翼人族の女性――シィルは、
鋭い目つきでタックとビセットを
睨み付けていた。
翼人族の女性――シィルは、
鋭い目つきでタックとビセットを
睨み付けていた。
…………。
ん? 止まれって、
オイラたちに言ってんのか?
ほかに誰がいるっていうのよ!
いるじゃないですか、
あなたの目の前にゴーストが。
見えないんですか?
ううう、嘘っ!?
そんなまさかっ?
慌てて周りを見回すシィル。
ゴーストが苦手なのか、
顔色は真っ青になっている。
するとビセットは、しれっと言い放つ。
えぇ、嘘です。
ちょっとしたジョークですよ。
なっ!?
シィルは言葉を失った。
だが、すぐに気を取り直し、
頬を膨らませながら
ビセットへ敵意の視線を向ける。
――っ!
で、何かご用ですか?
さっきエレノアと
一緒にいたわよね?
あんたたち何者なの?
さぁな~?
でも見ていたのなら、
エレノアの敵じゃないことは
分かるだろ。
見ず知らずの方に詳細を
お話しする義理はありません。
ククク……。
……あんたたち、
いい度胸してるわね。
シィルの口元は引きつっていた。
表情はにこやかだが、目は笑っていない。
それを見てタックは思わず吹き出した。
はははっ!
お前、意外に冷静だな。
――私はシィル。
翼人族騎士団の副団長よ。
エレノアは騎士団長であり、
私の親友なの。
名乗ったんだから、
あなたたちも名乗りなさいよ。
お前の言ったことが
本当だとは限らないしな~☆
それに自己紹介をする
必要性を感じません。
なぜそんなことをしなければ
ならないのです?
――っっっ!!!!!
……あんたたちを不審人物として
騎士団の総力を挙げて
拘束するわよ?
さすがに腹に据えかねたのか、
シィルは腰に差している剣の束に手を添えた。
それでもタックとビセットは顔色ひとつ変えず、
全く意に介していない様子だ。
どうします?
本気で怒ってるみたいだから、
冗談はこれくらいにしてやるか。
承知ですっ♪
タックとビセットは頷き合うと、
シィルの方へ向きなおった。
オイラはタック。
勇者候補と一緒に旅をしている。
私はビセット。
タック殿と同じ立場の者です。
今、勇者候補が第4の試練の洞窟で
試練を受けている。
オイラたちはそれが終わるまで
待機ってわけなのさ。
勇者候補って、
もしかしてさっき一緒にいた
頼りなさそうな少年のこと?
あぁ、そうだ。
すでに3つの試練を乗り越えて
このルナトピアに来た。
見かけによらないものね……。
勇者の強さは
腕力や魔法力だけじゃないって
いい例かもな。
立ち話もなんだから、
族長の屋敷に来ない?
色々と話を聞かせてよ。
そうだな、族長に会って
挨拶をしておくか。
では案内していただけますか?
分かったわ!
こうしてタックとビセットはシィルの案内で、
翼人族の族長の家へ向かったのだった。
族長の家はルナトピアの中心地にあり、
周りには広い庭がある。
ただ、建物自体はそんなに大きくなく、
ルナトピアにある一般的な家と変わらない。
見た目も石造りの素朴な感じで、
街並みに溶け込んでいた。
――族長!
どうした、シィル?
勇者様と共に旅をする方々を
お連れしました。
なんだと!?
タック殿とビセット殿です。
シィルに紹介されたタックとビセットは
族長であるロイアスの前に歩み出た。
するとロイアスはタックの顔を見て
小さく息を呑む。
次回へ続く!