族長のロイアスはタックの顔を見て
小さく息を呑んだ。
目を丸くし、タックを差す指は震えている。
族長のロイアスはタックの顔を見て
小さく息を呑んだ。
目を丸くし、タックを差す指は震えている。
あなたはもしや……。
ん? お前、以前にオイラと
会ったことがないか?
見覚えがあるぞ。
やはり! お久しぶりですっ!
私は第4の試練の前審判者だった
ドゥエルの弟のロイアスです!
おーっ! 思い出したぞ!
ちょっとだけ剣の相手を
してやったんだったな!
その通りです。
覚えていていただけて光栄です。
今はお前が翼人族の
族長をしているのか?
はい、その通りです。
タック様はエレノアとはお会いに?
さっきな。すでに勇者候補を
試練の洞窟へ連れていった。
そうでしたか……。
ついに勇者様が
お立ちになったわけですね。
で、そちらの方は?
ロイアスは視線をビセットに向けた。
するとビセットはニタリと怪しく微笑んで
軽く会釈をする。
私はビセット。
タック殿と同じ立場の者です。
一緒に旅をしています。
こいつは第3の試練の
審判者なんだ。
なるほど。
勇者様は魔王に対抗する力を
着実に集めておられるわけですな。
ま、集めているというよりは
みんなが勝手に
集まってる感じだな。
それもアレスの魅力というか、
不思議な才能のひとつだな。
勇者様のお名前は
アレス様とおっしゃるのですね。
試練を終えられたら
ぜひともお会いしたい。
族長、私はすでに勇者様を
お見かけしました。
会ったら驚かれると思いますよ。
外見は頼りなさそうな
普通の少年ですから。
シィル、なんと失礼なことを!
勇者様は世界の希望なのだぞ!
ロイアスはシィルを激しく叱った。
だが、シィルは涼しい顔をして
気にも留めていない様子だ。
そんな2人の様子を見てタックは大笑いをする。
あははははっ!
でも何も知らないヤツが見たら
そう思うだろうな。
えぇ、そうですね。
でもアレス様は近いうちに
全ての試練を乗り越えて
真の勇者様になられるでしょう。
私はそう確信しています。
そういう人物です。
不意に爆音と大きな振動が家の中に響いた。
それは一度で収まらず、
何度も繰り返されている。
天井から細かな埃が舞い落ち、
窓のガラスはピリピリと悲鳴を上げていた。
なんだ?
窓から外を見てください!
町のあちこちから
火の手が上がっています!
この気配はっ!?
ロイアス! すぐにみんなを
避難させるんだ!
え?
モンスターが出たみたいだ!
それもすごい数だぞ!
どんどん増えてやがる!
誰かが召喚をしているか、
転移魔法によって送り込んで
いるのでしょう。
魔族の気配もする!
四天王ほどじゃないが、
そこそこ強い力を感じる。
タックとビセットのただならぬ雰囲気に、
ロイアスも事態の深刻さを察して表情が曇った。
その瞳の奥には焦りの色が見える。
シィル、騎士団を指揮して
住民を避難させるのだ!
ゲートを使い、ルナトピアから
一刻も早く離れさせよ!
承知しました!
モンスターはオイラたちが
食い止めるッ!
――行くぞ、ビセット!
はいっ!
お待ちください!
私もお供いたしますっ!
ロイアスは部屋の隅で埃を被っていた
長槍を手に取った。
それを軽々と持ち上げ、タックたちの後に続く。
町はすでに大混乱に陥っていた。
住民たちは逃げ惑い、
あちこちの家から火の手が上がっている。
タックたちは人々が逃げてくるのと
反対方向へ向かって駆けていった。
そしてついに彼らは町を襲う元凶に遭遇する。
ガハハハハハッ!
みんな燃えてしまえぇーっ!
レッサーデーモンの群れっ!?
しかもアンデッドまで!
力の配分を考えないと
こちらがやられてしまいますね。
配分なんて気にしてたら、
ルナトピアが滅ぼされちまう!
そういう数だッ!!
……ビセット、最悪の事態は
覚悟しておいてくれよ?
額に汗を滲ませつつ、苦笑を浮かべるタック。
圧倒的な敵の数を目の当たりにして
直感的に不利を悟ったようだ。
するとビセットはニタリと頬を緩めた。
あはは、承知です。
それにしても、最悪の状況ですね。
こちらがこの調子だと、
アレス様たちも
襲われているでしょうね。
だろうな……。
無事でしょうか?
乗り越えてくれることを
信じるしかない。
助けに行きたくても、
この状況じゃ無理だ。
今はそれぞれが
やれるだけのことをやるぞ。
えぇ、分かってます。
――来ますぞ!
モンスターたちの動きの変化を捉え、
ロイアスは長槍を握り直した。
するとそれとほぼ同時にモンスターたちが
殺意を放ちながら3人に迫り来る。
地を這うように進むアンデッドの群れと
上空を埋め尽くす数のレッサーデーモン。
――もはや逃げ場はない。
次回へ続く!