光る君、という立派な呼び名で呼ばれ、美しい御顔立ちをしておられながら、源氏の君は年頃らしからぬ慎ましさでございます。
左大臣邸に通うことが少ないこともあり、他に親しい女性がいるのではと噂ばかり立ちますが、当の御本人にそのような御気持ちはございませんでした。
世に言う色好みの生活は、なんとも愚かで好ましくないとお考えだったのです。
それは長雨の続く梅雨のことでした。
左大臣と大宮の間にお生まれになった、今は中将の位にある御方がいらっしゃいます。
つまり葵姫の兄君、源氏の君にとっては義兄にあたるその方と若君とは親しくされておられました。
中将は右大臣の姫君を正妻に迎えていたものの、色好みとしても有名な御方です。
考え方も性格も全く違うおふたりでしたが、お互い相手をどこか好ましく感じられ、遊ぶ際も常に一緒にいらっしゃいました。
ある日、源氏の君はなにもすることが無く手持無沙汰であったので、厨子の中に置いてある手紙を見ていらっしゃいました。
するとそばにいらした中将がその手紙を見たいとおっしゃいます。