町の様子に違和感を覚えつつ、
私とアーシャは手芸屋さんへ入った。

このお店では、
お土産として販売する商品を作るのに使う
糸とか生地とかを購入する予定だ。
長旅の間に在庫をだいぶ使っちゃったからね。


店内は色鮮やかな糸や生地が陳列されていて、
見ているだけでも楽しい。
素材も綿や麻、絹、羊毛など豊富に揃っている。
 
 

ミリア

へぇ~、品揃えがいいのね。

アーシャ

あ……でも……。

ミリア

どうしたの?

アーシャ

価格を見てください。
少し高めのようです。

ミリア

え……?

 
値札を確認してみると、
確かにほかの町より5割くらい高めに
設定されていた。

これだと買う量が多くなればなるほど、
それを使って製品にした時の
コストが上がってしまう。


つまり売値を上げない限り、
儲けが減ってしまうということだ。
 
 

アーシャ

どうやら全ての商品が
高めのようですね。
別のお店を探しましょうか?

ミリア

そうねぇ、どうしようかなぁ。

レミリア

――お嬢さんたち!

ミリア

っ!?

 
その時、店のカウンターにいたおばあさんが
私たちを睨みながら声をかけてきた。

どうやら会話の内容が聞こえちゃったみたい。
お店の中にはほかに人がいないし、
静かだったからなぁ。
 
 

レミリア

ちょっとこっちへ。

ミリア

はい?

 
おばあさんは囁きながら手招きをしていた。

わけが分からなかったけど、
私たちはとりあえずおばあさんのところまで
近寄ってみる。
 
 
 
 
 

レミリア

どこの店に行っても
価格はそんなに変わらないよ。
この町の中にある以上はね。

ミリア

どういうことですか?

レミリア

それを知ったらあんたたちは
絶対に後悔をする。
余計な詮索はしないことだね。

アーシャ

知らぬが仏――ということですか。

レミリア

ま、この町にいれば
遅かれ早かれ
知ることになるだろうけどね。

レミリア

あんたたちは旅人だろう?
さっさとこの町を離れた方がいい。

ミリア

…………。

 
――この町には何かがあると私は確信した。

そうであるならば、その事実や詳細を
フロストに知らせなければならない。



気になる噂があるならそれを確かめる。
そのためにこの町に来たって
フロストは言っていた。

そしてそれはエステル様を助けることにも繋がる。



2人のためになるなら、私は協力を惜しまない。
なにより、このまま見て見ぬ振りをするなんて
絶対に嫌だもん。


――うん、私は決心したッ!
 
 

ミリア

アーシャは店の外に出て。
私はおばあさんから話を聞くから。

アーシャ

…………。

レミリア

お嬢さん、何を言っているんだい!
まだ若いのにこの町で一生、
苦しい生活を
送ることになるんだよ?

ミリア

やっぱり普通じゃない何かが
この町にあるんですね?

レミリア

……っ!

 
私の問いかけに、
おばあさんはハッと息を呑んだ。

そのままばつが悪そうにしながら目を逸らし、
沈黙してしまう。
 
 

ミリア

話してください。
おばあさんに責任を転嫁する気は
ありません。
私は真実を知りたいんです。

レミリア

……本気かね?
それを知ったら、
後戻りは出来なくなるよ?

 
 
 
 
 

ミリア

覚悟は出来ています!

 
 
 
 
 
私はおばあさんの目を見つめ、
ハッキリと言い放った。

おばあさんは当惑したような顔をしていたけど、
私はそれでもずっと真っ直ぐに見つめ続けた。
決意が揺るがないことを伝えるために……。



するとしばらくして
おばあさんは深いため息をつく。
 
 

レミリア

……分かった。
そこまで言うなら話してあげるよ。

ミリア

アーシャは外に出ていて。

アーシャ

何を言っているんですか。
私もお付き合いします。
旅は道連れ、世は情けですよ。

ミリア

アーシャ……。

レミリア

そっちのお嬢さんも
それでいいんだね?

アーシャ

はい。もちろんです。

レミリア

それなら話してあげるよ……。

 
おばあさんは小さく咳払いをした。
そして私の方へ視線を向けてくる。



いよいよ真実を知ることができるんだね。

ちょっとだけ緊張してきた……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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