私たちはサットフィルドの出入口へ到着した。

町の周りは高い塀でぐるりと囲まれているので、
出入りをするには何か所かある門の
いずれかを通らなければならない。


――まるで城塞都市。
かつては戦略的に重要な町だったのかな?



ちなみに今は隣国と友好関係にあるし、
国境からも離れた場所に位置しているから
こんなに堅牢な塀は必要ない。


現在のご領主はサイユ王家に仕えている
バサール伯爵という人。

政治手腕に優れている上、
特に金銭に関しては
清廉潔白なことで知られているみたい。
 
 

ミリア

随分と待たされるのね……。

 
門の通過を待つ列に並んでから
すでに1時間が経過していた。

噂には聞いていたけど、
出入りがこんなにも厳重だとは思わなかった。
荷物の中に隠れているハミュンは
審査の時に大丈夫かな?

余程のことがない限り、
正体がバレることはないとは思うけど……。
 
 

アラン

まだ時間がかかりそうだな。

ミリア

なんでここまで厳重なのかしら?

アーシャ

治安のためではないですか?

ミリア

それにしたって厳しすぎない?

フロスト

念には念をということだろう。
いいことじゃないか。
さすがバサール伯爵だよ。

ミリア

そういえばサットフィルドって
サイユ王国の領地内よね?
つまりフロストの家臣ってこと?

フロスト

僕の家臣なんていないに等しいよ。
正確には国王である
父上の家臣だね。

フロスト

そしてライカントを治めている
エステル姉さんが、
監督を任されている。

アルベルト

……なるほど。
つまりサットフィルドで何かあれば
エステル王女が責任を
取らされるわけか。

フロスト

…………。

ミリア

エステル様がっ!?

アルベルト

だから噂であっても気になることは
確認しておきたかった。
それでフロストは一座に加わって
ここまで旅をしてきたんだな?

 
アルベルトの問いかけに、
フロストは沈黙したまま答えなかった。

でもそれって肯定の意思を
示しているようなものよね……。



それからしばらくして、
フロストは観念したように小さく息をつく。
 
 

フロスト

アルベルト、さすが鋭いね。
そういうことさ。

ミリア

でもバサール伯爵はきちんと町を
統治しているのよね?
気になる噂があるって程度で
わざわざ確かめに出向くなんて。

フロスト

僕は暇だからね。
それにミリアと旅をしたかったし。

ミリア

なっ!?

 
ドキッとして心臓が止まりそうになった。

フロストはニタニタと笑っている。
つまりまた悪い冗談で、
私をからかっているってことなんだろうな。



なんだろ、その態度がすごくイライラする。

……それに少し寂しい。
 
 

アラン

おいフロスト、
そういうことばっかり言ってると
ミリアに嫌われるぞ?

フロスト

でもその方がアランにとっては
好都合なんじゃないのかい?

アラン

なっ、なんでだよっ?

フロスト

さぁねっ♪

アラン

っっっ……。

ミリア

少なくともあたしは
成り行きで仕方なく
フロストと旅をしてるの。
勘違いしないでよねっ!

フロスト

相変わらずキツイなぁ。
少しは距離が縮んだかなぁって
思ってたのに。

ミリア

それは気のせいです。妄想です。
バッカじゃないのっ?

 
私は眉を吊り上げ、そっぽを向いた。


なんで軽い感じでそういう冗談を言うのっ?
ホントにイライラするっ!
少しは私の気持ちも考えなさいよねっ!


あ~っ、もうっ! フロストのバカ~っ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
それから1時間後、
ようやく私たちは門のところで
町へ入るための審査を受けた。

幸いにもハミュンのことはバレなかったし、
無事に町に入ることができた。
とりあえず、ひと安心……。
 
 

ルドルフ

さて、俺は役所へ行って、
興行をするための
手続きをしてくる。

フロスト

それなら僕も一緒に行きます。

アルベルト

じゃ、俺たちは宿を探しておく。

ミリア

私はアーシャと一緒に
買い物をしてきていいかな?
長旅で色々と物が不足してるし。

アルベルト

分かった。
宿は俺とアランが探しておく。

 
 
 
――こうして私とアーシャは馬車を降り、
市場へと向かった。

ちなみにその際に道を歩いていて
すぐに気がついたのは、
あちこちに兵士さんが立っているということ。


監視されているみたいで抵抗はあるけど、
これなら治安がいいのも頷ける。

……でも少し多すぎないかな?
 
 

ミリア

兵士さん、多いね?

アーシャ

そうですね。
これだけ目が光っていれば
犯罪の抑止にも繋がりますね。

アーシャ

ただ、町の人たち、
少し怯えている感じがします。
兵士さんたちと
目を合わせようとしませんし。

ミリア

えっ?

 
確かによく見てみると、
アーシャの言う通りだった。

道を歩く人も商店で商売をする人も
常に兵士さんを気にしている感じ。
瞳には怯えの色も見える。


やっぱりこの町、何かあるのかも……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第24幕 城塞都市サットフィルド

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