とお尋ねの途中で他の仲間が参上してまいりました。
左馬頭(ひだりのうまのかみ)と藤式部丞(とうしきぶのじょう)です。

中将はこの者達と先程の話の続きをなさいます。


源氏の君は聞きづらい話ばかりだとお思いになりながらも、話を遮るのも悪いと思い静かにされているのでした。

左馬頭

成り上がった者でも、それでも格別なものでしょう。
落ちぶれた者は…そうですね。気位だけ高くてもどうしようもないこともあります。中、といったところでしょう。
受領という地方政治を行う者の中にも、また階級の区別があります。
そのあたりの中途半端な上達部(かんだちめ)より、世間の評判も生まれも悪くない者が静かに暮らしている様の方が、いっそ清々しくて好ましいと思いますね。
不足のない生活をして大切に教育された娘などは、いい具合に成長していたりするものです。
そういう娘が宮仕えに出て良い縁に巡り合うといったこともあるようですし。

と左馬頭はおっしゃいました。それを聞いて源氏の君が

源氏の君

それでは、女性は家柄が良くてお金持ちでなければいけないのですね

とお笑いになると、

中将の君

あなたらしくない御言葉をおっしゃるものではございません

と中将に咎められてしまいました。

中将の君

高貴な身分と時勢が揃っていれば、優れているのは当然なのです。
両方揃っているのに劣る方がいらっしゃれば、どうしてこのように育てられたのだろうと思ってしまいますね。
逆に、荒れ果てた家に可愛い女が静かに暮らしているのを見れば、惹きつけられるものがあります。
どうしてこのような方が相応しくない場所にいるのだろうかとつい考えてしまいますから。

というのが中将の言葉です。
源氏の君はそれはどうなのだろうかと思われます。

おそらく人々が上と呼ぶところにいる自分でさえ、魅力的だと思う女性はいないのにとお考えです。


着物を軽く着こなして、物に寄り掛かる源氏の君のその御姿はたいへん美しく、このような方には上の上の姫君を選びだしても、それでもそぐわないような気さえしてしまいます。

左馬頭

いやはや、妻を選ぶのはとても難しいことですねえ。主婦として家に置くとなると、できないでは済まされないことがいろいろ出てくるものですし。
とは言え、無造作な恰好で家事だけをしっかりこなすのも所帯じみて嫌ですね。

と女性の話は続き、結論が全く見えません。
左馬頭の言葉はまだまだ続きます。

左馬頭

今となっては、家柄も容貌の美しさも気にしません。
性格が穏やかで真面目な女を生涯の妻にしたいと思います。
そう言えば、恨み言も言わず我慢ばかりして、ふとした時に哀しい歌と形見の品を残して隠れてしまう女の話などありましたね。
子供の頃はそれを聞いて可哀相だと同情しましたが、今となっては浅はかだとしか思えません。
わざとらしく振る舞って夫の気持ちを探ろうとしても、後戻りできなくなっては意味がありませんからね。
逆に嫉妬ばかりで簡単に離縁を持ち出す女も嫌です。
つまり穏やかな女が一番良いということなのです。

恨み言を言うべき時も、可愛らしく嫉妬でもして見せれば、かえって愛おしく思ったりするものです。

 すると中将も頷かれ、こうおっしゃいます。

中将の君

結局、夫婦仲の良くない時も、じっと耐えるのが一番なんですよね。自分がしっかり気持ちを持っていれば、存外時間が解決してくれたりすることもありますし。

と、中将は妹と源氏の君がまさにこれかと思われます。
それなのに源氏の君ときたら話に飽きたのか居眠りをされているではありませんか。

なんとも物足りないと中将は感じられます。

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