それじゃあ、俺……
帰るから

もう帰るのー?
もっと話そうよぉ

ごめん、今日は早く帰らないと

じゃあ一緒に帰ろ?

美家 王子(びいえ おうじ)

(うわぁ、すごい……。
女の子に取り囲まれて、
アイドルみたいだ)

美家 王子(びいえ おうじ)

(ここは1年生の
下駄箱エリアだから
……後輩かな?)

美家 王子(びいえ おうじ)

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

(べ、別にモテてるからって
羨ましいわけじゃないぞ!)

責田 好(せめだ こう)

おいっ、王子!

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、コウ。
なんか話すの久しぶりだな

責田 好(せめだ こう)

のんきに返事してんじゃねえよ!
いつまで俺をほっとく気だよ!

美家 王子(びいえ おうじ)

放っておくって……。
コウが俺を避けてたんだろ

責田 好(せめだ こう)

絶交すれば、
少しは王子が反省するかと
思ったんだよ!

美家 王子(びいえ おうじ)

反省って、
お前になんかしたっけ?

責田 好(せめだ こう)

俺の気持ちを知ってるくせに
ただの友達呼ばわりした挙句、
こっそり騎士先生と
付き合ってただろ!!

美家 王子(びいえ おうじ)

ああ、その話か。
だからそれは
コウの勘違いだってば

責田 好(せめだ こう)

うるさい!
言い訳なんか聞きたくない!

美家 王子(びいえ おうじ)

(今の流れの中で、
何一つ言い訳はして
いないような……)

責田 好(せめだ こう)

俺は王子の事を考えると
ろくに眠れないっていうのに、
お前は何も無かったみたいに
過ごしやがって……

美家 王子(びいえ おうじ)

えーと……。
つまり仲直りがしたいのか?

責田 好(せめだ こう)

そうじゃねえよ!
鈍いヤツだな!!

美家 王子(びいえ おうじ)

うわっ!
腰を抱いて顔を近づけるな!
何する気だ!?

責田 好(せめだ こう)

キスに決まってんだろ!
俺がどれだけ我慢したと
思ってるんだ!!

美家 王子(びいえ おうじ)

やめろ!
人が見てるだろ!!

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

ほ、ほらっ……!
見られてるから
本当にやめろって!

責田 好(せめだ こう)

前にキスした時みたいに、
校舎裏ならいいのか?

美家 王子(びいえ おうじ)

ここよりはマシだけど、
根本的な問題が違う

(じーっ……)

美家 王子(びいえ おうじ)

(うっ。
さっきの1年生が
まだこっち見てるよ……)

美家 王子(びいえ おうじ)

と、とにかくっ。
こんな目立つ場所で
ふさげるのやめろよ……

責田 好(せめだ こう)

目立たない場所なら
何やってもいいんだな?

美家 王子(びいえ おうじ)

そういう事でもないけど

美家 王子(びいえ おうじ)

(早くコウが離れてくれないと、
周りの人に変に思われるよ)

……クスッ

美家 王子(びいえ おうじ)

(あっ。
目が合ったとたんに
笑われた)

美家 王子(びいえ おうじ)

悪いっ!
今日はバイトがあるから、
またなっ!!

責田 好(せめだ こう)

あっ!
逃げんなよ!!

美家 王子(びいえ おうじ)

(はあ……。
昨日はコウが大変だったけど、
今日は大人しくて良かった)

責田 好(せめだ こう)

王子……

美家 王子(びいえ おうじ)

コ、コウ。
顔色悪いぞ?
どうした?

責田 好(せめだ こう)

今日もバイトか?

美家 王子(びいえ おうじ)

いや、今日は休みだけど……

責田 好(せめだ こう)

だったらコッチ来い!

美家 王子(びいえ おうじ)

えーっ……

美家 王子(びいえ おうじ)

(これから行くのって、
まさか……)

美家 王子(びいえ おうじ)

……って、やっぱり!
校舎裏に連れて来られた!!

責田 好(せめだ こう)

なんだよ。
お前が玄関じゃイヤだって
言ったんだろ?

美家 王子(びいえ おうじ)

そりゃ、言ったけど……

責田 好(せめだ こう)

なあ、キスしていいか?

美家 王子(びいえ おうじ)

ま、前にしたから
もういいじゃないか!

責田 好(せめだ こう)

強引にしたんじゃ
意味が無いんだよ

美家 王子(びいえ おうじ)

(いつまでも
このままじゃ駄目だ。
ここは心を鬼にして……)

美家 王子(びいえ おうじ)

この際だからはっきり言うけど、
俺は男とキスする気にはなれない。
だから、こういうの困るんだよ

責田 好(せめだ こう)

はっ……?
冗談だよな?

美家 王子(びいえ おうじ)

冗談じゃないよ。
マジメに言ってるんだ

責田 好(せめだ こう)

王子……。
そんなに俺のことが
イヤなのか?

美家 王子(びいえ おうじ)

コウのことは嫌いじゃない。
これからも親友でいて
欲しいと思ってる

責田 好(せめだ こう)

だったら……っ

美家 王子(びいえ おうじ)

でも、俺が好きなのは
女の子なんだ。
お前と恋人になることは無い

責田 好(せめだ こう)

そんな冷たいこと言うなよ。
嫌いじゃないなら
可能性はあるだろ?

美家 王子(びいえ おうじ)

ごめん……

責田 好(せめだ こう)

クッ……!!
ウウッ……

美家 王子(びいえ おうじ)

……コウ?
泣いてるのか?

責田 好(せめだ こう)

今度こそ本当に
お前とは絶交だあああっ!!

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、コウ!!

美家 王子(びいえ おうじ)

(なんだろう、この罪悪感。
もっと別の言い方をすれば
良かったのかな)

美家 王子(びいえ おうじ)

(でも、男とキスなんて
本当に無理だし……)

美家 王子(びいえ おうじ)

んっ?

美家 王子(びいえ おうじ)

うわっ!
空からリュックが降ってきた!

すいませーん!
それ、落としたの
俺でーす!

美家 王子(びいえ おうじ)

(3階の窓から顔出してる……。
昨日、玄関で女の子に囲まれていた
一年生じゃないか)

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、危ないよ!
当たったら
怪我する
じゃないか!



ごめんなさい。
悪いんですけど、
ソレ……
ここまで持って来て
くれませんか?



美家 王子(びいえ おうじ)

は?
自分で取りに
おいでよ



3階の空き教室で
待ってるんで、
お願いします!


美家 王子(びいえ おうじ)

えっ?
あっ、ちょ……



ピシャンッ!




美家 王子(びいえ おうじ)

(窓、閉めちゃったよ。
しょうがないなあ……)

美家 王子(びいえ おうじ)

ほら、落とし物。
届けに来たよ

ははっ。
やっぱり来てくれたんだ。
優しいなあ、先輩

美家 王子(びいえ おうじ)

やっぱりって……!
あのさあ、キミ。
俺の事からかってるの?

ごめんなさい。
こうでもしないと、先輩と
二人きりになれないかと思って

美家 王子(びいえ おうじ)

……はい?

先輩と話してみたかったんです。
いつも男に迫られていて、
面白い人だなーと思って

美家 王子(びいえ おうじ)

見世物じゃないんだけど……。
っていうか、なんで俺のこと
先輩って呼ぶの?
俺の学年知らないよね?

昨日、玄関で見た時に
先輩の事が気になったんで、
女の子たちに聞きました

あの人、知ってる?

えっ?
あの人って……

あそこの、
男にキスされそうになってる
可愛い男の子

ええ~っ?
やだぁー、キャハハッ!
あれってじゃれ合ってる
だけでしょ?

美家 王子(びいえ おうじ)

やめろ!
人が見てるだろ!!

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

ほ、ほらっ……!
見られてるから
本当にやめろって!

(どう見てもキス
迫られてるだろ、アレ)

あ……そう言えば。
部活の先輩に用があって
2年の教室に行った時に、
あの人見たかも

へえ……

──と、いうわけなんです

美家 王子(びいえ おうじ)

(やっぱりアレ、
みんなに見られてたんだ)

先輩って、
2年生で合ってるんですよね?

美家 王子(びいえ おうじ)

ああ、うん……そうだよ。
キミは1年生?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

はい。
1年D組の、
京漆 秋生(きょうしつ あき)です。
……先輩の名前は?

美家 王子(びいえ おうじ)

へっ?
あ、俺は2年A組の美家 王子

京漆 秋生(きょうしつ あき)

へえー!
王子って名前なんだ!

美家 王子(びいえ おうじ)

……変な名前だって
思ってるだろ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ううん?
可愛いなって思いましたよ

美家 王子(びいえ おうじ)

か、可愛い?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

うん、可愛いですよ。
よく言われないですか?
顔に似合って可愛い名前だって

美家 王子(びいえ おうじ)

言われないよ。
キラキラネームとか、
変な名前とは言われるけど

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ。
じゃあ、俺が王子先輩の
初めてもらっちゃったんだ?

美家 王子(びいえ おうじ)

初めて……って!!

美家 王子(びいえ おうじ)

(変なこと言うなぁ。
これはまさか、
またいつもの展開……?)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

あ、時間だ。
そろそろ帰らなきゃ

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ、あれ?
帰るの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ん?
何か俺に用事あるんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

い、いや。
そういうわけじゃないよ。
じゃあね

京漆 秋生(きょうしつ あき)

あっ、そうだ先輩っ

美家 王子(びいえ おうじ)

……ん?
何?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

俺、放課後はいつも
この空き教室にいます。
キスを迫られて大変な時は
いつでも来てください

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……なーんてね!

美家 王子(びいえ おうじ)

ははは……。
もう迫られる事は無いと思うよ

美家 王子(びいえ おうじ)

(珍しくいつもの
流れにならずに、
何事も無く終わった……)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(今日は通販で頼んだ
BLのCDが届くはずだから、
早く家に帰らないとっ)

責田 好(せめだ こう)

…………

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

あっ、責田くん!
一人で帰るんですか?

責田 好(せめだ こう)

そうだよ、一人だよ……。
悪いか?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

悪くは無いですけど……。
まだBL王子と
仲直りしてないんですか?

責田 好(せめだ こう)

知らねえよ、
あんな奴……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(責田くん……。
あんなにBL王子ラブだったのに、
すっかり意気消沈しちゃって)

てくてく

美家 王子(びいえ おうじ)

…………

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(今のはBL王子?
空き教室に入って行ったけど、
何の用事だろ?)

美家 王子(びいえ おうじ)

(約束してる
わけじゃないのに、
今日も来てしまった……)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩!
来てくれたんですね

美家 王子(びいえ おうじ)

う、うん……。
今日もバイト休みだから、
暇だなと思って

京漆 秋生(きょうしつ あき)

なんだ。
俺のことが気になって
来たわけじゃないんですね

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

あれれ?
なんですかその反応

美家 王子(びいえ おうじ)

ななな何が?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

だって『図星』って感じで
顔赤くしちゃって。
もしかして
ときめいちゃいました?

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、そういう事じゃ……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

違うんだ……

美家 王子(びいえ おうじ)

(えっ!!
なんか落ち込んでる?)

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、いやっ!
秋生くんが居なければ
ここには来なかったけど……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……クスッ

美家 王子(びいえ おうじ)

何で笑うの?!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、
笑ってませんよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

(ウソだ……。
絶対笑った)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(BL王子……?
誰なんですか、その人は?)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(私が知らない間に、
何が起こってるん
ですか……?!)

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

そして、次の日の放課後

責田 好(せめだ こう)

何言ってんだ?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

責田くん……。
今日も一人で帰るんですね……

責田 好(せめだ こう)

うるせーな!
ほっといてくれよ!!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

責田くんは誤解してる
みたいですけど、
BL王子と騎士先生は
付き合ってませんよ?

責田 好(せめだ こう)

……だから何だよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

だから、
仲直りしては
どうでしょうか?

責田 好(せめだ こう)

いいよ。
アイツとはもう、
友達ですら無いから

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

そんな!
BL王子が責田くんを
恋人として見てくれるまで、
親友のままで待つんじゃ
なかったんですか?

責田 好(せめだ こう)

もう駄目なんだよ!
はっきり言われたんだよ!
お前と恋人になることは無い
……って!!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

え、そんな切ない
イベントがあったのに、
この私が見逃していたなんて……

責田 好(せめだ こう)

イベントってなんだ
イベントって

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

でも、どうして急に
そんなこと言ったんでしょうね?
好きな人でもできたんでしょうか

責田 好(せめだ こう)

さあな……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

ハッ、まさか!
空き教室の……?!

責田 好(せめだ こう)

空き教室って?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

いえいえ、
なんでもないですっ。
それじゃあ責田くん、
また明日~

責田 好(せめだ こう)

変なヤツだな?
まあ、いつも変だけど

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

(責田くんに教えるのは、
まだまだ先……っ。
あの二人の仲が進展するまで
我慢しないと!!)

第10話 空き教室の君 - 前編

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