美家 王子(びいえ おうじ)

コウのことは嫌いじゃない。
これからも親友でいて
欲しいと思ってる

責田 好(せめだ こう)

だったら……っ

美家 王子(びいえ おうじ)

でも、俺が好きなのは
女の子なんだ。
お前と恋人になることは無い

責田 好(せめだ こう)

そんな冷たいこと言うなよ。
嫌いじゃないなら
可能性はあるだろ?

美家 王子(びいえ おうじ)

ごめん……

責田 好(せめだ こう)

今度こそ本当に
お前とは絶交だあああっ!!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

俺、放課後はいつも
この空き教室にいます。
キスを迫られて大変な時は
いつでも来てください

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……なーんてね!

美家 王子(びいえ おうじ)

ははは……。
もう迫られる事は無いと思うよ

美家 王子(びいえ おうじ)

(珍しくいつもの
流れにならずに、
何事も無く終わった……)

美家 王子(びいえ おうじ)

(──と、いう事が
あったんだっけ)

美家 王子(びいえ おうじ)

(今日はバイト無い日か。
空き教室に行こうかな)

美家 王子(びいえ おうじ)

(ここ最近ずっと、
放課後は秋生くんと
過ごしてる気がする……)

責田 好(せめだ こう)

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

(ん?
コウがこっち見てる)

美家 王子(びいえ おうじ)

コウ!
俺になんか用事?

責田 好(せめだ こう)

別に……

美家 王子(びいえ おうじ)

(うう……。
まだ怒ってるのか)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子せーんぱいっ

美家 王子(びいえ おうじ)

ウワッ!!
後ろから急に
話しかけないでよ!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ビックリしました?
怖がらせちゃって
ごめんなさい

美家 王子(びいえ おうじ)

な、撫でなくても
いいから……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

じゃあ、こっちにします?

美家 王子(びいえ おうじ)

抱きしめるのは
もっとダメッッ!!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、
王子先輩は本当に
反応が可愛いなぁ

美家 王子(びいえ おうじ)

か、可愛いって……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

うん、可愛い

美家 王子(びいえ おうじ)

あのさぁ。
誰が見てるかわからないから、
こういうのはちょっと……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(あっ!
またイチャイチャしてる!)

美家 王子(びいえ おうじ)

(藤吉さんに見られた!)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(見ちゃいました!)

美家 王子(びいえ おうじ)

(誤解しないでよ!
俺たちそういう仲じゃ
無いから!)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(そういう仲って
どういう仲ですか?)

美家 王子(びいえ おうじ)

(藤吉さんが喜ぶような
関係のことだよ)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(どう見ても
そういう関係ですよ!)

美家 王子(びいえ おうじ)

(だから違うって!!)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……ん?
あの女の子、
王子先輩の知り合いですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

そうだけど、
どうしてわかったの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

なんか目で会話してる
っぽいから……

美家 王子(びいえ おうじ)

ハハハ……。
なぜか考えてることが
わかるんだよね

美家 王子(びいえ おうじ)

(藤吉さんの
考えてることなんて
一つしかないから)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

フゥーン……

美家 王子(びいえ おうじ)

なんか怒ってない?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

別に怒ってませんよ

美家 王子(びいえ おうじ)

そうかなぁ……。
ならいいけど

京漆 秋生(きょうしつ あき)

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

(理由がわからないけど、
秋生くんがむくれてる。
気まずい……)

美家 王子(びいえ おうじ)

(ここは藤吉さんの
ハイテンション具合で
空気を変えてもらおう)

美家 王子(びいえ おうじ)

ねえ!
藤吉さんも
こっちにおいでよ!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

だが断る

美家 王子(びいえ おうじ)

……はい?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

なぜならば私という異分子が
二人の小宇宙を破壊する
恐れがあるからです

美家 王子(びいえ おうじ)

俺は藤吉さんが
何言ってるかわかんなくて
恐ろしいよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

それじゃあお二人で
ごゆっくり!
さようなら~!

美家 王子(びいえ おうじ)

(藤吉さん……。
相変わらずだな……)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

あの子、
意外といい子ですね

美家 王子(びいえ おうじ)

なんで?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……え?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

はは、なんとなく

美家 王子(びいえ おうじ)

(よくわかんないけど
機嫌が直って良かった)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

そういえばさっき廊下で、
何話してたんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

さっきって……。
女の子じゃなくて、
男の子の方?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

はい。
なんかケンカっぽい
雰囲気でしたけど

美家 王子(びいえ おうじ)

ケンカっていうか……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

話したくないなら
別にいいですけど

美家 王子(びいえ おうじ)

いや、いいんだ。
誰かに話したい気分だったから

美家 王子(びいえ おうじ)

アイツさ……。
俺の親友だったけど、
絶交されちゃったんだよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

へえ……。
どうして?

美家 王子(びいえ おうじ)

実は、アイツ……。
俺のことを好きらしくて

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ああ、キスを迫られて
ましたもんね

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、そういえば秋生くんに
見られてたね

美家 王子(びいえ おうじ)

(今更だけど、
思い出したら恥ずかしく
なってきた……)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……王子先輩?

美家 王子(びいえ おうじ)

な、何?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

顔真っ赤ですよ。
俺に見られたの思い出して
恥ずかしくなっちゃいました?

美家 王子(びいえ おうじ)

ちっ……!!
違うよっっ!!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ。
やっぱり王子先輩は
可愛い反応するなぁ

美家 王子(びいえ おうじ)

マジメに話してるのに
からかわないでよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ごめんなさい。
でも、本当に
可愛かったから……

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生くんは、
可愛い可愛い言い過ぎだよ!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

可愛いって言われるの、
嫌ですか?
だったらやめますけど

美家 王子(びいえ おうじ)

別にやめなくても
いいけどさ……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

嫌じゃないんだ?

美家 王子(びいえ おうじ)

顔を覗き込むなっ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

はいはい。
……それで、親友さんとは
どうなったんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、うん……

美家 王子(びいえ おうじ)

俺がアイツの気持ちに
いつまでも応えないから、
絶交されちゃったんだ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

そっか、絶交されたんだ……。
それはツライですね……

美家 王子(びいえ おうじ)

どうすればアイツと
親友に戻れるのかな……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩の今の気持ちを、
そのまま伝えれば
いいんじゃないですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

でも……。
親友でいたいって言ったけど、
聞いてくれなかったから……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

もう一回言えばいいんですよ

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……。
でも、しつこいと
思われないかな?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩なら大丈夫。
自分が言われたら嬉しい言葉を
伝えればいいんじゃないですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

そうかな……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

その親友さんも、
王子先輩の優しさにひかれて
好きになったんだと思います

美家 王子(びいえ おうじ)

(あっ……。
この撫で方、
気持ちいい……)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ふふっ

美家 王子(びいえ おうじ)

なんで笑うの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩がおとなしく
撫でられてる姿って、
猫みたいだなと思って

美家 王子(びいえ おうじ)

猫……

美家 王子(びいえ おうじ)

(なんでかわかんないけど
微妙に恥ずかしい)

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、そういえば!
秋生くんはどうしていつも
ここに居るの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ん?
王子先輩とふたりで
話したいからですよ

美家 王子(びいえ おうじ)

な、何言ってんだよ。
俺が来る前から
一人でここに居ただろ?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ……。
俺、家に居場所が無いから
なるべく遅く帰るように
してるんですよ

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

前は図書室に残ってたんですけど
女の子たちに見つかってからは
静かに過ごせなくなって……

美家 王子(びいえ おうじ)

それで、この空き教室で
過ごすようになったんだ?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

はい、そうです。
今は一人じゃなくて、
王子先輩も一緒ですけどね

美家 王子(びいえ おうじ)

あのさ……。
もしかして俺、
邪魔じゃない?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

そんなわけ無いですよ。
王子先輩に会いたくて
毎日学校に来てるのに

美家 王子(びいえ おうじ)

あはは……。
秋生くんはどこまで本気で
言ってるのかわかんないよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

全部本気なのになぁ

美家 王子(びいえ おうじ)

し、親友みたいに
思ってくれてるのかな?
ありがとう!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

(そういうのじゃないけど……
ま、いいか)

美家 王子(びいえ おうじ)

ところでさっきの話、
もう少し深く
聞いてもいいかな?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

さっきの話って?

美家 王子(びいえ おうじ)

家に居場所が無いって話。
もし悩んでることがあるなら
相談に乗りたいんだ

美家 王子(びいえ おうじ)

さっきは俺が
相談に乗ってもらったから、
今度は秋生くんの番!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、話したくないなら
話さなくてもいいけど!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……王子先輩になら、
話してもいいかな

美家 王子(びいえ おうじ)

うん、なんでも話してよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

実は……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

中学1年の時に、
交通事故で父さんと母さんが
死んじゃったんです

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

それからは叔父さんと叔母さんに
面倒を見てもらってるんですけど、
なんか俺に対して態度が
よそよそしいっていうか……

美家 王子(びいえ おうじ)

もしかして
いじめられてるの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、
そんなんじゃないですよ。
叔父さんも叔母さんも、
すごく優しくしてくれます

京漆 秋生(きょうしつ あき)

でも、元からあの夫婦には
子供がいたんです。
そのせいなのか、
俺には他人行儀なんですよね

京漆 秋生(きょうしつ あき)

すごくいい人たちだから
顔には出さないけど、
俺みたいなのが転がり込んで
迷惑なんじゃないかな

美家 王子(びいえ おうじ)

そんなこと言うなよ。
伯父さんも叔母さんも、
秋生くんを迷惑だなんて
思ってないよ

美家 王子(びいえ おうじ)

迷惑だったら、
引き取ろうなんて思わない
だろうし……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

そうだといいんですけどね

美家 王子(びいえ おうじ)

(秋生くん……
本当は寂しいんだろうなぁ)

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、そうだ!
今度うちにご飯食べにおいでよ。
ここで時間潰すよりは
いいんじゃないかな

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩の家に?

美家 王子(びいえ おうじ)

うんっ。
美術の美家 騎士って
先生がいるだろ?
あれ、俺の兄ちゃんなんだ

美家 王子(びいえ おうじ)

兄ちゃんも秋生くんを
歓迎すると思うよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……ありがとう、
王子先輩。
すごく嬉しいです

ぎゅうっ…

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、そんな大したこと
言ってないよ俺っ

美家 王子(びいえ おうじ)

(思いっきり
抱きしめられてるけど、
振り払っていい雰囲気じゃ
なさそうだな……)

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、あのさっ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ん?

美家 王子(びいえ おうじ)

お父さんとお母さんのこと
思い出して、
寂しくなったりしないの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

恋しくなる事はありますけど、
泣き言をいっても二人が
帰ってくる訳じゃないですし

美家 王子(びいえ おうじ)

そっか……。
俺で出来ることがあれば、
何でもするよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

何でも?

美家 王子(びいえ おうじ)

うんっ。
秋生くんが元気になるのに
俺が役に立てるなら!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……じゃあ。
王子先輩を、
抱かせてくれますか?

美家 王子(びいえ おうじ)

……はい?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

だから、
王子先輩を抱きたいんです

美家 王子(びいえ おうじ)

(両手をがっちり
握られてるー?!)

美家 王子(びいえ おうじ)

な、何を急に?!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

寂しい時って、
人肌が恋しくなるんですよ。
慰めてくれませんか?

美家 王子(びいえ おうじ)

い、いや……俺、男だしさ……。
女の子に慰めてもらいなよ。
秋生くん、モテるんだから

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩じゃなきゃ嫌です

美家 王子(びいえ おうじ)

な、なんか俺、
壁際に押し寄せられてない?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

当たり前ですよ。
追い詰めてるんだから

ギュッ…

美家 王子(びいえ おうじ)

(また抱きしめられたけど、
背中には壁があって
逃げられないしっ)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

あー……。
王子先輩、すごくいい匂いがする

美家 王子(びいえ おうじ)

(俺の肩に頭を乗せて、
匂いをかいでる。
人懐こい犬みたいだ……)

美家 王子(びいえ おうじ)

……こういう事は
女の子にしなよ?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩は俺のこと
嫌いですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

嫌いなわけないよ……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

だったらいいですよね?
王子先輩を好きにしても

美家 王子(びいえ おうじ)

(顔が近づいてきた!
キスされる……!)

チュ…

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……?

美家 王子(びいえ おうじ)

(唇じゃなくて、唇すれすれの
すぐ横にキスをされた……)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、
拍子抜けって顔してる

美家 王子(びいえ おうじ)

だ、だって!
口にされると思ったから!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……もう一回、
キスしましょうか?
今度は唇に

美家 王子(びいえ おうじ)

ダメだよ!
唇は絶対にダメッ!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

唇じゃなきゃ
してもいいんですね?

美家 王子(びいえ おうじ)

(……んっ?
手を取られたぞ)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

チュッ……パクッ

美家 王子(びいえ おうじ)

ゆっ、ゆっ……
指をくわえるなあぁ!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ペロッ

美家 王子(びいえ おうじ)

……ッッ!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩は隙が
ありすぎですよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

そんなんだから
俺みたいな悪いヤツに
狙われちゃうんですよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生くん……?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ。
じゃ、時間だから帰ります。
あんまり遅くなると、
叔父さんたち心配するんで

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……また明日
話しましょうね、王子先輩?

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生……くん……

美家 王子(びいえ おうじ)

(どうしよう……。
身体から力が抜けて、
立ち上がれない……)

責田 好(せめだ こう)

(どういうことだよ……。
王子のやつ、
なんであんな事されて
瞳を潤ませてんだ?)

責田 好(せめだ こう)

(あれじゃ、まるで……
アイツのことを……)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

ねっ?
私の言った通り、
すごいことになってたと
思いませんか?!

責田 好(せめだ こう)

ちょっと黙ってて
くれないか?

第11話 空き教室の君 - 中編

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