ハミュンは頬を赤くして、ボーッとしていた。

結構長い時間、服の中にいたんだもんね。
かなり暑かったのかも……。
 
 

ハミュン

ふふぁ~。

ミリア

ハミュン、
もう元の姿に戻っても大丈夫よ。

ハミュン

……うん。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

ハミュン

…………。

 
ハミュンは元の姿に戻った。

でもやっぱりまだ熱っぽい感じで、
足下がフラフラしている。


私は彼女の体を支えつつ、座らせてあげた。
 
 

ミリア

もうハミュンを追ってくる人は
いないと思う。
今度は見つからないように
気をつけて暮らしてね。

ハミュン

……ありがとう。
人間にもいいヤツがいたのね。

ミリア

これからどうするの?

ハミュン

決めてないわ。
どうしようかな……。

 
軽く俯いて考え込むハミュン。

するとアーシャは間髪を入れず、
微笑を浮かべながら問いかける。
 
 

アーシャ

だったら落ち着く先が決まるまで
私たちと一緒に来ますか?

ハミュン

え……。

アラン

おいおい、アーシャ。
それはいくらなんでも……。

アーシャ

ダメなんですか?
アランさんはハミュンさんを
見捨てろと言うのですか?
そんな冷たい人だったんですか?

アラン

う……。

アラン

べ、別に一緒に来たっていいよ!
きちんと仕事をするのなら……。

 
それを聞いたアーシャはニッコリと微笑んだ。

彼女がこんなにも感情を表に出すなんて
珍しいかもしれない。


――そういえば、
最近はよく笑うようになったかも。

出会ったばかりのころは無表情でいることが
多かったもんね。
 
 

ミリア

ねぇ、ハミュン。
あなたはどうしたい?

ハミュン

うーん……。

ハミュン

お言葉に甘えさせてもらおうかな?
あなたたちの様子、
もう少し見させてもらいたいの。

ハミュン

私の知っている人間たちと
違うみたいだから。
人間がどんな生き物なのか、
自分の目で見極めてみたい。

ミリア

どうします、座長?

ルドルフ

俺たちの力では
ハミュンを守りきれる保証はない。
だが、それを承知の上なら
一緒に旅をするのは構わん。

ルドルフ

自己責任ってやつだな。

ミリア

ハミュン、その条件でいい?

ハミュン

えぇ、それでいいわ。
どうせ一度は
命を落としたようなものだもの。

ハミュン

人目に付く場所では
鳥の姿に変身して、
荷物の中に隠れさせてもらうから。

ミリア

アルベルトとフロストはどうかな?

アルベルト

好きにするといい。

フロスト

僕も反対はしないよ。

ミリア

私もみんなと同じ意見。
というわけだから、ハミュン。
これからよろしくねっ♪

ハミュン

……うんっ!

 
ハミュンは初めて笑顔を見せてくれた。


――ちょっとだけ安心した。

人間に対して少しでも心を開いてくれて
嬉しいな。
 
 

ハミュン

ところでさ、アーシャは何者なの?
人間じゃないのよね?

フロスト

そうだっ!
僕もそれは気になっていた。

アーシャ

ふふ、人ならざる者――
とだけ言っておきましょう。

アーシャ

ハミュンさんが
心を開いてくれたので、
明かす必要がなくなりました。
だからそれ以上は秘密です。

フロスト

そんなぁ……。
教えてくれてもいいじゃないか。

ハミュン

そうよ、そうよ。

アーシャ

いつか機会があれば。

 
アーシャは微笑むだけで、
それっきり自分の正体を語ることはなかった。

――といっても、フロストとハミュン以外は
みんな知っているんだけどね。


その後、座長は馬車を出発させ、
私たちは街道を南へと進んだのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
コーツ村を出てから数日後、
目的地であるサットフィルドの手前に到達した。

あと数十分もあれば到着するはず――。
 
 

アラン

いよいよサットフィルドかぁ。
どんな町なんだろうな?
オイラ、楽しみだっ!

ミリア

フロストはなんで
ここで興行をしたかったの?
外の世界が見たいなんて
方便でしょ?
そろそろ正直に話しなさいよ。

 
私の追求に、
フロストは苦笑いしながら頭をかいた。

そして観念したように大きく息をつく。
 
 

フロスト

実はちょっとした噂を聞いてね。
それを確かめたかったのさ。

ハミュン

噂?

フロスト

治安がいいとか、
町の出入りが厳しいとか、
みんなも色々と
伝え聞いてはいるだろう?

アルベルト

まぁな。

フロスト

それらを確認したかったんだ。
普段の姿を見るには
身分を隠す必要があるからね。

アーシャ

確かに旅の一座という形なら
目立たずに行動できますね。

フロスト

何もなければそれでよし。
もし何かあったら、
その時はそれなりに手を打つさ。

 
その時のフロストは
少しだけ表情が強張っていた。
瞳にも何かの意志があるように感じられた。

すごく細かな変化だったから、
みんなは気付いていなかったかもしれないけど。



――なんだか胸騒ぎがする。

何もなければいいのだけれど……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第23幕 それぞれの往く道

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