扉の下から漏れ出したアサヒの血が、膝をついて涙を流すアキラの両手を真っ赤に染め上げる。
扉の下から漏れ出したアサヒの血が、膝をついて涙を流すアキラの両手を真っ赤に染め上げる。
アッキー……
自身も涙を流しながら、それでもアキラに心配そうに声をかけるショウコに対して、アキラは何かを堪えるように強く歯を噛みしめ、涙を拭ってからゆっくりと立ち上がった。
……行こう……
……アッキー……
心配そうに声をかけるショウコをアキラは振り返る。
アサヒが言ってたんだ……
俺たちは生き残るべきだって……
だから……、あいつの思いに応えるためにも……
俺たちは行かなくちゃいけないんだ……
それが……あいつの最後の言葉なんだから……
……うん……
幼馴染の言葉に小さく頷いたショウコもまた、迷いを振り切るようにアキラの隣に並んで歩き始めた。
それからしばらくして、どこまでも続いていそうな廊下を歩き続け、アキラが本当にこの先に出口があるのか不安になり始めた時だった。
背後からがしゃがしゃと耳障りな音が聞こえ、アキラは顔を青ざめさせた。
まさか……
もう追いついてきたのか!?
くそっ!
どうする!?
必死に頭を巡らせてみるも何も浮かばず、それでいて徐々に背後から聞こえてくる音は大きくなってくる一方で、もはやこれまでかとアキラがあきらめかけた瞬間、
アッキーっ!!
ショウコが叫びながらアキラの腕をとり、前へと走り出した。
一瞬転びかけるもどうにか体勢を立て直したアキラは、ショウコの隣を走りながらすぐさま停止しかけた思考を再起動させる。
馬鹿か俺は!
アサヒと生きるって約束したばかりじゃないか!
必死に足を動かしながら、アキラが自分を罵っていると、ショウコが前を指差した。
アッキー!
あれ見て!
つられて視線を動かしたその先には、二人が駆ける通路に立ちふさがるように存在する一枚の扉。
ちょうど、アサヒが命を落とした扉と同じような作りのそれは、果たして自分たちにとって、希望の扉となるか、あるいは絶望の扉となるか。
そんな不安が頭をよぎるが、後ろからどんどん機械の追手が差し迫っている現状では、ともかく扉に取り付いてあけるしかないと思い直したアキラが、走る速度を上げて扉に手を伸ばす。
しかし、アキラの手が届こうとするよりも早く、扉は内側から開け放たれた。
……はっ!?
……えっ!?
アキラとショウコが揃って思わず困惑する間に、中から誰かが勢いよく飛び出してきた。
その、どう見てもアキラたちより年上の誰かは突風の如く二人を追い抜くと、背中に二人と扉をかばうように立ちはだかりながら、前方を鋭く見据える。
その視線の先には、アキラたちを追って来ている機械たちの群。
一体何を、とアキラが首をかしげる中、二人を背中に背負ったその人物は、肩越しにアキラたちを振り返り、一瞬だけ安心させるように微笑んだ。
もう大丈夫だから……
少しここで待っていて……
えっ……
あっ……ちょっ……!
それだけを言うと、その男の人はアキラが止める間もなく颯爽と走っていった。
そっちには大量の機械たちが人を殺せる武器を持って追いかけてきているのだから危ない、と伝え損ねたアキラが呆然としていると、少しして男の人が走っていった方から、男の人のものと思われる怒号と火薬が炸裂する耳障りな音、そして金属をひしゃげるような音が聞こえてきた。
アッキー……
ショウコが心配そうに、音が聞こえてくるほうを見つめながらアキラの手を握ってくる。
そして、アキラもその手を握り返しながら、じっと奥を見つめていると、やがて激しく聞こえていた音がぴたりと止んだ。
それに気付いて、アキラとショウコが互いに顔を見合わせる中、少ししてこつこつと足音が聞こえたかと思うと、程なくして通路の奥から先ほどの男の人が姿を現した。
その男の人は、アキラたちが唖然としているのに気付くと、にっこりと笑いながら拳を掲げて見せた。
もう大丈夫……
あなたたちを追いかけてきていた機械たちは、あたしがぶっ壊してやったわ……
だから安心していいのよ?
えぇ~~~~~~~~~~~~~っ!?
えぇ~~~~~~~~~~~~~っ!?
その男の人から飛び出た言葉にいろんな意味で衝撃を受けたアキラとショウコは、思わず大声を上げていた。