第二章
プレッツェル・ロジック
クリアアサヒが~ 家で冷えてる~♪
心ウキウキワクワク~♪
第二章
プレッツェル・ロジック
ここは浅草と両国を結ぶ吾妻橋の上。
下はかの有名な隅田川が流れていて、
そのさらに上を首都高が走っていて、
人、車、船、魚の道があみだくじのように行き来する非常に立体的な地形である。
東京ブギウギ♪リズムウキウキ♪
心ズキズキ ワクワク~♪
あれ?
これさっきも歌ったような違うフレーズなような…あーとりまさっさと就活終わらせて気持ち良くビール飲みたい!
織原経華、
21歳はそんな目まぐるしい隅田川近辺を端から端まで行ったり来たりしながらある男を探していた。
先日の就活で間違えて面接を受けに行ってしまった
整体院、
もといいエロマッサージ店で出会った長身猫背の男、
君、背骨が煤けてるぜ
小暮忍である。
あの謎のマッサージを受けて冷え性が改善して左肩のブラ線がずれにくくなったものの、
眠くて施術中の事はあの猫背の後ろ姿以外何もほぼ覚えていない。
そもそも何者なのか、
経華の寝ている間に全てを解決してしまった彼が、
あの店の部外者であるならば施術代を払わないと気が済まない。
それに加えて
≪もう就活エントリー企業がかなり少なくてヒマ≫
というのも、
経華を足早にさせた。
まずはあの男性が働いているであろう整体系の治療院を片っ端から探すことにした。
マッサージ、フットケア、鍼灸、気功、リラクゼーション…
駅近辺だけで軽く6~7件は整体関係の看板が軒を連ねる。
律儀な経華は男性の存在を店先で確認するだけでなく、
一軒一軒最後まで施術を受け切っていた。
初めのうちはいろいろなタイプの整体を受けられて良い社会勉強になる、
完全に左肩が均等になるだろうと期待していたが、
軍資金が減るのと同時に体中も矯正やほぐしを通り越して揉み返しやら、
下手な施術を受けた際のダメージでボロボロになっていった。
想像と違う
朝から一向にあの猫背の整体師は見つからない。
もう本来は就活用の軍資金も底を尽きはじめてきている。
また新しいバイトを探さなければいけない…
心身ともにボロ雑巾のような状態に陥っていた。
真っ直ぐ歩くのもままならない状態で、
段々焦り始めた頃、
経華は川の向こうの一軒家に
“森カイロプラクティック治療院”
の看板を発見した。
カイロプラクティック…聞いたことある!
あの日、
殆どメモも取らなかったため記憶は抜け落ち、
施術を受けながら疲れと癒しで朦朧とする意識の中でかすかに聞き覚えのある単語にビビっと来てダッシュして駆け上がる経華であった。
森カイロプラクティック治療院前。
よくよく建物に近づくとそれは治療院とは言い難く、
時代劇に出てくるオンボロ長屋のような木造の作り。
まだ日は高いのに幽霊が出てきそうな鬱蒼とした気味悪さが漂っている。
ある種、
古都浅草らしいが施術院というよりは怪談噺が似合いそうな外観であった。
前向きに言えばレトロな佇まいに気圧されながらも経華は徐に引き戸をノックする。
ガシャンガシャンと鳴る音。
それでも人気を感じないので去ろうとすると
ちょっと戸井が痛むから強く叩かないでっていつも言ってるでしょ!?
ひゃわわわー!
経華は恐れで腰を抜かした。
扉を振り返るとそこには白装束のお岩さんではなく、
白衣の黒髪美白美人の森加奈子が立っていた。
薄い眉をしかめて経華に尋ねた。
…あなたどなた?ごめんなさい。予約の常連さんだと思ってつい
どうやら加奈子はこれから診る予定の他の患者が来たと間違えて迎えてしまったようだ。
はい、私は織原経華と申します!
経華の手を引いて起こす森。
ありがとうございます!初対面なのにお手数おかけします!
いいえ
うっすらと会釈する加奈子。
その仕草に大人の女の魅力を感じ、
見惚れてフリーズしてしまう経華。
ウチに何か?
わわっ、ごめんなさい!失念していました!ここはカイロプラクティックの整体院でよろしいでしょうか?
ええ、アメリカ発祥の背骨と骨盤の歪みを徒手によって矯正する治療法です
おや!そのフレーズはどこかで聞いた覚えが…
頭を抱えて考え込む経華。
耐えかねた加奈子が
良ければ中に入って少しお話します?患者さんが来るまでまだ時間あるので
後ろで一つに縛った髪を加奈子は肩口で撫でながら稀薄そうに尋ねた。
続く