……その一言は、本当は禁句だったのかもしれない。
自分が証明されて、気が楽になった天都の不容易な一言が、周囲を殺気立たせる。
追放はイコールで死ぬということだから。
で、今日は誰を追放するんだ?
……その一言は、本当は禁句だったのかもしれない。
自分が証明されて、気が楽になった天都の不容易な一言が、周囲を殺気立たせる。
追放はイコールで死ぬということだから。
……結局誰かを追放しなきゃいけないんだ
切り出すなら、確定白のほうがいいだろ
しれっと、天都は議論を再開させる為に、どうするべきかを未来に聞く。
久遠寺、どうする?
そうね……
一日目で、情報が少ないからどこから切り込むか、確実にしていかないと……
未来は何かを考えるように、切り込む材料を探している。天都は考える手間が惜しかった。
だから、身近な所から追及する。
時雨、何でさっき俺と久遠寺を疑った?
それは親友の時雨だった。
理由は、未来の先程の発言の時に異論を唱えたから。
まるで未来の行動を阻害するかのように割り込んだ意図を知りたい。
……大体理解したぜ
異論を唱えたのは俺だけだ
それが怪しいってことだろう?
理解が早くて助かるな
時雨は天都の言いたいことを逆に聞いて、シニカルに笑って理由を言う。
十中八九、初日には必ず黒が発生すると俺は思っていた
偽物の占い師と本物の占い師
そしてそのパターンの霊能者でな
俺は最初、久遠寺を偽物だと感じた
あの二人への過剰な反応で、俺は黒だと思ったのさ
成程、理屈は通ってるな
なら、いい
つまり嘲笑、罵倒され頭に来た狼が噛み付いているように見えた、ということか。
一理あると天都は頷いた。
あれは、あたし元来の性格なのよ!
悪かったってば!
迂闊なことはするなよ久遠寺
今は、疑心暗鬼になってるんだ
軽はずみな行動は直結で追放されるぞ
何も言わない春菜は、天都が疑いをやめてホッとしていた。
親友同士が痛くもない腹の探りあいをしているのを見るのは忍びないと思う。
仲良しが一番いい、と場違いなことを考えていた。
未来が、それよりもと言うのは、問題の二人だった。
クスクス……
……
立夏と黒花。
この二人は、何を考えているか読めない。
議論に参加しないで眺めているだけ。
しかも愉しそうに。疑われても何も言わない。
余裕の笑みでどうぞ、と言うような顔をしている。
立夏は苛立つ未来に時折茶々をいれながら、黒花は流れ自体を面白がっているフシがあるのだ。
こんの……ッ!!
人が必死になってやってるところを!!
人様が必死になってる乗ってみてて楽しいですよねー
滑稽っていうか、バカにしたくなるんですよー
今の所、立夏は未来を遊び相手に選んでからかっている。
黒花は遊撃するように、議論に参加しない奴含めて全員にちょっかいを出して遊んで、まだ朝飯を食べている。
……ん? 全員?
……待て
なぜだ?
なぜ、黒花は……兄妹に手を出さない?
初対面でアレだけ絡んでいた彼女には、一切話しかけない?
春菜を甘ちゃんと笑い、時雨を眼鏡が割れろと謗るのに、月子と天都にだけは何も言わない。
そして月子もまた、黙って成り行きを見つめているだけ。
どういうつもりだ、如月
おや、今更気付きましたか夜伽さん
天都の問いに、こちらを見ていたのか、黒花はすぐに反応した。
視線が一ヶ所に集中する。
天都は睨み、黒花は飄々としている。
何で、お前みたいな女が月子に何も言わない?
他の奴らの反応を見ているんだろう?
ならなぜ、一番性格的に怪しいであろう月子を放置するんだ
別に?
深い意味などありませんよ?
ただ言ったでしょう、夜伽さん
この場で言わせるおつもりですか?
何を今さら、という風に逆に呆れられる。
その態度には覚えがあった。
強者には手を出さない……?
あれは本気だったのか?
彼女の目的は、ただゲームを愉しむこと。
強者との諍いは無双の邪魔になるので、やらない。
妨害は、自分の楽しみの妨げにしかならないから。
逆を言えば、つまり黒花はほかのメンツを見下している。
その中で、月子と天都を脅威と判断しているということか。
天都は既に白が確定している。
月子は強いから嫌。
だから口出ししない。
如月
お前はあくまで第三者として留まるつもりか?
ええ、まだわたしが動くときではないで
話し合いをしたいならばどうぞ?
ちゃんと聞いてますし
ただ、口出しはしません
進めるべき人が進めればいい
肝心な人に茶々を入れて進行できなくなるのは本位じゃないですよ
立夏に未来を任せて、黒花はあくまで自分に無関係の人間で遊ぶ。
あの狂った二人は、互いの同類のニオイを感じて、本能的にそう分担することにした。
立夏が求めている玩具は壊れにくくて面白くて、そして自分に何かしてくるもの。
未来という攻撃的な相手はその条件に当てはまる。
黒花は広く浅く、弱者を甚振ったり、摘み食いをして遊びたい。
だから一点に留まることはせず、多くの弱者に手を出すのだ。
テメェ……
傍観者を気取るつもりか
夜伽さんの邪魔をしないのに文句を言われるとは心外ですね
傍観者であることを否定しない彼女は、食べ終えておかわりのコーヒーを注ぎに部屋のスミにあった電気ポットに取りに行く。
これ以上の議論はしないと、背中に書いてあった。
別に、私も参加していないわけじゃありませんよ
ただ、迂闊なことをすると自滅しますから
自制しているだけです
何か質問あったらどうぞ、兄さん
……成程、ならいい
月子は冷静にゲームを進めると言っていた。
普段の言動を鑑みて、落ち着いて挑んでいくのだから、おとなしくて当然。
彼女は、彼女なりに本気なのだ。
天都はそれを昨晩聞いている。故に納得した。
あははははははっ!
迷っているんですか先輩?
だったら適当にやればいいんですよ
確率はそんなに低くないんですから
運が良ければ、黒いのが当たりますよ!
ふざけんじゃないわよッ!!
あんたはさっきから、生命を何だと思ってんの!
大笑いする立夏が提案し、未来が直ぐ様異論を唱えて却下したが、それも手段だった。
まだ一日目、情報量が少なすぎる。
昨晩は死人なし。だったら手当り次第でいい。
確率論ではあるが、黒を排除できる可能性が現段階で唯一ある。
然し……それは余りにも不確かで、人命を軽視している選択肢だった。
……不意をつくかのように。
立夏の声色が、表情が、引き締められる。
巫山戯てる?
こっちが巫山戯ているって言うんだね
ねぇ、占い師
本当に巫山戯てるのは、どっち?
立夏は先程のおちゃらけた態度を引っ込めて、真顔でグレー全員に問う。
それは、遊んでいる彼女とは違う一面。
ここで誰か追放して殺さないと、本当にやばいよ?
わかってんの?
このまま怖くて選べませんでした、で終われば違反で死ぬよ、全員
追放者無しって状況だと
言われなくても、感じなよ
絶対妨害じゃん、これって
これを延々続けたら、ゲーム成り立たないんだよ?
悪いけど、こっちだってそれなりのモンを背負ってこの場所に来てるんだ
バカの二の舞になる気はないんだよ
何もできないで死んでたら、こっちのメンツに関わる
こうなったらさぁ、運試しでもランダムでもなんでもいいから、進めなきゃダメだろ!?
殺さなきゃ、こっちが死ぬんだよ!
自分の意思で来てるんだったら、人殺す覚悟ぐらい、してこいよ!
それができない奴が死ねばいい!
寧ろそいつが死ね!
先ほど天都がやったみたいに机を引っぱたく。
壊れない頑丈な机の音に、他の呆気にとられていた参加者は我に帰る。
私は……その人に一票入れる
今まで成り行きを黙って見守っていた組の一人、神無がまっ先に膠着した中で動き出す。
彼女がいれた先は……
なっ……!?
御子柴良太。
彼は驚いたように、アクションを起こした神無に怒鳴る。
神無はただ、一言簡潔に理由を言った。
……直感、だよ……
本当は、誰でもいいけど……
……ただ、御子柴さんは眼鏡だから嫌な予感がするの
……昔、酷い目に合われた人の中に、御子柴さんに似た人がいて……何となく怖いから
意味不明な理由だった。
屁理屈そのものに、当然怒る良太。
明確な理由があるなら、すぐに切り替える
でも……どの道、誰か動かないといけないなら……私が動くよ
進行役の、天君の代わりに
私は人から恨まれたり、憎まれたり……蔑まれたり、否定されたりするの、慣れてるから……
恨むなら、いいよ
どの道私もこうして率先して動いている以上、遠からず疑われると思う
リスクしかないなら……確定白の人にそんなこと、させるわけにはいかないよね……
だから、私が真っ先に動く……
避けてほしいなら、証拠をみせて?
私は、現に何もないよ?
何なら、御子柴さんを追放した次は、私を追放してもいい
生命を対価にして、潔白を証明するから
私が死んだあとに、きっと三城さんが私の無実を証明してくれる
天都は目を見開いた。
死んでもいいと言っていた神無が、自分から死にに行くようなことをした。
適当にやるんじゃないのか、と考えてふと思う。
あいつまさか……『狂人』っていうのは、本当だったのか?
『狂人』は村人と同じ、何も持たない役職。
本当だったら嘘を巧みに使って進めていくのに、彼女は『素直さ』で行くと言っていた。
確かに、素直だ。
自分のリスクを承知の上で、殺したければ殺せばいいと言い、誰も動けない状況を打破しにかかった。
人殺しと言われることを、覚悟の上で。
天都の代わりに、とも言ったのは。
あの子は……きっと、天都が人殺しと言われるのを見たくないのだと感じさせる。
御子柴が流れを作った神無に怒鳴りながら、自分の役職を必死に叫ぶ。
自分は『狩人』である、と。
ただ証明する方法は、ない。
カードを見せれば死んでしまう故、言葉だけ信頼を勝ち取れなければ。
神無……
……いいんだよ、天君
これは私が勝手に始めたこと
……天君は気にしないで?
私が突破口を作るから
キミの手を煩わせることは、させないよ
私は、キミの味方
キミが困ったときは、私が道を作る
キミはキミのやりたいことをして
どんな結果になろうとも、私はキミを恨まない
……たとえ、キミに殺されても
私は、穢れてもいい
どんな風になっても
キミの代わりなら、悪くないと思えるよ
その覚悟の決め具合は壮絶だった。
神無にしてみれば、大した意味もない自分でも、天都の為なら役立ってくれるかもしれない、と半ば生き残ることを諦めていた。
彼ごと違反で全滅するよりは、まだマシ。
天都からすると、何の為にやっているのか分からないが、味方だと笑顔を向けられているのに、恐ろしいと思ったのは何故だろう。
いいでしょう、その無謀!
わたしも乗ります!
次に声を上げたのは黒花。
コーヒーを飲み終えて、嬉しそうに言った。
彼女は何やら自信満々の様子だ。
一条さんだけじゃありませんよ
わたしも、御子柴さん殺しに加担しましょうか
本当に狩人だったらごめんなさいね、御子柴さん
そこに乗っかるのは、焚きつけた立夏だった。
あははっ!
一条って人も面白いですね!
いいですよー、立夏も大賛成です!!
眼鏡なんて割ればいいし
今日もここで、眼鏡は割れるんです
大体、眼鏡が狩人?
目の悪いハンターに何ができんですかねぇ
その節穴の中身はビー玉じゃないですか?
参加していなかった三名が、突然動き出して、御子柴に投票。
唖然としている未来、春菜。
そんな中、天都は違和感を覚えた。
その違和感が正しければ、もしかしたら。
ここは、攻めるべきだ。
自分が死なないためにも。
月子と生きるためにも。
味方だという神無の想いは、天都にしか分からない。
ならば、その素直な気持ちを信じる!
神無……
……うん?
分かった
俺は、お前を信じるよ
……ありがとう
流れは、完全に御子柴追放に固まっていた。
ぎゃあぎゃあ文句やら罵倒やらを言うが、暴力禁止のルールがある限り、彼に物理的な攻撃は出来ない。
数の暴力というルール内の暴力に抗う方法など、既になかった。
…………
大体察した
俺も天都を信じるぜ
これしかないなら、仕方ないですよね
……ごめんなさい……
天都が確実に信じられると分かった今、各々彼の味方をしたいと思っている彼らはすぐに投票を入れた。
その時点で、過半数は既に越えている。
んあ?
なに、柴犬追放?
りょうかい
誰が柴犬だ!?
ツッコミそこっすかーーーー!?
昼寝をしていたエビも、すんなりと御子柴に入れる。
残った参加者も、このまま死ぬのは嫌だという思いはある。
誰かを犠牲にするしかない。
言い出しっぺが悪いという逃げ道もある。
殆ど人柱のように、御子柴は投票されて、追放決定をされてしまったのだった……。