今日も一人保健室でお昼ご飯を食べ終えて、昼寝をするためにベットに横になる。
白いカーテンを締めれば大分余分な光が遮断できて快適。
寝よ……。

……失礼します


微かに聞こえた小さなその声に、瞑った瞼がまた開いた。
残念、人が来た。
私だけの空間だったのに……。

先生、いませんか?


いませんよ、私しかいませんよ。

少しベット貸してください……

ごそごそと音が聞こえたと思ったら、その人は隣のベットに寝てしまった。
もう少しで午後の授業も終わるのに、そんなに体調悪いのかな……。

……っ……ぅ


ん?
暫くすると隣のベットから小さく声が聞こえ始める。

……うぅ……


魘されてる……?
ふつふつと沸き上がる興味を抑えこみ、聞こえない、聞こえないと自分に言い聞かせる。

……兄、さん……

ぁ……

駄目だ、その声で隣に寝ているのが誰かわかってしまった。

空野君……。

私は開いたばかりの瞼を閉じ、今度こそ夢の世界へ入る。




真っ白な世界、目の前の扉以外他に何もない。

この扉は彼の夢へ繋がる深層心理の扉。
玄関の扉のように見える。
彼の自宅のものなのかもしれない。
その扉は綺麗な見た目に反して重たげな音をたてて開いた。

そのとたん辺りは眩しい光に包まれ、視界が真っ白に染まった。






だんだんと光が収まり周りが見えるようになる。
薄く優しげな色なのに刺々しい、そんな空間。
遠くに空野君が見える。
こんなに広い空間で一人しゃがみこんでいる。

あれ、誰か来た……


人影が空野君の目の前まで近づいた。

蒼汰、蒼汰


彼の名前を呼んでいる?

蒼汰。ほら、こっちを向けよ


彼のこんな奥まで入り込んでるなんて、誰なんだろ。
彼は人影の言葉を聞いてゆっくりと顔を上げた。

ははっ、ブッ細工な泣き顔だな

……ぅ、兄さん……


え……、お兄さん?

流石俺の出来損ない。
こんなところで泣いて気持ち悪い

……

だから母さんも父さんも、お前の大好きだったあの子だってお前のことなんか見ないんだよ

……


何か言い返せよっ。
何があったのかとか何もわからないけど、あの影が最低なことは分かる。
彼は確かに良く不安そうな顔をしてたし精神的に強い方じゃないのかもしれないけど、優しい人だってのは少しの時間しか一緒に過ごしてなくても分かるっ。
助けたい、あの影から……。

そう思った時、肩に重みを感じた。







チーシャ、彼を助けたい







ふぁー!あーんな毒々しいにゃんころとおらっちを間違えるなんて、なんてちんちくりんだっち

えっ!?


肩に乗っていたのは紫色のぬいぐるみのような猫ではなく、目に痛いほどカラフルでどっかのご婦人のような猿だった。

チーシャは?

さーぁ、どっかその辺うろちょろしてるんじゃないっちか?

そうなんだ……

おらっちのことはセニングと呼んでくれたら、いいっち

え、はい


キメ顔で名乗ったセニング。

で、彼を助けたいって?

うん

へー……。助けたからって何ももらえないっちよー?


フッと笑って人の頭をペシっと叩きながら言ったその言葉は、チーシャとは全然違っていて驚いた。







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