を取り上げられ、こうして人質同然に夢の女帝の許へと嫁がされた。
目の前のこの美しい少女がその春龍女帝(はるたつじょてい)だ。
19歳の、うら若い乙女。
名を夢梨春乃(ゆめなしはるの)という。
…そう、女帝と言えど、まだ年若い少女。
すぐにでも自分のいいなりにできる。
――そう思っていたのは、間違いだったようだ。
俺は溜息をつき、目の前の少女を見上げた。
式も終わり、ふたりの寝所へとやってきていた。
手筈どおり彼女を手に入れようと甘い言葉を囁き抱きしめたところ――、くちづけをかわされた上に、このざまだ。