そーおたっ!帰ろうぜー

ちょっと、蒼汰はあたし達とカラオケ行くんだからー

はー?なら俺達も誘えよーっ

あぁ、やっと帰れると気分良く歩いてたのに何だこの青春の一頁。
青春の一頁なんて他者から見ればただの落書き帳みたいなもんなんだから、隅でひっそりやっててよ……。

いつものように夕陽のクソ眩しい光を受けて真っ赤に染まった廊下を、長いこと履き続けてよれた上靴で歩いていたら良く聞く声が聞こえた。
『高校生活は一生に一度なんだっ、後悔しないように精一杯楽しもうぜっ!!』とか考えてるんだろうな、ってオーラを放ちながら歩くその集団。









私が毎日教室の代わりに通う保健室の窓からは、庭で昼休みを過ごす生徒もダラダラと体育の授業を受ける生徒も見えている。

蒼汰ー、パスパスっ

よっ!

ちょっ、あっ

浩市ー、ちゃんと取れーっ

わかってるってー

ほら、また聞こえる。
眩しい太陽に照らせれて駆け回る高校生(笑)

ぐふっ!!


笑ったせいじゃない。

君っ、大丈夫っ!?


認めない。

鼻血出てるっ!!

ち、違い、ま……す

鼻血じゃなくてお昼に食べた濃厚苺ソースのかかったストロベリーシュークリームのソースです。

あらっ、どうしたの?

先生っ、この子俺達のサッカーボールが顔に当たってっ

眠井さんっ!


いや、違った。

血がっ

携帯で画像見つけて見てただけで食べてないわ。
頭ぼーっとする。
ぼーっ、と……。
……。

目が覚めた?


窓から入ってきて顔面に当たったらしいサッカーボールのせいで、少しの間気を失ってたみたい。
寝ぼけ眼で見えたのは真っ白な天井と女の子にモテそうな腹立つイケメン。
あぁ、腹立つ。

大丈夫?
俺達のせいでごめん……


眉を垂らして謝ってる姿も様になってる、腹立つ……。

まだ痛いかな……?


痛い……?

い、痛い……

寝ぼけて文字通りボヤけてた頭の中は顔に走るじんじんとした痛みで覚めた。
別にそんな痛い痛い言うほどではないけどびっくりした。

やっぱり、ごめんね……


聞こえた声に顔を上げると目の前にはいつもの声の……。
空野蒼汰君、こんなに近くで見たのは初めてだ。

だ、大丈夫

まだ赤くなってるし、無理しなくていいよ


そうじゃなくて、大丈夫です。大丈夫だから帰ってください、切実に。

……


心ん中ではそんな風に言えても口になんて出せない。
普通の人でも無理だろうけどコミュ症の私じゃ尚更。
物音一つ聞こえないし、真っ白なカーテンの向こうに先生はいないみたい。

これ、先生から預かってきたんだ


そういって出されたのは一枚のプリント。

眠井朝華さん。
同じクラスだったんだね


知らなかったのはお互い様。
まぁろくに教室行ってないししょうがないけど。

わ、私もう帰らないと


目の前の空野君から反らした私の視線は、花瓶に入った色鮮やかな花や汚れた床、入学して暫くたつ筈なのに未だに白い彼の上靴をさまよう。

そうだね、長居してごめん。
送ろうか?

い、いい


断って鞄を手にシワのよったシーツの敷かれたベットから立ち上がると、彼も私に合わせたように立ち上がって扉に向かった。

じゃ、じゃぁね

うん、また明日


その言葉には何も返さず、いつもより少し早足で廊下を抜けた。
今日の夕陽も綺麗なオレンジ色で最高に腹が立つ。





第一話 くそねみまじかる

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