人知れず静かなところの方がいいというのが私の意見だったがここにきて一つの可能性が現れた。クラッシック音楽でも流した方が全体的にいい雰囲気になるんだろうか?ということだ。

フレイス

ミュージックプレイヤーでも買ってみたら?

アリス

もちろん、それも考えました……。だけどミュージックプレイヤーってあんな陳腐なのにとても高いから

フレイス

ち、陳腐って。一応最高品質なはずなんだけどな

私の言葉に苦笑を漏らすこの地で『クレフ』を始めるにあたって相談にのってくれた友人、フレイス。

アリス

陳腐というのは値段に対してです。例えば100エイドのインスタントラーメンが専門店と同じ味を出していたらとてもすごです。しかし1万エイドなんてふざけた値段でその100エイドのインスタントラーメンと同程度の味だったら、それは陳腐と言えます。値段の割には陳腐なんです、ミュージックプレイヤーは

フレイス

た、確かに無駄な部分というか、使っていない機能あるけどさ


そういってフレイスはテーブルに出していたミュージックプレイヤーをしまう。

アリス

確かに利益を度外視するならミュージックプレイヤーを選ばない選択もあるけど、それでもあまり賢い選択とは言えない。だからこそ悩んでるわけです

フレイス

久しぶりに立ち寄ったらこんな愚痴に付き合わされるなんて……

アリス

でしたら、フリータイム料金、750エイドいただきお客様としてお相手しましょうか?

フレイス

一応俺も会員カード持ってるから会員値段のはずなんだけどなぁ

アリス

残念なことにフレイスのカードだけ期限が切れました

フレイス

勘弁してよ

フレイスは笑って両手を上げる。

カランコロン


私の耳に扉の開閉音が届く。

フレイス

それにしても……、ってちょっと?

アリス

お客様

フレイス

あっ、なるほど

今まで誰もいなかったからこうしてペチャペチャと喋っていたけどお客様が来たら話は別だ。私はパタパタと扉に向かう。

アリス

いらっしゃい。あっ

アキス

どうも

アリス

アキス先生……。ようこそ

アキス

今日は根つめようと思うから、フリータイムでよろしくおねがいします

アリス

かしこまりました。どうぞ、こちらへ

私は彼をできるだけ静かになりそうな場所へと案内する。

アキス

珍しく話し声、聞こえましたけど

アリス

あぁ……。友人が来ていたんです。大丈夫です。すぐに追い出します

アキス

いえいえ。僕は別段気にしないんでそのままお話し続けて頂いて構いませんよ

アリス

……すみません。心遣い、ありがたく思います


私は頭を下げて席に着かせる。もうドリンクバーの説明も不要だろう。私よりドリンクバーについて詳しくなってるみたいだし。

アリス

それでは、ごゆっくり

アキス

はい

アキス先生に見送られる形で私はフレイスの元へと戻る。

フレイス

偉く親しそうだっけど、常連さん?というか、先生って?

アリス

お客様についての情報はたとえ親族でもお話しできませんので

フレイス

探偵事務所に言われようだ。でも、どこかで聞いたことがあるようなアキスって名前

アリス

フレイス。お客様も来たんで帰ってください

フレイス

あっ、思い出した。アキスって、よくアリスが読んでるミステリ小説の作家さんの名前でしょ?えっ?そのアキスさんがここに常連客だったの?


まったくこっちの話を聞いてくれない……。それにここまでばれたらもう話した方が早い気もする。

アリス

えぇ。そうです。そのアキス先生です。私もつい先日知ったんです。なんでも、ここが執筆環境もよくてはかどるらしいですから


平日、休日、時間帯問わずにやってくるお客さんだとは思ってたけど小説家という特殊な生業だからそんなのあまり関係ない生活を営んでるから当たり前と言えば当たり前だ。むしろ平日の方が来やすいのかもしれない。

フレイス

つい先日って……さっき言ってたドリンクバーの?

アリス

まぁ、そうです

フレイス

へー。それを解き明かしたのもあの人だったのか

話しの流れとしてフレイスにこのことを伝えたのは間違いだったのかもしれない。そもそもが数時間前にあのデブ客が堂々とやってきたので問い詰めた所私の気を引こうとしてイタズラをしたことを白状した。出禁処理をしようとしてたらごね始めどうしたらいいかと困っていたところに彼が来たのでその点については助かったのだが……。

その際に『いくら本当の事でもあなたと私ではつりあいませんと言うのはどうかなと思う』とフレイスに注意もされたが。

フレイス

なるほどね。そういや、俺もこの前不思議なことがあったんだよ

アリス

はぁ……。なんですか?

フレイス

友達と出かける予定があってね、支度も終えたから時間まで音楽聞きながら家にいたんだけど、お任せ選曲だったのもわざわいしたのか、いつの間に船こぎはじめててさ。それでたぶん一瞬寝ちゃったみたいで曲がいつの間にか次の奴に変わってたんだよね。

フレイス

で、一応、そのまま時間の方も確認したら7分しか進んでなくてほっと息吐いたんだ。それで出かけたんだけど、友達に遅いって怒られて。みたら1時間以上遅刻してて……。まるで僕の家だけ時間がゆっくり流れてたみたいなんだ

アリス

そんな、カメ……みたいにゆっくり歩いていただけじゃないんですか?

フレイス

流石にそれでそんなに遅れないよ

アリス

じゃあそもそも待ち合せ時間を間違えていたんじゃないんですか?

フレイス

まさか、きちんとカレンダーにも書いてあったし。時間も6時と17という数字を表しているのをこっちで確認したさ

アリス

はぁ……。でしたら私にはもうわかりませんね。というか、今日はこれから用事ないんですか?

フレイス

用事?あっ、もうこんな時間か


腕時計を確認してフレイスは席を立ちあがる。一応私も店の扉の先までついていく。

フレイス

それじゃあ、この謎、ミステリ好きなアリスが解いておいてよ

アリス

料金フリータイムで750エイドとなります

フレイス

わっわっ。今月厳しいんだ、勘弁してくれよ。それじゃあ

フレイスはそう言って声を上げるとそそくさとここから出て行った。私は小さくため息を吐くと定位置としている従業員席へと向かう。

まあ、そこが店を見渡せてどこからも遠すぎるということのない場所だからという理由でそこにしただけなのだけど。

アキス

あっ、お友達帰られたんですね


グラスを持っているアキス先生にばったり出会う。私は小さく驚きながら返事をする。

アリス

えぇ。お騒がせしました

アキス

いえいえ。それに興味深い話を聞けましたし

アリス

もしかして、先ほどの話……

アキス

はい、失礼ながら聞かせていただきました

聞かれて困る話でもないし、そもそも話を聞かせるような形になったのは私の落ち度だ。文句は言えない。

アキス

それにしてもこの事件……。非常に興味が踊ります

アリス

あっ、もしかして、それを披露したくて私が戻るタイミングでジュースを

グラスには微妙に青汁が残ってるので間違いないと思う。

アキス

偶然ジュースを補充しようとしていただけですよ

アリス

……まあ、そういうことにしておきます

アキス

では、この事件。少し、考えてみませんか?

アキス先生はまたしてもシャープペンシルを取り出してくるくると回転を始めた。

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