あまりにも衝撃が大きすぎて思わず叫んだアキラとショウコに対し、二人を助けた男はとっさに手で耳を押さえながら心外そうに頬を膨らませた。
あまりにも衝撃が大きすぎて思わず叫んだアキラとショウコに対し、二人を助けた男はとっさに手で耳を押さえながら心外そうに頬を膨らませた。
いきなり叫んだりするからびっくりしたじゃない……
初対面の人に向かってそれはさすがに失礼でしょ?
外見からは想像もつかない可愛らしい怒り方に言葉を失いかけたアキラは、やがて我に返ると慌てて頭を下げた。
す……すんません!
ちょっといろいろとびっくりしすぎて……
隣で、ショウコも同じように頭を下げているのを横目で確認してから、アキラはおずおずと訊ねた。
それで……
あなたは一体……?
男女どちらかと訊ねようとしたけどさすがに聞きづらくて途中で言葉を飲み込んでしまった結果、曖昧な訊ね方になってしまう。
しかし男はそれを特に気にした様子もなく、再びほほ笑んだ。
あたしは、伊賀島ケンタ
でも可愛くないから、親しみをこめてヒメって呼んで?
ひ……ヒメ……ですか?
そうよ?
かわいいでしょ?
えへへ、と照れ臭そうに笑うヒメことケンタの見た目とのギャップに、アキラは軽くめまいを覚えた。
一方で幼馴染の少女はというと、彼女の元来の性格ゆえか、あっという間に馴染んで普通に会話を繰り広げながら、二人でアキラの前を歩き始めた。。
ヒメってかわいい名前だね!
あら、ありがと!
いくらあたしの心が乙女でも、この見た目でしょ?
だからあまりかわいいとか言われたことないから嬉しいし、自分でつけた甲斐があるわ
あ……
やっぱり男なんだ……
というか、偽名なんだ!?
ふ~ん
そういえば、ヒメは何歳なの?
あたし?
あたしは、まだまだ二十代前半よ?
若いでしょ?と胸を張るケンタの言葉をきいて、アキラはぴたりと歩みをとめた。
ちょっと待ってくれ!
思わず敬語を忘れて声をかけたアキラにケンタは首をかしげながら振り返る。
どうかしたの?
伊賀島さん!
あんた今……
ヒメ!
アキラの言葉を断ち切って、ケンタが訂正を求める。
ヒメって呼ばないと返事しない!
そのまま、ぷいとそっぽを向いてしまうケンタ。
これが見た目もかわいらしい女子や幼子だったら、まだ絵にもなるのだろうが、身長が二メートルにも迫ろうという筋骨隆々の男がやっても気持ち悪いだけである。
しかし、当の本人はそんな評価などどこ吹く風とばかりにそっぽを向き続ける。
そんな、ある種の恐怖さえ感じそうな態度に、アキラは諦めたように溜息をついた後で呼び方を訂正した。
ヒメ……
ん、よろしい♪
満足そうに頷いてから、ケンタは改めて本題を訊ねる。
それで?
いったいどうしたの?
ああ……いや……
ひ……ヒメは本当に二十代前半なん……ですか?
……?
その通りだけど?
ああ、それと無理に敬語を使わなくていいわよ
器用に片目を瞑ってみせるケンタを無視して、アキラは眉をひそめた。
……どういうことだ?
メーティスが嘘をついたのか?
だとしたら何で……?
アッキー?
どうかした?
ショウコと一緒に首を傾げるケンタにアキラは問う。
ヒメ……
あんたもPウィルスのことは知ってるよな?
……?
ええ、それがどうかしたの?
俺たちはそのウィルスの感染者と言うことでここに隔離されている……
そして、この船を管理してるというメーティスが言うには、ここには俺たちしかいないはずだ……
それに、ウィルスは俺たち思春期以外の人間が感染するとすぐにでも……
なのになんで……?
ああ……そういうこと……
それなら……
アキラの疑問に答えようとしたケンタが一枚の扉の前でその歩みを止める。
さぁ、着いたわ……
話はまた後で
二人とも疲れたでしょ?
まずは中に入ってゆっくり休みなさい?
みんな、あなたたちを待ってるわ
そういって開け放たれた扉の先には、数人の人影がぼんやりと浮かんで見えた。