とりあえず部員見習いということでマサヒロに小間使い的にお茶を淹れさせた奈緒は、依頼人の先輩――曾我さんを前に相変わらず偉そうにしながら話を切り出した。
さてと……
それじゃ詳しく話を聞かせてもらおうかしら?
とりあえず部員見習いということでマサヒロに小間使い的にお茶を淹れさせた奈緒は、依頼人の先輩――曾我さんを前に相変わらず偉そうにしながら話を切り出した。
ちなみにマサヒロがいれたお茶を奈緒はお気に召さなかったらしく、その罰としてマサヒロは床で正座をさせられている。
そんなマサヒロを視界の端でちらちらと捉えながらおずおずとうなずく曾我さんに、さっそく奈緒は聞き込みを始めた。
まず最初に、写真を入れられるようになったのはいつごろから?
えと……
はっきりとは覚えていないんですが……確か、ひと月前くらいだったはずです……
そのころ、あなたの周りで人間関係に変化はあったかしら?
たとえば、誰かに告白されただとか、特定の男子と仲良くなったとか、逆に友達と喧嘩したとかそういう変化だけど?
この質問に、曾我さんは一瞬だけ頬を染めてからゆっくりと頷いた。
確かに……
私は一度、男子から告白されました……
でも……、私は誰ともお付き合いするつもりはなくて……
ですからその時はお断りしたんです……
……まさか!
その人がストーカー!?
まだ何とも言えないのだけど、可能性としては否定できないところね……
先生はどう思います?
いきなり話を振られてびっくりしていると、ふと全員が僕に期待の視線を集中させているのに気づいた。
正直にいえば、僕にはこの状況から犯人を割り出すことなんてできないし、それこそ写真を持って警察に駆け込んだほうがいいような気もする。
ただ、警察はそんな曾我さんに取り合ってくれなかったらしく、どうしようもなくなって一縷の望みをかけてここへ来たのだ。
だから、無責任なことは言いたくなかった。
そんな気持ちもあって、僕はゆっくりと訊ねる。
先輩は……このことを他の誰か……ご両親や友達に相談しましたか?
はい……
親も友達もとても心配してくれて……
特に友達は私と一緒に帰ってくれて、私の両親が帰ってくるまで一緒に私の部屋にいてくれるんです……
そう……いい友達ね……
そうなんです、昔からずっと一緒にいる……とても大切な友達です……
その友達……大切にすることね
なんでそんな上から目線でアドバイスしてるんだよ……
いい感じの空気を壊さないように僕が内心でツッコミをしていると、奈緒が僕を振り返った。
先生……、やはり現場を見てみないことには何とも言えないと思うんですけど……どうです?
はいはい!
俺もそう思うっす!
床に座りっぱなしだったマサヒロも、その意見に強く同意して僕を見るけど、僕は推理できるわけじゃないからこの場は任せるしかない。
というわけで、僕ら探偵部とおまけは、曾我さんの家にお邪魔するべく、部室をでた。
あ!
先生!
待ってください!
足が痺れて立てないっす!!
……あ、ずっと正座させっぱなしだったの忘れてた……。
そんな顛末は置いておくとして、自宅に案内してもらうために校門の前で待ち合わせていた僕たちの元へ、曾我さんが見知らぬ女子を連れてやってきた。
お待たせしました……
丁寧に挨拶する曾我さんの横で、その見知らぬ女子はじろじろと無遠慮に僕を眺め回した。
ふ~ん……
鏡花……こいつが?
うん……
どうしようもなくなって相談を持ちかけた探偵部の人たちだよ……
なんか頼りなさそう……
凄く失礼なことをいわれているけど、実際に僕には探偵としての能力もないし、頼りないのは致し方ない。
そんなことを考えていると、マサヒロがずいっとその女子生徒に詰め寄った。
失礼なことを言うな!
先生は凄いんだぞ!?
第一、誰なんだよお前は……!
部員でもないそいつと意見が合うのは癪だけど、そいつの言う通りよ
先生は私たちの想像を遥かに超える名探偵よ?
その先生に尊敬の念を向けるならまだしも、頼りないとは失礼極まりないわ……
あなた、名前は?
二人ともやけに挑発的に話すけど、曾我さんの友達なら多分その人も先輩だからな!?
目上の人への態度じゃないからな!?
僕のツッコミを軽く無視して、先輩が連れてきた女子が堂々と名乗りを上げる。
あたしは守屋和美(もりやかずみ)
鏡花の幼馴染で一番の友達なの
ちなみに風紀委員でもあるけど、あんたたちのその失礼な態度を取り締まってやろうか?
彼女の口から「風紀委員」という単語が出た瞬間、奈緒とマサヒロは揃って頬を引き攣らせて、素直に引き下がった。
そんな二人の態度に軽くため息をつきながら、この場の収拾をつけるためにも、僕は曾我さんを促して移動を始めた。
しばらくして、曾我さんに案内されてやってきたのは、このあたりでも有名な高層マンションだった。
驚いたわ……
お金持ちなのね……
奈緒がぼそりとこぼした感想に、なぜか守屋さんが胸を張る。
そうよ!
でも鏡花はそれを気取ったりしてないし、とっても優しい、あたしの自慢の友達なの!
だからあたしは、そんな鏡花を苦しめる奴を許さない……
必ず見つけ出して殴ってやる!
一応言っておくけど、犯人を見つけ出しても殴りかかったりしたら、あんたのほうが犯罪者になるからね?
刑法第27条の傷害罪として刑事裁判になって、下手をしたら前科持ちになるのだから、お薦めはできないわ……
それでも構わないというのであれば、私は関与しないけれど……
和美ちゃん……
犯罪は駄目だよ?
私のせいで和美が犯罪者になるのは悲しいから……
大丈夫!
あたしは鏡花が悲しむことはしないよ!
守屋さんが微笑みながらそういうと、曾我さんは安心したように胸を撫で下ろしていた。
それにしても驚いたのは奈緒だ。
探偵としての知識は深いのだろうと思っていたのだけど、まさか刑法すらも網羅していたとは……。
そんな僕の驚きはさておいて、僕以外のメンバーは何の気負いもなく、僕だけは場違い感満載でマンションの中へと足を踏み入れた。
ここが私の部屋です……
そういって開け放たれた扉の先には、なんというか年頃の女の子にしてはシンプルすぎる部屋が広がっていた。
といっても、僕がイメージする女の子の部屋ってドラマや漫画でしか知らないのだけど……。
あら……
随分と物が少ないのね……
ぬいぐるみとか一つもないし……
どうやら女子の奈緒から見ても、随分と物が少ないらしい。
うん、それは分かったけど奈緒……。
早速他人の部屋を無遠慮に漁るのはよくないと思うんだ。
せめて曾我さんに許可を得てから……と注意しようとした矢先に、奈緒はどこからか工具を取り出すと、あっという間にコンセントのカバーを取り外してしまった。
もしかしたらこういうところに隠しカメラが仕掛けられてるかもと思ったけれど……
そんなことはなかったわね……
そっすね……
ぬいぐるみとかもないから、ぬいぐるみにカメラを仕掛けることもできないし……
曾我さん……
あなたがこの部屋にいるときに、シャッターの音は聞いたことある?
…………
いいえ、ないです……
と言うことは、携帯の可能性もほぼない……か……
完全に僕を置いてきぼりにして、奈緒とマサヒロが頭を悩ませていると、突然部屋の中を眩い光が満たした。
何事かと振り返ってみたら、守屋さんが部屋の入り口からこちらに向かってスマホのカメラを向けていた。
えへへ~!
鏡花の部屋に男が初めて入った記念だよ!
そんなことを言いながら、何度もフラッシュを光らせる守屋さんに、曾我さんがぷ栗と頬を膨らませて抗議をし、そんなことは我関せずとばかりに、推理バカの二人は無遠慮に部屋を漁っていた。
なんだろう……このカオスな空間は……。