族長のロイアスはタックの顔を見て
小さく息を呑んだ。

目を丸くし、タックを差す指は震えている。
 
 

ロイアス

あなたはもしや……。

タック

ん? お前、以前にオイラと
会ったことがないか?
見覚えがあるぞ。

ロイアス

やはり! お久しぶりですっ!
私は第4の試練の前審判者だった
ドゥエルの弟のロイアスです!

タック

おーっ! 思い出したぞ!
ちょっとだけ剣の相手を
してやったんだったな!

ロイアス

その通りです。
覚えていていただけて光栄です。

タック

今はお前が翼人族の
族長をしているのか?

ロイアス

はい、その通りです。
タック様はエレノアとはお会いに?

タック

さっきな。すでに勇者候補を
試練の洞窟へ連れていった。

ロイアス

そうでしたか……。
ついに勇者様が
お立ちになったわけですね。

ロイアス

で、そちらの方は?

 
ロイアスは視線をビセットに向けた。

するとビセットはニタリと怪しく微笑んで
軽く会釈をする。
 
 

ビセット

私はビセット。
タック殿と同じ立場の者です。
一緒に旅をしています。

タック

こいつは第3の試練の
審判者なんだ。

ロイアス

なるほど。
勇者様は魔王に対抗する力を
着実に集めておられるわけですな。

タック

ま、集めているというよりは
みんなが勝手に
集まってる感じだな。
それもアレスの魅力というか、
不思議な才能のひとつだな。

ロイアス

勇者様のお名前は
アレス様とおっしゃるのですね。
試練を終えられたら
ぜひともお会いしたい。

シィル

族長、私はすでに勇者様を
お見かけしました。

シィル

会ったら驚かれると思いますよ。
外見は頼りなさそうな
普通の少年ですから。

ロイアス

シィル、なんと失礼なことを!
勇者様は世界の希望なのだぞ!

 
ロイアスはシィルを激しく叱った。

だが、シィルは涼しい顔をして
気にも留めていない様子だ。


そんな2人の様子を見てタックは大笑いをする。
 
 

タック

あははははっ!
でも何も知らないヤツが見たら
そう思うだろうな。

ビセット

えぇ、そうですね。
でもアレス様は近いうちに
全ての試練を乗り越えて
真の勇者様になられるでしょう。

ビセット

私はそう確信しています。
そういう人物です。

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

不意に爆音と大きな振動が家の中に響いた。

それは一度で収まらず、
何度も繰り返されている。


天井から細かな埃が舞い落ち、
窓のガラスはピリピリと悲鳴を上げていた。
 
 

タック

なんだ?

シィル

窓から外を見てください!
町のあちこちから
火の手が上がっています!

ビセット

この気配はっ!?

タック

ロイアス! すぐにみんなを
避難させるんだ!

ロイアス

え?

タック

モンスターが出たみたいだ!
それもすごい数だぞ!
どんどん増えてやがる!

ビセット

誰かが召喚をしているか、
転移魔法によって送り込んで
いるのでしょう。

タック

魔族の気配もする!
四天王ほどじゃないが、
そこそこ強い力を感じる。

 
タックとビセットのただならぬ雰囲気に、
ロイアスも事態の深刻さを察して表情が曇った。

その瞳の奥には焦りの色が見える。
 
 

ロイアス

シィル、騎士団を指揮して
住民を避難させるのだ!
ゲートを使い、ルナトピアから
一刻も早く離れさせよ!

シィル

承知しました!

タック

モンスターはオイラたちが
食い止めるッ!
――行くぞ、ビセット!

ビセット

はいっ!

ロイアス

お待ちください!
私もお供いたしますっ!

 
 

 
 
ロイアスは部屋の隅で埃を被っていた
長槍を手に取った。

それを軽々と持ち上げ、タックたちの後に続く。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  
  
 
 
 
 
 
 
町はすでに大混乱に陥っていた。
住民たちは逃げ惑い、
あちこちの家から火の手が上がっている。

タックたちは人々が逃げてくるのと
反対方向へ向かって駆けていった。


そしてついに彼らは町を襲う元凶に遭遇する。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ガハハハハハッ!
みんな燃えてしまえぇーっ!

 
 
 

タック

レッサーデーモンの群れっ!?
しかもアンデッドまで!

ビセット

力の配分を考えないと
こちらがやられてしまいますね。

タック

配分なんて気にしてたら、
ルナトピアが滅ぼされちまう!
そういう数だッ!!

タック

……ビセット、最悪の事態は
覚悟しておいてくれよ?

 
額に汗を滲ませつつ、苦笑を浮かべるタック。
圧倒的な敵の数を目の当たりにして
直感的に不利を悟ったようだ。

するとビセットはニタリと頬を緩めた。
 
 

ビセット

あはは、承知です。

ビセット

それにしても、最悪の状況ですね。
こちらがこの調子だと、
アレス様たちも
襲われているでしょうね。

タック

だろうな……。

ビセット

無事でしょうか?

タック

乗り越えてくれることを
信じるしかない。
助けに行きたくても、
この状況じゃ無理だ。

タック

今はそれぞれが
やれるだけのことをやるぞ。

ビセット

えぇ、分かってます。

ロイアス

――来ますぞ!

 
モンスターたちの動きの変化を捉え、
ロイアスは長槍を握り直した。

するとそれとほぼ同時にモンスターたちが
殺意を放ちながら3人に迫り来る。


地を這うように進むアンデッドの群れと
上空を埋め尽くす数のレッサーデーモン。

――もはや逃げ場はない。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

特別編・4-3 ルナトピアに迫る影!

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