玲奈さんたちはダミーヘッドを固定してセッティングを始めた。楽しそうと言えば楽しそうなのだけれど。
前回のビギニングアイドル!
最近入ってきた新しい子たちと劇を演ることになった。なんでも一人はアンドロイドだとか……正直、よくわからない感じもあったけど、オーディエンスの評判はまずまずだったみたい。これから楽しみ……もとい、要注意ね。
あ、いたいた。北上さーん! 北上 ここあさーん!
北上? あ、私か……。あなたは誰?
先程共演していただいた、中川と小松のプロデューサーの吉田です。よろしく。
あら、そう……二人とも間がとりにくくて骨が折れた。
それはお疲れ様でした。あの二人にも、実によい経験になったと思います。ありがとうございました。
仕事ですもの。礼には及ばないわ。
では次の仕事がありますので、これで。
あ、そうだ。
なんでしょう?
分かってると思うけど、あれは演技だからね。勘違いしないでよ。
……はい♪
お待たせー。
ん? やけに嬉しそうだな。アルファベットチョコでも拾ったか?
なんでそんな限定的なの!?
ダメですよ拾い食いは! お菓子なら私が持ってますから……。
でも、陽平さんはそのお菓子を食べられませんよ。お菓子はアイドル専用アイテムです。
別に食べたいわけじゃあ……。
差し入れだったらよかったんですけどね~。
次は玲奈さんのお仕事の番ですね。
おう流れぶった斬りやな!
ここでドーンとファン獲得したいものだな。
一緒に出ていいですか?
ああ、ついてこい。
D66をどうぞ!
……1と3だ。
ライブシアター仕事表だと、CD制作になっているね。テーマはシーンプレイヤーの好きなものだって。
CDか……これって楽曲じゃなくてもいいのか?
いいと思うけど、何かやりたいことがあるの?
ふふ……。
で、なんで僕らはこんな山の斜面にいるのかな~!?
だってテーマは私の好きなものだろ? 私の好きなものはパーティだからな。
もっとこう、ヘーイパーリピーポーみたいなのじゃなかったの?
登山者の集団もパーティと呼ばれるぞ(学力)それに、登山もスポーツの一種と言えるからな。私の趣味だ。
そ・れ・は・そ・う・で・す・け・ど!
私のデータベースには「アイドルは山に篭もるものだ」とありますよ?
それもまたビギドルだね♪
直ちに削除しろそのデータ!
……。
しかもさあ……。
僕が持たされてるこれ! 何なんだよ!
これ→
何ってダミーヘッドだよ。人体の構造を精密に再現していて、リアルな立体音響が録音できる。
あからさまに胴体がついてるんですけど!!
言っておくがすごく高いぞ。無理言って借りてきたんだ、傷つけるなよ。
うええええん嫌だよおおおお……。
うん、風もないし、環境音の録音にはぴったりだな。
アイドルが録音した環境音。癒やし効果ばっちりですね♪
やはり僕のアイドルプロデュースはまちがっている。
このへんでいいか。プロデューサー、ダミーヘッドをこっちへ。気をつけてな。
はいはい……。
まさかこの手渡しにまで判定が必要だとか言い出さないだろうな。
サンキュー。じゃ、録音開始だ。いくぞ葉月。
はい♪
玲奈さんたちはダミーヘッドを固定してセッティングを始めた。楽しそうと言えば楽しそうなのだけれど。
成否を見届けて、とっとと下山したいよ……。
そうですね。今回は「シーンプレイヤーが修得している趣味分野の特技」に対する判定なので、玲奈ちゃんが修得している「スポーツ」を使います。目標値は5。
目標値が低いのはありがたいけどな。
……4! 1足りない!
あ、風が出てきたか?
マイクにノイズが入っちゃいますね。私が壁になりましょうか?
それでは音場が変わってしまうだろ。もう少し角度を調節してみるか……ダメか……。
ああ……そこは協力受けようよ……。
無理です。玲奈ちゃんは「マジメ」なのでサポートを受けられません。
あるいは思い切って寝かせてみるか……うーむ……。
結局、録音した音声はノイズがひどくて使い物にはならず、「何をバカなことをやっているのか」と大不評だった。
いや、そもそもアイドルが登山して環境音録音って企画の段階でおかしいって気づけよ!
世界が私に追いついていなかったのだ……。
かっこつけたってファンは増えませんからね!
でも、山を登ってるときも、ダミーヘッドをセッティングしているときも、玲奈さんとっても楽しそうでした♪
まあ、確かに……。
山の良さがわかってもらえれば、私は嬉しいよ。
あれで山の良さがわかるのかね?
葉月ちゃんから玲奈ちゃんへの理解度は3点アップしたみたいですし、いいんじゃないですか?
メモリーしますね♪