前回のビギニングアイドル :-
命名(ユニット,leonids),
完成(セットリスト),
失敗(仕事),
理解(うらら, 玲奈, 3),
ケジメ(筆者).

淡々とした記述って心に来ますね……。

気を取り直して次の仕事行こうよ。誰がやる?

?- 仕事(P1, P2).
P1 = 葉月,
P2 = うらら.

アイドルはプログラミング言語でしゃべらないと思うよ。

まあ、なんとなくわかりますけど。葉月ちゃんがメインで、うららちゃんがパートナーですね。D66を。

2と3が出ました。

ライブシアター仕事表だと……シーンプレイヤーの背景をもとにしたノンフィクションドラマか。背景って……。

「アイドルになるべくして作り出された人工生命体」です♪

わからない。ノンフィクションとは何なのか、わからない。

わたしがいるところでそれ言います~?

私はいいと思いますよ。人工アイドルって、人間の夢ですから。

そうなの?

ここで疑問を持つような人間に未来はないだろうな。初音ミクとか知らないのか。

ひどいこと言われた!

葉月さん。沢山の人に、あなたを知ってもらいましょう。沢山の人の夢になってあげましょう。

はい♪

……頑張って……。

今回の判定は「趣味分野からランダム」ですね。陽平さんが2D6を振ってください。

……10だ……。

すると趣味の10番「ゲーム」に対しての判定になります。葉月ちゃんの趣味は7番の空白(内容は「人間観察」)ですから、3マス差で目標値は8ですね。

左右から狙うのも無理。一芸突破も不利。厳しいな。判定の前に様子を見に行っていいかな?

うんうん、それもまたビギドルだね。

いいという意味で解釈するぞ。

シアターでは、リハーサルが始まっていた。葉月ちゃんは中央に寝かされ、白衣を羽織ったうららちゃんが舞台上を歩きまわっている。開発者の役だろうか?

あなたもそうおっしゃるのですか? 心のない人形が人の心を動かすはずがない、と。

ええ。第一、こんなにも地上に人間が溢れているというのに、何が楽しくて人造人間など造るの? そんなもの、人間とニッチを奪い合うだけじゃない。あなたは自分で自分の首を締めているのよ?

同じく舞台上の先輩アイドルは、おそらく敵対者。台本はスタッフが書いたものだろうが……。

なんか、物々しいな……。

あの人、すごく表情豊かですね。演技派!

確かに……。

まあいいわ。人造人間なんて、所詮は心の折れた弱い人間の慰みよ。

アイドルという身分からは想像もつかない、暗黒を帯びた微笑み。上級の演技と言えるだろう。対して……。

違う! わた、私は葉月ちゃ、葉月を……葉月は……。

あれ、マジ泣きしてる。ヤバイかな……。

握り締めた手に力が篭もる。中のサイコロが痛い。
その時、

今です。振って!

へ!?

思わず手を開いてしまう。こぼれる2つのサイコロ。出目は……4と6で10。

超えた……。

ほら、見てください!

促されて舞台に目をやる。泣き崩れるように跪いたうららちゃんが見える。そのとき、ずっと寝かされていた葉月ちゃんが、ゆっくりと身を起こした。

葉月……?

身をかがめたうららちゃんを、葉月ちゃんは母親が子どもにするように抱きしめた。かすかな子守唄が響く。

どうして……こんなインプットはしていないのに……。

みてた。きいてた。ずっと。

葉月ちゃんっ!

うららちゃんは、葉月ちゃんを強く抱きしめ返す。

ふん、プログラムにない挙動をしたから何よ。そんなものはバグよ、バグ! 私は認めない!

捨て台詞を吐いて、先輩アイドルは下手に捌ける。
うららちゃんは、葉月ちゃんを抱えたまま、すっと立ち上がる。

たとえバグでも構わない。むしろ、それこそが人を癒やし助けるのなら、私は守りぬいてみせる。葉月の心が人々とつながる、その日まで……。

拍手が、起こる。リハーサルだというのに。

これなら、大丈夫。うん。

でしょ?

舞台は、盛況のうちに幕を閉じた。アンドロイドアイドルへの注目が元々あったのもあるけれど、それだけ葉月ちゃんの物語と、それを演じきったうららちゃんが人々の心を動かしたということだろう。

ところで、ファンは何人増えたんだ?

はい。サイコロ4つで……15人です。

やったね葉月ちゃん! 初めてのファンだよ!

うららちゃんのおかげです♪

なあ……あれって本当の話なのか?

あのプロット、私が書いたんです。葉月ちゃんから直接お話を聞いて。だから、葉月ちゃんの心の中では本当にあったことなんですよ。

なるほど、そうだな。

歌も踊りも演技も、みんな同じなんですね。人を見ること、人に触れること、それがすべての始まり。少しだけわかった気がします。

うららちゃんから葉月ちゃんへの理解度が1上昇ですね!

ありがとう、うららちゃん♪

この調子で、次もやってやろうぜ!

はい!

conti
^C

はい♪

さて、と。あの人の名前はなんだったかな? 誰かに聞く……いや、違うな。

ポケットからサイコロを取り出し、本の名前表を開く。教えておくれ、彼女の名前を。

よし。それじゃ、お礼を言いに行きますか。北上 ここあさんのところへ。

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