はじめて手を握った時、――小さな手だ、と思った。

彼女はきれいだった。
はじめて見た時は、思わず目を奪われた。

白く透きとおる肌と色素の薄い髪と瞳は、遠い異国の血を引くためだという。

その空と同じ色をした瞳は、吸い込まれそうな魅力を宿していた。

小さな体と怯えたような眼は、男の庇護欲を誘う。


小さくて愛らしい少女、男なら誰でも守ってやりたいと思うような魅力を持った少女だ。

ただ、どんな女であろうと僕の心が動かされることはない。

退屈で欠伸が出そうになった僕は慌てて右手のぬくもりに集中することにした。


遠慮がちに重ねられた手は、緊張のためか小さく震えている。


僕はかすかに笑って、それから握る手に力を込めた。
すると驚いたように、少女が顔を上げる。

大きな瞳とぶつかった。
僕が軽く微笑みかけると、彼女は真っ赤になって俯いた。
 

いつの間にか僕達は、寝所の前に辿りついていた。
僕は御簾を上げて、少女を中へ招き入れる。
 

部屋の中央に敷かれてある純白の大きな布団を見て、少女は固まった。

戴輝

なにを恥ずかしがっているの?

そんな少女に追い打ちをかけるように、僕はその白くて小さな耳にそう囁きかけた。

戴輝

こうなることぐらい、予測できたでしょう。…僕達は、夫婦になったんだからね

その途端、少女はすばやく耳を手で覆い、振り返った。

彼女が急に動いたことで、彼女からしていた花のような甘い香りが、一層強くなった。

…ああ、酔ってしまいそうだ。
そんな僕の気持ちに気がついたのだろうか?

彼女はまた、先程のように慌てて僕に背を向けた。
その慌てようが予想以上で、僕は思わず笑ってしまった。

戴輝

…かわいいね

少女の純白の打掛けをそっと床に落とした。
小さな背中だ。

僕はその小さな背中を抱きしめた。
びくりと彼女の体が震える。

優華

…あ、あの、宮さま…っ?

小さな、消えてしまいそうな、でも可愛らしい声だった。

戴輝

違うでしょ、僕の名は“戴輝”だよ

優華

た、たいき、さま…

いっこうに動こうとしない少女を、僕は軽々と抱き上げて布団まで運んだ。

彼女は本当に純粋な少女のようだ。
自分のされていることの意味がわからないといったような顔をしている。

…まいった、冗談では済まなくなりそう。

戴輝

好きだよ、姫君…

耳もとでそう囁いて、それからその小さな耳朶を食んだ。
そのとたん、少女の体がびくりと跳ねる。


僕は顔を少し動かして、白い首筋に音を立ててくちづけを落とした後――、ぱっと、彼女から体を離した。

優華

ふぇ…?

なんだかよくわからないけれど可愛らしい声を出して、涙目になっている彼女に、僕はできるだけ優しい微笑みを向ける。

涙が彼女のこめかみを濡らす前に、拭いとった。

戴輝

ごめんね、期待させちゃった?

僕は、呆然と布団に体を沈める少女の髪を、優しく撫でる。

少女はもう抵抗もなにもせず、黙って僕の手の動きに体を預けていた。

このまま、彼女の全てを奪うことなんて簡単だ。
 

でも、僕にはできない。

戴輝

…君を僕のものにする気なんてないから

それだけ言って、僕は、少女を置いて部屋から一歩足を踏み出した。
 

…と、それ以上進むことができない。

不思議に思い振り返ると、僕の着物の裾を小さな白い手が掴んでいた。

僕は驚いて、少女の顔を見つめる。

優華

待ってください

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