光る君、という立派な呼び名で呼ばれ、美しい御顔立ちをしておられながら、源氏の君は年頃らしからぬ慎ましさでございます。


左大臣邸に通うことが少ないこともあり、他に親しい女性がいるのではと噂ばかり立ちますが、当の御本人にそのような御気持ちはございませんでした。


世に言う色好みの生活は、なんとも愚かで好ましくないとお考えだったのです。


それは長雨の続く梅雨のことでした。


左大臣と大宮の間にお生まれになった、今は中将の位にある御方がいらっしゃいます。

つまり葵姫の兄君、源氏の君にとっては義兄にあたるその方と若君とは親しくされておられました。


中将は右大臣の姫君を正妻に迎えていたものの、色好みとしても有名な御方です。


考え方も性格も全く違うおふたりでしたが、お互い相手をどこか好ましく感じられ、遊ぶ際も常に一緒にいらっしゃいました。
 

ある日、源氏の君はなにもすることが無く手持無沙汰であったので、厨子の中に置いてある手紙を見ていらっしゃいました。


するとそばにいらした中将がその手紙を見たいとおっしゃいます。

源氏の君

人に見られると都合の悪いものもある

と源氏の君がおっしゃると、

中将の君

都合の悪いものほど見たいものです

と中将はおっしゃいます。


源氏の君は手紙を隠されながらおっしゃいます。

源氏の君

そなたの方こそ手紙はたくさんあるのではないか

すると中将は

中将の君

源氏の君がご覧になる価値のあるものなどございません

と話を逸らすのでした。

中将の君

最近は、完璧な女などいないとだんだんわかってきました。
世話をする女房達は、主人のことを思い良いことしか言いません。芸事に優れていると聞いても、大したことのない者がほとんどです。
そもそも、若いうちは家事に追われることもなく習い事しかすることが無いのですから、それなりにできて当然なのです。
それを大きい顔をしてできるふりをしているのはなんとも見苦しい。

だいだい結婚して一緒にいるようになれば、相手の欠点が一つも見つからない、なんてことはないんですよ。
そのうちどんな女でも飽きは来ます。

との中将の言葉です。

源氏の君はこの男を一緒にいて楽しい男と思いつつも、このようなところは好めないと聞き苦しく感じられます。

源氏の君

その才能の一つもない者というのは、いるのだろうか

源氏の君がそうお尋ねになると、中将は笑われました。

中将の君

さあ、どうでしょうね。そのように酷い所には誰も寄り付かないでしょうから。
高貴な家に生まれると、家人に大切に世話されるので、自然と奥ゆかしさが出てたいてい良い女に見えますよ。
中流になると、それぞれに個性が出て良し悪しの区別がつきやすくなります。
下流になると……女として見る気も起きませんが。

中将は源氏の君よりも五歳年上で、なんでも知っているように振る舞われます。

そのようなところが面白い、と源氏の君はお思いになるのでした。

源氏の君

では、その身分の区別はどうやってつけるのだ。
高貴な家に生まれたものの落ちぶれた者や、逆に出世して得意顔をする者もいるでしょう。
そのような者達はどう区別するのか。

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