それじゃあ、俺……
帰るから
もう帰るのー?
もっと話そうよぉ
ごめん、今日は早く帰らないと
じゃあ一緒に帰ろ?
(うわぁ、すごい……。
女の子に取り囲まれて、
アイドルみたいだ)
(ここは1年生の
下駄箱エリアだから
……後輩かな?)
…………
(べ、別にモテてるからって
羨ましいわけじゃないぞ!)
おいっ、王子!
あっ、コウ。
なんか話すの久しぶりだな
のんきに返事してんじゃねえよ!
いつまで俺をほっとく気だよ!
放っておくって……。
コウが俺を避けてたんだろ
絶交すれば、
少しは王子が反省するかと
思ったんだよ!
反省って、
お前になんかしたっけ?
俺の気持ちを知ってるくせに
ただの友達呼ばわりした挙句、
こっそり騎士先生と
付き合ってただろ!!
ああ、その話か。
だからそれは
コウの勘違いだってば
うるさい!
言い訳なんか聞きたくない!
(今の流れの中で、
何一つ言い訳はして
いないような……)
俺は王子の事を考えると
ろくに眠れないっていうのに、
お前は何も無かったみたいに
過ごしやがって……
えーと……。
つまり仲直りがしたいのか?
そうじゃねえよ!
鈍いヤツだな!!
うわっ!
腰を抱いて顔を近づけるな!
何する気だ!?
キスに決まってんだろ!
俺がどれだけ我慢したと
思ってるんだ!!
やめろ!
人が見てるだろ!!
…………
ほ、ほらっ……!
見られてるから
本当にやめろって!
前にキスした時みたいに、
校舎裏ならいいのか?
ここよりはマシだけど、
根本的な問題が違う
(じーっ……)
(うっ。
さっきの1年生が
まだこっち見てるよ……)
と、とにかくっ。
こんな目立つ場所で
ふさげるのやめろよ……
目立たない場所なら
何やってもいいんだな?
そういう事でもないけど
(早くコウが離れてくれないと、
周りの人に変に思われるよ)
……クスッ
(あっ。
目が合ったとたんに
笑われた)
悪いっ!
今日はバイトがあるから、
またなっ!!
あっ!
逃げんなよ!!
(はあ……。
昨日はコウが大変だったけど、
今日は大人しくて良かった)
王子……
コ、コウ。
顔色悪いぞ?
どうした?
今日もバイトか?
いや、今日は休みだけど……
だったらコッチ来い!
えーっ……
(これから行くのって、
まさか……)
……って、やっぱり!
校舎裏に連れて来られた!!
なんだよ。
お前が玄関じゃイヤだって
言ったんだろ?
そりゃ、言ったけど……
なあ、キスしていいか?
ま、前にしたから
もういいじゃないか!
強引にしたんじゃ
意味が無いんだよ
(いつまでも
このままじゃ駄目だ。
ここは心を鬼にして……)
この際だからはっきり言うけど、
俺は男とキスする気にはなれない。
だから、こういうの困るんだよ
はっ……?
冗談だよな?
冗談じゃないよ。
マジメに言ってるんだ
王子……。
そんなに俺のことが
イヤなのか?
コウのことは嫌いじゃない。
これからも親友でいて
欲しいと思ってる
だったら……っ
でも、俺が好きなのは
女の子なんだ。
お前と恋人になることは無い
そんな冷たいこと言うなよ。
嫌いじゃないなら
可能性はあるだろ?
ごめん……
クッ……!!
ウウッ……
……コウ?
泣いてるのか?
今度こそ本当に
お前とは絶交だあああっ!!
あっ、コウ!!
(なんだろう、この罪悪感。
もっと別の言い方をすれば
良かったのかな)
(でも、男とキスなんて
本当に無理だし……)
んっ?
うわっ!
空からリュックが降ってきた!
すいませーん!
それ、落としたの
俺でーす!
(3階の窓から顔出してる……。
昨日、玄関で女の子に囲まれていた
一年生じゃないか)
あ、危ないよ!
当たったら
怪我する
じゃないか!
ごめんなさい。
悪いんですけど、
ソレ……
ここまで持って来て
くれませんか?
は?
自分で取りに
おいでよ
3階の空き教室で
待ってるんで、
お願いします!
えっ?
あっ、ちょ……
ピシャンッ!
(窓、閉めちゃったよ。
しょうがないなあ……)
ほら、落とし物。
届けに来たよ
ははっ。
やっぱり来てくれたんだ。
優しいなあ、先輩
やっぱりって……!
あのさあ、キミ。
俺の事からかってるの?
ごめんなさい。
こうでもしないと、先輩と
二人きりになれないかと思って
……はい?
先輩と話してみたかったんです。
いつも男に迫られていて、
面白い人だなーと思って
見世物じゃないんだけど……。
っていうか、なんで俺のこと
先輩って呼ぶの?
俺の学年知らないよね?
昨日、玄関で見た時に
先輩の事が気になったんで、
女の子たちに聞きました
あの人、知ってる?
えっ?
あの人って……
あそこの、
男にキスされそうになってる
可愛い男の子
ええ~っ?
やだぁー、キャハハッ!
あれってじゃれ合ってる
だけでしょ?
やめろ!
人が見てるだろ!!
…………
ほ、ほらっ……!
見られてるから
本当にやめろって!
(どう見てもキス
迫られてるだろ、アレ)
あ……そう言えば。
部活の先輩に用があって
2年の教室に行った時に、
あの人見たかも
へえ……
──と、いうわけなんです
(やっぱりアレ、
みんなに見られてたんだ)
先輩って、
2年生で合ってるんですよね?
ああ、うん……そうだよ。
キミは1年生?
はい。
1年D組の、
京漆 秋生(きょうしつ あき)です。
……先輩の名前は?
へっ?
あ、俺は2年A組の美家 王子
へえー!
王子って名前なんだ!
……変な名前だって
思ってるだろ
ううん?
可愛いなって思いましたよ
か、可愛い?
うん、可愛いですよ。
よく言われないですか?
顔に似合って可愛い名前だって
言われないよ。
キラキラネームとか、
変な名前とは言われるけど
ははっ。
じゃあ、俺が王子先輩の
初めてもらっちゃったんだ?
初めて……って!!
(変なこと言うなぁ。
これはまさか、
またいつもの展開……?)
あ、時間だ。
そろそろ帰らなきゃ
えっ、あれ?
帰るの?
ん?
何か俺に用事あるんですか?
い、いや。
そういうわけじゃないよ。
じゃあね
あっ、そうだ先輩っ
……ん?
何?
俺、放課後はいつも
この空き教室にいます。
キスを迫られて大変な時は
いつでも来てください
……なーんてね!
ははは……。
もう迫られる事は無いと思うよ
(珍しくいつもの
流れにならずに、
何事も無く終わった……)
(今日は通販で頼んだ
BLのCDが届くはずだから、
早く家に帰らないとっ)
…………
あっ、責田くん!
一人で帰るんですか?
そうだよ、一人だよ……。
悪いか?
悪くは無いですけど……。
まだBL王子と
仲直りしてないんですか?
知らねえよ、
あんな奴……
(責田くん……。
あんなにBL王子ラブだったのに、
すっかり意気消沈しちゃって)
てくてく
…………
(今のはBL王子?
空き教室に入って行ったけど、
何の用事だろ?)
(約束してる
わけじゃないのに、
今日も来てしまった……)
王子先輩!
来てくれたんですね
う、うん……。
今日もバイト休みだから、
暇だなと思って
なんだ。
俺のことが気になって
来たわけじゃないんですね
えっ……
あれれ?
なんですかその反応
ななな何が?
だって『図星』って感じで
顔赤くしちゃって。
もしかして
ときめいちゃいました?
そ、そういう事じゃ……
違うんだ……
(えっ!!
なんか落ち込んでる?)
あ、いやっ!
秋生くんが居なければ
ここには来なかったけど……
……クスッ
何で笑うの?!
ははっ、
笑ってませんよ?
(ウソだ……。
絶対笑った)
(BL王子……?
誰なんですか、その人は?)
(私が知らない間に、
何が起こってるん
ですか……?!)
そして、次の日の放課後
何言ってんだ?
責田くん……。
今日も一人で帰るんですね……
うるせーな!
ほっといてくれよ!!
責田くんは誤解してる
みたいですけど、
BL王子と騎士先生は
付き合ってませんよ?
……だから何だよ
だから、
仲直りしては
どうでしょうか?
いいよ。
アイツとはもう、
友達ですら無いから
そんな!
BL王子が責田くんを
恋人として見てくれるまで、
親友のままで待つんじゃ
なかったんですか?
もう駄目なんだよ!
はっきり言われたんだよ!
お前と恋人になることは無い
……って!!
え、そんな切ない
イベントがあったのに、
この私が見逃していたなんて……
イベントってなんだ
イベントって
でも、どうして急に
そんなこと言ったんでしょうね?
好きな人でもできたんでしょうか
さあな……
ハッ、まさか!
空き教室の……?!
空き教室って?
いえいえ、
なんでもないですっ。
それじゃあ責田くん、
また明日~
変なヤツだな?
まあ、いつも変だけど
(責田くんに教えるのは、
まだまだ先……っ。
あの二人の仲が進展するまで
我慢しないと!!)