サジェス・エフォール

よし、それくらいで大丈夫だ

サジェス・エフォール

手伝ってくれてありがとう、アプレ

アプレ

いえいえ!サジェスさんのお役に立てて、とっても光栄です!

サジェス・エフォール

ランセもありがとう。助かったよ

ランセ

勘違いするな。丁度暇だったから来ただけだ

ランセ

別にサジェス様のために徹夜で課題を終わらせたわけでは……ない

サジェス・エフォール

……なんか、悪いことしたね

ランセ

気にするな。私も貴女の役に立てて嬉しい

サジェスはアプレとランセを見送った。

ランセはサジェスと同学年で、金属魔法の神童でもある。
機械の修理や金属の加工等非常に応用が利く魔法というのもあり、ランセも魔法の融合の可能性に気づいていた。
正直、合同発表会でアルエットと出会わなければ、サジェスはランセと合同研究を始めるつもりだった。
それ自体は無くなってしまったものの、ランセはサジェスとアルエット両方の友人としていてくれている。
気球を形にすることができたのも、ランセが影で金属魔法の知恵を貸していたからというのも大きい。
今では、忙しいサジェスの代わりに、合間を縫ってアルエットの世話をしてくれている。

なお、今のアルエットの居場所を知っているのは、サジェス、学園長、ランセの三人だけだ。

エクリール

準備はどうだ?

サジェス・エフォール

うん。もう大丈夫だよ

シャンス・スーリール

……………………

サジェス・エフォール

こんにちはシャンスさん!今日もいい天気だね

エクリール

あんなに睨まれておいて、よく言えるな

今、病院の中庭にはサジェス、エクリールの二人だけだ。
シャンスとフェイールを含めた、病院中の患者と医者が上の階から期待に満ちた目でサジェス達を見ている。

それはそうだろう。なにせ、今から気球が目の前に現れるのだから。

フュイール

まさか、私が生きてる間に気球が見れる日が来るなんて!!

シャンスの隣にいるフェイールが一番テンションが高く、くるくる回っていた。

エクリール

というか、気球が発表されたのって数ヶ月くらい前じゃなかったか?

病院の中庭は吹き抜けになっており、広さも十分だ。
また、今回は浮上させるだけのため、横風を計算する必要がなく、あとは風魔法と発火魔法の応用でなんとかなるレベルだ。


普通ならものを浮かすとなるととんでもないレベルで魔法を使う必要になるが発火魔法の熱で気流の調整を行うことで、圧倒的に低コストで浮かせることができる。

エクリール

だいぶ人も集まってきたな

サジェス・エフォール

そうだね、どうせなら沢山の人に見てもらいたいし

エクリール

……………………

サジェス・エフォール

皆さまお待たせしました!これより、サジェス・エフォールによる気球の浮上を御覧いただきます!

待ちきれないといわんばかりの歓声が病院中に響き渡った。
中には腰が曲がっている老人までも腕を突き上げており、改めて空を飛べるというのが人々の夢だったと再認識させられた。

サジェス・エフォール

なお、今回は皆さんの精神的な配慮のため、気球は無人で浮上します。代わりに、気球に撮影機を仕込みました。一定時間たつと自動的にシャッターがきられ、空の写真が写っていることでしょう!

再び大きな歓声。
病院、いや国中の人間が今か今かと待ち続けている。

サジェスは大きく一礼すると、気球の球皮――エンペロープと呼ばれる気球の屋根にあたる部分――の下に取り付けられた機械に手をかざす。

以前、ランセと共に作った特許品――今でいうバーナーだ。

サジェス・エフォール

さあ、行くよ

エクリール

浮いた…………?

割れんばかりの大歓声。
人々が、感動し、歓喜している。
目の前で、気球が、物体が浮いたのだ。
夢がかなった。

エクリールを含め、全員がそう思った。

あとは、気球が無事に上がりきって写真を撮り、無事に着陸すれば大成功だ。

まずはエクリールは離陸だけでも称えようと思って浮かび上がる気球を見つめるサジェスのところまで行こうとした。




しかし

シャンス・スーリール

………………………………

エクリール

シャンスさん…………?

唖然とした。
さっきまで3回から中庭を見下ろしていたはずのシャンスが、フェイールすら気づかない間に中庭に下りてきていた。
サジェスすら、ここにいることを予想できなかった。

サジェス・エフォール

シャンスさん、どうしたんだい?

シャンス・スーリール

満足した?

シャンスからこぼれたのは、ゾッとするほど低い声だった。
まるで、シャンスの周りの空間が違うかのように、中庭の空気がピンと張り詰める。

サジェス・エフォール

どういうこと……?

シャンス・スーリール

貴女が何をしたかったのか知らないけど、結局自己満足したかっただけでしょ?

サジェス・エフォール

そんなことない!ボクはただ…………!

シャンス・スーリール

私は、魔法が嫌い

シャンス・スーリール

魔法も、そして貴女も

サジェス・エフォール

え……………………

エクリール

まずい……………………!

エクリールの頬を汗がしたたり落ちる。
もしかしたら、サジェスは最悪な形でそれを知ってしまうかもしれないから。

サジェスの精神を、根こそぎへし折ってしまうことを。

シャンス・スーリール

貴女が魔法の融合なんて研究を発表しなければ

シャンス・スーリール

貴女が魔法の可能性なんて提示しなければ

シャンス・スーリール

私の両親は死ぬこともなかった!!

サジェス・エフォール

両親って………………!?

シャンス・スーリール

私の両親は貴女の研究を見て、魔法の可能性に気づいた。それから二人は新しい魔法の融合の研究をしていた

シャンス・スーリール

そして、その時の事故で二人とも亡くなった…………

気球がゆっくりと浮かんでいく。
人々の視線が空に集中している中で、地上の空気は重く張りつめている。

いるのはエクリール、サジェス、シャンスだけだ。

サジェス・エフォール

その話、本当なの……?

シャンス・スーリール

……………………

痛いばかりの沈黙が肯定を示した。

糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちるサジェス。
エクリールはそれに駆け寄ることもできない。

上から、何度目かの人々の咆哮。
気球がゆっくりと降りてきているようだ。

タイマー式でだんだん火を弱くするように魔法をかけておいたため、おそらく何の問題もなく着陸できるだろう。

しかし、もはやサジェスにはそれすら認識できなかった。
膝をつき、シャンスに頭を下げる形でうなだれる。


天才が、絶望した姿だった。

エクリール

サジェス……………………

シャンス・スーリール

帰ってください

それが、最終通告だった。
無理して立っていたのだろうか、シャンスはフラリと倒れた。
呼吸が荒く、顔が紅い。


気球はだんだん近づいてくる。
しかし、天才は空を見ようとはしない。

病院中から拍手の嵐が巻き起こる。
皆が息を殺して、天才からの言葉を待っている。


しかし、下から声が聞こえることはなく――――

サジェス・エフォール

………………………………っ

サジェスの小さな慟哭だけがエクリールの耳に届いていた。

To be continued...

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