くるくるとまた舞うシャーペン。私達はアキス先生が青汁を補給した後彼が座っていたテーブルの方へとおもむき席に座る。

アリス

それで、何かわかっているんですか?

アキス

いえ、今のところは何も。ですのでいろいろと考えていきましょう

アリス

考えるたって……、本人もいないのにわかるものですかね

アキス

殺人事件で被害者に直接話を聞けるのは稀ですよ

アリス

確かに、そうですけど


殺していなければ殺人未遂だし。

くるりんとシャープペンシルを大きく回し始める。まだ思考を立てているところなのだろうか。

アリス

うーん……。でも6時と7時じゃ間違えそうにもなさそうですよね


フレイスは6時と確認したと言っていたことから1時間遅いと考えると7時を本当はさしていたという可能性。

フレイスの言っていた通り時間を純粋に間違えたというのには少し違和感を感じる。いくら焦っていたとしても分を間違えるならともかく長針を間違えるということはなさそうだし。

アキス

なるほど。では、アリスさんは時計と言えばどのようなものだと思いますか?

アリス

時計、ですか?まあ、丸かったり四角かったり……。短針、長針、秒針があってという感じですかね


ちなみになになにですか?はアキス先生の描くミステリ、『クローバー』の主人公の口癖だ。まさかこれがアキス先生自身の口癖だったとは。

アキス

そうですね……。ちなみにアリスさんは音楽をよく聞きますか?

アリス

音楽ですか?うーん……、あんまり聞きませんね


正直流行りの曲だと言われてもあまりわからない。そもそも調べようとしていないというのもあるのだけど。

アキス

でしたら、アリスさんのご友人は音楽をきいていたんですよね?何で音楽を聴いていたかわかりますか?

アリス

えっと……、次の曲とかいってたんで恐らくミュージックプレイヤーだと思いますけど

アキス

エリスマジック社のミュージックプレイヤー……。形は?

アリス

青くて丸かったです。手のひら大のサイズで

アキス

なるほど。でしたらミュージックプレイヤー4Xと思われますね

アリス

便利ですよね、先生の魔法。アーカイブスは

アキス

それほどでも

アーカイブス。それは世の中の情報を検索する魔法。そのため自分の知らないことでもすぐさま検索し調べることができる。もちろん、前提として調べようと思えば調べられるラインで合法的なものに限る。だからプライベートなことや国家機密、なんて調べられないけど。

先の事件でドリンクバーについて詳しく知っていたのもこの魔法のおかげだ。

アキス

なるほど。だとするならば時間を間違えそうにもない、ということも無さそうですね

アリス

えっ?どうして

アキス

今回は簡単でした。ご友人がミュージックプレイヤー4Xを持っておられたということがかなり大きかったです


最後にまた大きくシャーペンを回してからその回転を止めて前に突き出す。

アキス

このミステリー。全て書けました


満足そうに頷く。なにが書けたというのか。

アキス

さて、真実を導くためには間違いを消していくことの方がいいです

アリス

間違い?魔法によるトリックとかですか?

アキス

はい。今回の件でいえばイタズラにしても被害を逢うのはご友人のご友人となりますし誰もとくしません。さらには時間を操る魔法はかなり高度で大掛かりなものと聞きます

アリス

らしいですね

アキス

では続いてご友人の足がまるでカメのごとく遅いという線


カメ云々の事も聞いていたんだ、アキス先生。二重に話をするのも面倒だったので嬉しいことだけど。

アキス

こちらもどんなに遅かったとしても流石に一時間もかからないでしょうし


そしてテーブルに広げていたノートパソコンを弄る。

アキス

もし、私の憶測が正しければこれを見ればアリスさんもわかるかと思います

アリス

なんですか?

アキス

この時計をご覧ください。針などありませんよ

アリス

あっ、そっか。デジタル時計というものが

アキス

はい。そして今の時刻は?何時、までで結構ですので

アリス

えっ?3時、ですけど

アキス

いえ、そうではなくて、そのまま読んでください

アリス

そのまま?15時……。あっ

アキス

その通り。ご友人も恐らく24時間表記のデジタル時計を見たんだと思います。そうするならご友人の言い方にも納得します。7時と17という数字をみた、なんて

アキス

7時、つまり19時と18時ではデジタル数字では線が一本あるかないか。寝起きでぼんやりとしていたことも考えて間違えてもおかしくはなさそうです


うん、たしかに。あとは光の加減とかで線が一本見えなくなっていたりとかはよくあることだし。

アリス

なるほど……。でも、フレイスがデジタル時計を見たという証拠は?

アキス

それもご友人の言葉から憶測できます。時間を確認したという表現を使っており時計を見たとは一言も言ってないんです。さらにいえば焦っていたのなら、一番手元にある時計を確認するはず。ミュージックプレイヤー4Xにはデジタル表記の時計が必ず1番上に表示されるんです

アリス

そっか……。あれ?でも待ってください。フレイスは曲が一つしか移っていないと言ってましたよ?


そうだ。これがあるから時間の線もなさそうだと思っていた。1時間もある曲を聴いていたとは思えないし。

アキス

ご友人おっしゃられていましたよね


意地の悪そうな笑顔を見せる。なんか楽しそうだ。

アキス

お任せ選曲にしていたと。ということは、次に何の曲が来るかは予想できないはずです。ですが、ミュージックプレイヤー4Xは左下に全何曲中の現在何曲目というのが表わされているんです

アリス

まあ、そうなるでしょうけど……


だからどうしたとも思える。それが全何曲中の先ほどまで聞いていた曲数プラス1曲になっていただけでは。

アキス

リピート機能ですよ。ですので曲数がリセットされていたんです。お任せ選曲ならば全楽曲数が1時間ほどになっている可能性もありますし

アリス

そっか。ちょっと確認してみます


私はポケットから携帯を取り出し電話をかける。その時スピーカーにもする。

フレイス

もしもし?どうしたの?

アリス

フレイスが言っていた謎が解けそうなんです。ですので、確認。フレイスは起きたときなにで時間確認したんですか?

フレイス

えっ?ミュージックプレイヤーだけど

アリス

機種は?

フレイス

4X

アリス

……はぁ。やっぱり。わかりました。詳しくは後でお知らせします

フレイス

そう?ありがとう


ピッと携帯を切る。

アキス

やはり、仮説は本説となりました

アリス

結局はフレイスが時間を勘違いしていたのと偶然が少し重なったというあたりですね

アキス

はい、そのようです。全ての謎が書けました


アキス先生は満足げに頷く。

カランコロン

来店を知らせる音が聞こえる。

アリス

すみません、お客様がきましたので

アキス

あぁ。では、私も仕事に戻るとします


アキス先生に頭を一つ下げてからパタパタと向かう。そこにいたのは細身の女性。

アリス

いらっしゃい

ティーチ

あっ、すみません。ここに男性の一人客が……って、あっ!


大きな声を上げる。

ティーチ

ごめんなさい!アキス先生!やっぱりここにいたんですか!?

私を押しのけてからその女性はアキス先生の前まで行く。

アキス

えっ、なっ……。ティーチ、さん

アリス

お、お客様?


勝手に入られて騒がれたのでは店の雰囲気が悪くなってしまう。というか、アキス先生の知り合い?

ティーチ

すみません。私、アキス先生の担当編集をしているティーチと申します。そろそろ〆切というのに進行状況について問い合わせても返事がなかったので

アリス

あ、あはは……


根つめるのでフリータイムでと言ってたけどそういうことだったのか。

アキス

きちんとここで仕事してたんですよ。家より執筆がはかどるんで

アリス

えっ?でも先ほどまでナゾトキをやっ―――

アキス

アリスさん!

ティーチ

謎解き……。へー


視線の温度がどんどん下がっていく。

ティーチ

わかりました。アキス先生が書き終わるまで待たせていただきます。すみません、私も追加で

アリス

あ、はは。わかりました。ドリンクバーですので、ご自由にどうぞ


私は小さく笑って認める。

アキス

アリスさんも……わざわざ言わなくても

アリス

クローバーシリーズ。楽しみに待ってますんで

アキス

確信犯、でしたか

アリス

そんな、偶然ですよ


私はアキス先生がしたように偶然を装って笑ってみせる。


がっくりと頭を垂れて、編集というティーチ氏に促されるまま執筆活動をアキス先生は再開した。

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