あたしは恥ずかしさから震える手で、なんとか彼の着物の裾をつかんで言った。
彼が立ち止り、あたしの方を見た。
あたしは彼の美しさに思わず見とれ、目を離すことなんてできなかった。
彼は本当に、美しい方だった。
白く透きとおった肌と、艶やかに流れる黒髪は、女であるあたしから見てもうらやましいくらい。
顔立ちは整っていて、切れ長の目に見つめられると胸がきゅぅっと苦しくなった。
病弱と聞いていたため、もっとこう…青白くて、小さい方を思い浮かべていた。
だが、目の前にいるこの方は、痩せてはいるものの背はかなり高い方だ。
背の低いあたしでは、彼の肩ほどにも届かない。
さきほど…だ、抱きしめられた時などは、…むしろ、力強くて鍛えている体のように感じた。
この方が、あたしの夫となる方……
正直、父から縁談の話を聞かされた時は絶望した。
つい先日まで父は天下を巡ってこの家と戦をしていた。
そんな敵ともいえる家に、人質同然に嫁げと言われたのだ。
見捨てられたのだと思った。
もともと、父はあたしのことを疎んでいたから。
でも、今夜この方にあって、こんなに美しく、優しい方ならいいかもしれないと――そう、思ったのに。
それなのにどうして…
あたしは、泣きそうになるのを必死にこらえて口を開いた。