ヤマイダレさんと寝ることになった。

 私たちは寝具店に行った。

ダブルサイズは、この展示用のベッドしかないわね

うん

ここで寝ましょうか

えっ? うん

みんなと一緒のところで寝たい? 上まで持っていく?

いやっ

 それはかなり面倒くさい。

 不可能にも感じられる。

じゃあ、寝所はここで。でも、なんか肌寒いわね

フロアが広くて、壁がないからかなあ

うーん。カーテンで囲ってみる?

うん。風を防ごう

 私たちは、さっそく寝具店を改装した。

 ヤマイダレさんは、テキパキとよく働いた。

 私は負けないように頑張った。

 寝具店は、あっという間に様変わりした。

何枚もの布が垂れ下がってて、なんかエロいですね

お姫さまの寝室をイメージしたのだけれど

どちらかというと、中東のハーレムですよね

そうそう。あやしい煙とか焚(た)いてそう

ちょっとタバコとかやめてくださいっ

えっ? これ?

それって葉巻ですよね?

ううん、違うわよ。ただのチョコ棒よ

 ヤマイダレさんはドヤ顔でそう言った。

 たしかにそれは、ヤマイダレさんの唾液で黒光りした――お腹がすいたらチョコッカーズって感じの――チョコ棒だった。

って、いつの間に?

言ったでしょう? チョコ棒と稲荷寿司(おいなりさん)を用意するって

もうゲットしたんですか!?

だって、ゲットするところとか読んでもつまらないでしょう?

うーん

 そういうメタくさい発言はやめてほしい。

 というより、ゲットする様子を面白く描けばいいだけだと思う。

あっ

 と、私はあわてて口をふさいだ。

 チョコ棒の面白いゲットのしかたとか、嫌な予感しかしない。

 そして巻き込まれるのは私なのである。

どうしたの?

ううん、なんでもないの

じゃあ問題ないわね

 ヤマイダレさんはベッドに腰掛けた。

 私も座った。

うわっ、やわらかいですね

ずぶずぶと沈みこんじゃう。ああん、気持ちいいなあ

 ヤマイダレさんは、枕に向かって飛びこんだ。

 思いっきり手足を投げ出した。

 その際、カバンから何本かのチョコ棒と、稲荷寿司(おいなりさん)が飛びだした。

へえ。稲荷寿司(おいなりさん)って、売ってるんですね

ライスボールを改造したのよ

ヤマイダレさんが作ったんですか?

ええ

 ヤマイダレさんはそう言って、ご飯をつつむ手振りをした。

 なんというか妙に小慣れた手つきだった。

 というより、意外と家庭的なヤマイダレさんなのだった。

なによ、これくらい常識でしょう? 学校で習わないの?

えっ? 家庭科の授業は、調理実習あんまりやらないし

 包丁持たせてくれないし。

もう、私が凍ってる間に日本はどうなってしまったのよ

 ヤマイダレさんは、可愛らしくため息をついた。

 私は、愛嬌のよい笑顔でうなずいた。

というか、智子ちゃん。立花智子ちゃん

はっ、はい?

あなた、どんな寝言を言ったのか覚えてる?

えっ?

私、ずいぶんとひどいことを言われたのよ?

あっ

 そういえばそうだった。

 私は夢のなかで、ヤマイダレさんのことを『24時間365日ずっとエッチなことばかり考えてる』とか、『あのヤマイダレさんがバックを好きなのだから、一番気持ちいい体位なはずだ』とか言いたい放題だったのだ。

 まあ、全部事実を元にした、ほとんど事実のようなものって気もするのだけれども。

好き勝手なことを言って、ごめんなさい

ううん、構わないのよ。でもね?

はい?

智子ちゃんがスッキリしたいというのなら、ひとつお願いをしようかな

えぇ!?

 なんだその感じの悪い言いかたは。

お願いを聞いてくれたら、許してあげる。それでお互いサッパリ忘れましょう?

 ヤマイダレさんは、スケベな笑みでそう言った。

 上目づかいで私を見ながら、チョコ棒と稲荷寿司(おいなりさん)をもてあそんでいる。

っていうか、いつからそれを狙ってたんですかあ

えへへ?

お願いすることを前提に、チョコ棒とかゲットしてますよね

 交渉の仕方があざと過ぎる。

 私は跳びはねるようなツッコミをキメた。

 だけど結局は従うことにした。


 私が失礼な寝言を言ったのは事実だし。

 それにヤマイダレさんは、悪い人ではないと思ったからである。


 ただまあ、結論から先に言って、ヤマイダレさんは悪い人ではないけれど――

 思っていた以上に、エロい人だった。

 23時を過ぎた頃だった。

 私はベッドに寝ていた。

 ヤマイダレさんの指示通り、ブルマをはいていた。

 パンツとブルマの間に、チョコ棒を入れていた。

 あおむけになっていた。

………………

 灯りが消えてしばらくの後、ヤマイダレさんがやってきた。


 彼女は私に気づかったのか、ひと言もしゃべらなかった。

 ベッドがきしんだ。

 そのとき匂いがした。

 ひどく好(い)い匂いなんだけど、でも正直に言うと私は、このとき、

なにか、メスの臭いだな

 と思った。

 ほんと品のない言いかたなのだけど。


 で。

 数分にも数十分にも感じる沈黙が流れた。

 それから。


 する、って。

 ヤマイダレさんが潜りこんできた。

 まるで生娘のような恥じらいと思い切りのよさ。

 そんないきおいだった。


 まるで裸のオンナが入ってきたみたいな感触だった。

 そう、まさにオンナの肌の感触。

 しかも密着して。

って、なんで裸!?

ちゃんと着てるわよっ

うそっ

キャミソールとボクサーショーツよ

ほんとだ

 つるつるして気持ちのいい、オトナの肌触りだ。

ブラはしてないけどね

まあ、それは私も

ほんとはサラシを巻いてほしかったんだけど。でも、さすがにそれは寝にくいでしょう?

 ヤマイダレさんは、息を吹きかけるようにそう言った。

 甘くて爽やかな果実酒のような息だった。

ていうか、顔近くありません?

そう?

そうやって甘えないでください

眠いだけよお

甘い声を出さないでください

ううん。相変わらずキツイのねえ

 ヤマイダレさんはそう言って、私の胸もとに手を乗せた。

 すうっと手を下に移動させた。

あっ

 ブルマの上から、チョコ棒をさすった。

 ヤマイダレさんは、うっとりとした瞳で私をみつめながら、チョコ棒をまさぐった。

ちょっと、ヤマイダレさん

しぃ。少しの間、楽しませてよ

うーん

イマジナリー・おち○ぽよ。今、私の頭の中では、あなたの股間に立派なおち○ぽが確かに存在しているの

やめてください

うふふ。そんなこと言って、こんなに硬いじゃないのよ

 ヤマイダレさんは、ぎゅっと握る手に力をこめた。

 人差し指と親指で、チョコ棒の硬さを確かめるようにブルマの上からつまんだ。

 つまんでは離してを繰り返した。

 そうやって上から下へ、下から上へと連続してつまんでいた。

もう

身体は正直ね。こんなにカチカチよ

そのセリフ、ほんと好きですよね

好き。だって、おち○ぽはウソつかないんだもん

はあ

どんなクソ野郎でもウソつきでもね、おち○ぽはウソをつかないのよ。エッチな気持ちになったら必ず硬くなるの

…………

おち○ぽは、絶対にウソをつかないの。大きくなるのよ

 ヤマイダレさんは、しおらしくそう言った。

 それは、いつものハイテンションな下ネタではなく、なんだかさびしげで、むしろ恥ずかしがっているかのようだった。

 しかも、なんだか人生の格言めいていた。

うーん

 私はそんなヤマイダレさんの真剣味に、ちょっとついていけないというような、距離感のある笑みをした。

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