フュイール

いつもありがとうございます、サジェスさん

サジェス・エフォール

ううん、ボクも好きで来ているから

エクリール

……………………

あれから数日間、サジェスは毎日シャンスのところへ通っている。
まぁ、もちろん着いたところで――――

シャンス・スーリール

帰ってください

シャンスに追い出されてしまうのがオチなのだが。

それでも諦めないのは、サジェスなりに何か思うところがあるからなのだろうか。
たまに、学園の授業中にもノートに走り書きをしている。
何を書いているかは、エクリールでもすぐにわかった。

授業後にそれとなくサジェスに何を書いていたか聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
とはいえ、何を考えていたのかは一目瞭然だったのだが。

サジェス・エフォール

シャンスさんの調子はどうだい?

フュイール

体の方は今まで通り安定しています

フュイール

ただ、やっぱり口数が少なくて……

サジェス・エフォール

……そうだろうね

まあ、サジェスがてこずっているくらいだ。
そう急に表情が戻ったりというのもないだろう。

エクリール

彼女は今どうしている?

フュイール

今は検診を終えて部屋で休んでいると思います

サジェス・エフォール

グッドタイミングだね!じゃあ行こうか

サジェス・エフォール

シャンスさん、こんにちは!

シャンス・スーリール

…………また、来たんですか

サジェス・エフォール

そりゃあ、ボクはキミと友達になりに来たんだから

シャンス・スーリール

帰ってください

サジェス・エフォール

二言目にそれは辛いなぁ~

今日もシャンス・スーリールの攻略は厳しそうだ。
名軍師であるサジェスをこうも一蹴し続けるとは。

エクリールは正直、あの頑なさには尊敬すら抱いている。
それにもめげずに攻め続けるサジェスにも相当な頑固者だが。

エクリール

…………それにしても

エクリール

私は結局、サジェスに何も伝えてない

エクリール

シャンスが怪我をした経緯を……

フラッペ上官に報告を終え、帰ってきたときにはサジェスは既に眠っていた。
まだ日付も変わっていないのに、である。
普段なら、新しい研究テーマが決まったら、計画を立てたり文献をあさったりと連日徹夜は当たり前と聞いていたのに。

エクリール

まぁ、サジェスが誰に会っていたのか、私も知らないんだが

考えられるとしたら、彼女の研究の相方であるアルエット・コネッサンスだろうか。
最近になって所在が分からなくなっており、軍の幹部が必死に探そうとしているのを耳にしたことがある。

優秀な魔法使いはそれだけで利用価値がある。
そういう意味も含めて、この国だけでなく近隣諸国でも魔法使いの育成に必死なのだ。

エクリール

とりわけ、アルエット・コネッサンスはサジェス・エフォールと比肩する天才だ。万が一潜伏している敵国の間諜に奪われでもしたら……

少なくとも、国にとっては大損害だ。
優秀な魔法使いの獲得は、そのまま国力の増強につながる。
遅れを取るのは敗北につながる。

エクリール

天才…………か

エクリールは、ぼんやりと病室の外からサジェスを見る。
名軍師の采配は、どうやら今日も空振りらしい。

エクリール

サジェスは、シャンスの傷を魔法の事故が原因だと思っているようだが……

間違ってはいない。
フラッペ上官からすべて聞いていたエクリールはシャンスの怪我の理由も把握している。


把握しているからこそ、エクリールはサジェスに伝えることができなかった。

もし真実を知ったら、サジェスはきっと絶望してしまうから――――。

サジェス・エフォール

それじゃシャンスさん、また明日ね!

シャンス・スーリール

……………………

サジェスが元気に手をブンブン振っている。
その向こうのシャンスの目は、依然として鋭いままだ。
エクリールですら思わず怯んでしまう。

サジェス・エフォール

待たせたね、エクリール。じゃあ帰ろうか

そして、そんな視線を受けてもびくともしないサジェスもすごい。
鉄でできているのだろうか、彼女の心は。

サジェス・エフォール

それじゃフェイールさん、明日もまた来ます

フュイール

え?あ、はい……

フェイールはあっさりと帰っていくサジェス達をぽかんとしながら見送った。

エクリール

期待に応えられてなさそうだな

サジェス・エフォール

まぁね。でも、彼女が見ているのは夢なんだよ。『天才』なら女の子の傷ぐらいパパッと治してあげられるって思っているんだ

自分で天才って言うのは、ボクは好きじゃないんだけどね。
そう、サジェスは自嘲的に笑った。

サジェス・エフォール

とどのつまり、僕らは同じ人間なんだ

サジェス・エフォール

目標に向けて、小さくても一歩一歩努力していくしかないんだよ

そう言うサジェスの顔は、どこか寂しげだった。
そして、どうしてそんな顔をするのか、エクリールは分からなかった。

バティール・ヴァルテュー

お疲れさま。仕事の方は順調?

サジェス・エフォール

いや、全然。特にフェイールさんの方は八方塞がりだよ

バティール・ヴァルテュー

……難航してるみたいね

エクリール

一応、軍の依頼の方はそれほど滞りなく進んでますが

サジェス・エフォール

軍の命令を無碍にできないだろう?

そうやってさらりと言ってしまうサジェス。
エクリールと学園長はそろって顔を見合わせる。

バティール・ヴァルテュー

それより、フェイールさんの依頼はどうするつもり?

サジェス・エフォール

一応、考えてはあるんだ。彼女の笑顔を呼び覚ます奥の手は

エクリール

そうなのか?

サジェス・エフォール

人が記憶や表情を失うのは、何か精神的に大きなショックを受けた時

サジェス・エフォール

だから、その逆をすればいいんじゃないかって

バティール・ヴァルテュー

ちょっと待って。シャンスさんは怪我しているし、精神面に傷を抱えているのよ。危ないことでもしたら……

サジェス・エフォール

ひどいなぁ学園長。ボクが今まで意図的に危険なことをやろうとしたことがあるかい?

サジェス・エフォール

シャンスさんに危険はないよ。それは保証できる。ただ、それを実行するのにちょっと手続きが必要でね

エクリール

手続き?

サジェス・エフォール

エクリール、軍に行って手続きをしてきてくれないか

サジェス・エフォール

今週末に、気球を浮かせるってね

To be continued...

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