フロストと傭兵は
お互いに隙をうかがっているようだった。
睨み合ったまま、どちらも動かずにいる。
ビリビリとした空気がその場に漂い、
私たちまで緊張して動きを止めてしまう。
フロストと傭兵は
お互いに隙をうかがっているようだった。
睨み合ったまま、どちらも動かずにいる。
ビリビリとした空気がその場に漂い、
私たちまで緊張して動きを止めてしまう。
っ!
っ!
不意に風が吹いた直後、
フロストと傭兵はほぼ同時に突進した。
そしてどちらも剣の一閃――
はぁああああぁっ!
せやぁあああぁっ!
ガキィイイイイィーン!
…………っ!
――勝負は一瞬で決まった。
下段から振り上げたフロストの剣が
傭兵の剣を弾き飛ばしていた。
間髪を入れず、
次の動きで剣先を傭兵へ突き出す。
刃は傭兵の喉元で寸止めされている。
……勝負あったな。
う……うぐ……。
す……すげぇ……。
お見事っ!
…………。
素晴らしいです。
フロスト……。
約束は守ってもらうぞ。
ミリアのことは諦めるんだな。
冷たい瞳で見下ろすフロスト。
最後にギロリと睨み付けると、
剣を鞘に収めた。
そしてその場から立ち去ろうとした時、
傭兵は眉を曇らせながら
フロストへ手を伸ばす。
ま、待ってくれっ!
往生際が悪いぞ?
そうじゃないっ!
彼女のことは約束通り諦めるっ!
だったら、何の用がある?
頼むっ!
俺を弟子にしてくれっ!
なんだって?
何年も傭兵を続けてきたが、
アンタほどの剣の使い手、
初めて出会った。
弟子は困るな……。
だったら、いつかまた
俺と勝負してくれるだけでもっ!
もう一度、剣を交えてみたいっ!
剣を持つ者として、
純粋にそう感じたんだ!
ふむ……。
これからもっともっと
修行して腕を磨いてみせる!
だから頼むっ!
傭兵はその場に土下座した。
あまりに突然の出来事に、
その場にいた私たち全員が戸惑ってしまう。
私はてっきり、
結果に納得できずに卑怯な手でも使って
襲いかかってくるのかと思ってたもん。
まだ剣士としての魂が残ってたんだ……。
そんな傭兵に対し、
フロストは少し考え込んでから口を開く。
……条件がある。
それを受け入れるなら
再戦を認めよう。
条件とは?
ライカントで兵に志願し、
曹長にまで出世したら
また勝負をしてもいい。
えっ?
人を傷付けるための剣なら
再戦はお断りだ。
だが、人を守るための剣であれば
その力の向上のために
僕は協力を惜しまない。
キミの力を
みんなのために使ってほしい。
…………。
傭兵は目を丸くしたまま
フロストを見つめていた。
それから少しの間が空いたあと、
彼は瞳に意志の光を輝かせて大きく頷く。
分かった!
だが、約束は守ってもらうぞ?
あぁ、もちろん。
ライカントで再会する時を
楽しみにしているよ。
僕の名はフロスト。キミは?
ヘクトだ!
その名前、よく覚えておこう。
――では、俺はこれから
ライカントの町へ行く。
しばしの別れだ。
そう言い残すと、
ヘクトはライカント方面へ歩いていった。
それを見送りつつ、私は大きく息をつく。
一時はどうなることかと
思ったわよ。
フロスト、怪我はしてない?
あぁ、大丈夫さ。
…………。
フロスト。
ん? どうしたんだい?
……ありがとう。助かった。
当然のことをしたまでさ。
だってキミは同じ一座の仲間。
家族じゃないか。
っ!?
アルベルトは小さく息を呑んだ。
そのあとフッと頬を緩める。
――なんだか柔らかくて、温かい感じ。
フロストに対してはいつも刺々しくて、
衝突してばかりだったのに。
助けてもらったのなら
相手が誰であっても
お礼を言うのは当然さ。
親しき仲にも礼儀ありだ。
なるほどな。
僕はアルベルトの
そういう愚直なところが大好きだ。
バ、バカ野郎っ!
恥ずかしいことを言うなっ!
あははは……。
楽しげに笑うフロスト。
それを見てアルベルトは頬を真っ赤にしつつ、
咳払いをして気を取り直す。
――何かあったら
遠慮なく言ってくれ。
俺も全力で助ける。
だって俺たちは家族だからな。
あぁ、そうさせてもらう。
2人はガッチリと握手をして微笑み合った。
なんか男の子同士の友情っていいな。
さっきのフロストとヘクトの時もそうだけど、
固い絆で結ばれている感じ。
想いで心がひとつになっているっていうのかな?
女子である私には理解しにくいけど、
いいものだなぁっていう感覚だけは分かる。
ところでミリア、
鳥人族の子はどうした?
そうだ、ハミュンを
外に出してあげないとね。
私は懐の中に隠していたハミュンを
外に出してあげた。
彼女は私の手のひらの上で
ボケーッとしている。
ずっと中にいたから暑かったのかな?
次回へ続く……。