人知れず静かなところの方がいいというのが私の意見だったがここにきて一つの可能性が現れた。クラッシック音楽でも流した方が全体的にいい雰囲気になるんだろうか?ということだ。
人知れず静かなところの方がいいというのが私の意見だったがここにきて一つの可能性が現れた。クラッシック音楽でも流した方が全体的にいい雰囲気になるんだろうか?ということだ。
ミュージックプレイヤーでも買ってみたら?
もちろん、それも考えました……。だけどミュージックプレイヤーってあんな陳腐なのにとても高いから
ち、陳腐って。一応最高品質なはずなんだけどな
私の言葉に苦笑を漏らすこの地で『クレフ』を始めるにあたって相談にのってくれた友人、フレイス。
陳腐というのは値段に対してです。例えば100エイドのインスタントラーメンが専門店と同じ味を出していたらとてもすごです。しかし1万エイドなんてふざけた値段でその100エイドのインスタントラーメンと同程度の味だったら、それは陳腐と言えます。値段の割には陳腐なんです、ミュージックプレイヤーは
た、確かに無駄な部分というか、使っていない機能あるけどさ
そういってフレイスはテーブルに出していたミュージックプレイヤーをしまう。
確かに利益を度外視するならミュージックプレイヤーを選ばない選択もあるけど、それでもあまり賢い選択とは言えない。だからこそ悩んでるわけです
久しぶりに立ち寄ったらこんな愚痴に付き合わされるなんて……
でしたら、フリータイム料金、750エイドいただきお客様としてお相手しましょうか?
一応俺も会員カード持ってるから会員値段のはずなんだけどなぁ
残念なことにフレイスのカードだけ期限が切れました
勘弁してよ
フレイスは笑って両手を上げる。
カランコロン
私の耳に扉の開閉音が届く。
それにしても……、ってちょっと?
お客様
あっ、なるほど
今まで誰もいなかったからこうしてペチャペチャと喋っていたけどお客様が来たら話は別だ。私はパタパタと扉に向かう。
いらっしゃい。あっ
どうも
アキス先生……。ようこそ
今日は根つめようと思うから、フリータイムでよろしくおねがいします
かしこまりました。どうぞ、こちらへ
私は彼をできるだけ静かになりそうな場所へと案内する。
珍しく話し声、聞こえましたけど
あぁ……。友人が来ていたんです。大丈夫です。すぐに追い出します
いえいえ。僕は別段気にしないんでそのままお話し続けて頂いて構いませんよ
……すみません。心遣い、ありがたく思います
私は頭を下げて席に着かせる。もうドリンクバーの説明も不要だろう。私よりドリンクバーについて詳しくなってるみたいだし。
それでは、ごゆっくり
はい
アキス先生に見送られる形で私はフレイスの元へと戻る。
偉く親しそうだっけど、常連さん?というか、先生って?
お客様についての情報はたとえ親族でもお話しできませんので
探偵事務所に言われようだ。でも、どこかで聞いたことがあるようなアキスって名前
フレイス。お客様も来たんで帰ってください
あっ、思い出した。アキスって、よくアリスが読んでるミステリ小説の作家さんの名前でしょ?えっ?そのアキスさんがここに常連客だったの?
まったくこっちの話を聞いてくれない……。それにここまでばれたらもう話した方が早い気もする。
えぇ。そうです。そのアキス先生です。私もつい先日知ったんです。なんでも、ここが執筆環境もよくてはかどるらしいですから
平日、休日、時間帯問わずにやってくるお客さんだとは思ってたけど小説家という特殊な生業だからそんなのあまり関係ない生活を営んでるから当たり前と言えば当たり前だ。むしろ平日の方が来やすいのかもしれない。
つい先日って……さっき言ってたドリンクバーの?
まぁ、そうです
へー。それを解き明かしたのもあの人だったのか
話しの流れとしてフレイスにこのことを伝えたのは間違いだったのかもしれない。そもそもが数時間前にあのデブ客が堂々とやってきたので問い詰めた所私の気を引こうとしてイタズラをしたことを白状した。出禁処理をしようとしてたらごね始めどうしたらいいかと困っていたところに彼が来たのでその点については助かったのだが……。
その際に『いくら本当の事でもあなたと私ではつりあいませんと言うのはどうかなと思う』とフレイスに注意もされたが。
なるほどね。そういや、俺もこの前不思議なことがあったんだよ
はぁ……。なんですか?
友達と出かける予定があってね、支度も終えたから時間まで音楽聞きながら家にいたんだけど、お任せ選曲だったのもわざわいしたのか、いつの間に船こぎはじめててさ。それでたぶん一瞬寝ちゃったみたいで曲がいつの間にか次の奴に変わってたんだよね。
で、一応、そのまま時間の方も確認したら7分しか進んでなくてほっと息吐いたんだ。それで出かけたんだけど、友達に遅いって怒られて。みたら1時間以上遅刻してて……。まるで僕の家だけ時間がゆっくり流れてたみたいなんだ
そんな、カメ……みたいにゆっくり歩いていただけじゃないんですか?
流石にそれでそんなに遅れないよ
じゃあそもそも待ち合せ時間を間違えていたんじゃないんですか?
まさか、きちんとカレンダーにも書いてあったし。時間も6時と17という数字を表しているのをこっちで確認したさ
はぁ……。でしたら私にはもうわかりませんね。というか、今日はこれから用事ないんですか?
用事?あっ、もうこんな時間か
腕時計を確認してフレイスは席を立ちあがる。一応私も店の扉の先までついていく。
それじゃあ、この謎、ミステリ好きなアリスが解いておいてよ
料金フリータイムで750エイドとなります
わっわっ。今月厳しいんだ、勘弁してくれよ。それじゃあ
フレイスはそう言って声を上げるとそそくさとここから出て行った。私は小さくため息を吐くと定位置としている従業員席へと向かう。
まあ、そこが店を見渡せてどこからも遠すぎるということのない場所だからという理由でそこにしただけなのだけど。
あっ、お友達帰られたんですね
グラスを持っているアキス先生にばったり出会う。私は小さく驚きながら返事をする。
えぇ。お騒がせしました
いえいえ。それに興味深い話を聞けましたし
もしかして、先ほどの話……
はい、失礼ながら聞かせていただきました
聞かれて困る話でもないし、そもそも話を聞かせるような形になったのは私の落ち度だ。文句は言えない。
それにしてもこの事件……。非常に興味が踊ります
あっ、もしかして、それを披露したくて私が戻るタイミングでジュースを
グラスには微妙に青汁が残ってるので間違いないと思う。
偶然ジュースを補充しようとしていただけですよ
……まあ、そういうことにしておきます
では、この事件。少し、考えてみませんか?
アキス先生はまたしてもシャープペンシルを取り出してくるくると回転を始めた。