天都

ゆっくりしろって……
この状況でどうしろって言うんだ

どうするべきか、迷う参加者達。
部屋に戻って休めと言う。
手元のカードには与えられた部屋割りが書いてある。

天都

これ……どうするんだ?
誰が片付けるんだよ?

ボリボリと頭をかきながら、天都が問う。
転がっている死体。
誰も触れようとしない。
それはそyだ。今まで生きていたモノだ。
誰だって、死体に触れたいとは思わない。

こいつが味方でなければ。天都はつくづくそう思う。
こいつがどういう人間なのかはしらない。
今分かるのは名前と陣営だけ。
なぜ彼がもう一人の『共有者』その人物だと分かったと言えば、呻き声を上げ時に、天都の持っていたカードに記されているその名前の下に新しい文字が追記されていたのだ。
『脱落』、と。ひとりでに追加されていた文字。
恐らく死因と同じで、不可思議な何か働いたのだ。
この状況で脱落なんて表示されれば、いやでも分かる。

天都

…………

天都

分かった、俺が片付けよう
適当に主催者に聞いとけば、これどうするかぐらいは教えてくれるだろう

誰も、倒れている悪しき先例に触ろうとしない。
少数だが、周りの反応とこの状況を楽しんでいた。
言い出しっぺの天都は、やれやれと苦笑して彼の身体を持ち上げる。
が、思った以上の重量によろける。

立夏

やー、先輩大丈夫ですかー?
立夏、手伝いますー?

天都

お前は黙ってろよ……

立夏がからかうように、手伝いを申し出る。
負けじと彼女も名乗り出た。

月子

兄さん、私が手伝います
足を持つので頭でも
その等身大の生ゴミは恐らくあちら側が回収してくれるでしょう
死ねば所詮デカいだけの生ゴミですからね
本人の部屋にでもぶち込んでおけば勝手に消えると思いますよ?

天都

それしかねーな
どうせ、消去法でこいつの部屋も浮き彫りになるんだろうし
それまで部屋の隅っこにでも捨てとくか

月子

名案ですね
では、そうしましょう

酷い言われようだ。
嫌悪感を浮かべて月子を睨むが、実際死んでしまえば邪魔なだけだ。
ある種の事実である。目をそらしてはいるけれど。
そして同時に、死という結果を目の当たりにして、言葉を失っている。
平然としているのは死の臭いに慣れている兄妹とタガが外れている立夏、そしてニタニタとチェシャ猫よろしく嗤っている黒花のみ。

黒花

ま、初っ端死人が出るっていうアクシデントがありましたが
それなりに楽しい出だしになりましたね
一応、自己紹介ぐらいはしておきます?
ゲームをやっている以上、個人を示す名称が必要だと思うので
わたしは如月黒花
所属高校も明かしますと、私立東間学園付属三年です
呼び方は如月、とでも読んでください

どっせーい、と息を合わせて兄妹は死体を部屋の隅っこに放り投げた。
どさっと死体は転がって、視界からとりあえずは消える。
先程まで喋っていた相手に対して非常に雑な扱いだが、触れさえしなかった彼らに代わって片付けてくれた彼らに文句は誰も言えなかった。

未来

あたしはさっき名乗ったわね
静蘭女学院の三年よ
久遠寺とでも呼んでくれればいいわ

未来はそう告げて、次と促した。
次と言われた男子は、引きつった顔で何とか名乗る。

大介

た、田代大介(たしろだいすけ)です
河之内高校の一年ッス

大介と名乗る彼は、ビビッた顔で戻ってきた天都に次どうぞと渡す。

天都

俺は夜伽天都
天都は天の都って書いて、天都だ
東第一高校の三年

月子

同じく、夜伽月子と言います
白峰高校の三年生です
夜伽天都……兄さんの双子の妹になります

兄妹はそうやって、互いに手短に挨拶すると、はいはーい! とテンション高く手を挙げて主張する人物が一人。

立夏

先輩と同じく東第一高校の二年、式見立夏でっす!
邪魔する人間全員ぶち殺すつもりなんで、よろしくお願いしまーす!

立夏の爆弾発言に硬直する一同。
手っ取り早く敵対宣言をした立夏は、読めない態度で余裕綽々だった。

良太

次は僕ですか?
僕は御子柴良太(みこしばりょうた)と言います
西宮高校に通ってます二年です

意に介していない様子で、良太と名乗る彼はどうぞと流す。

神無

…………一条神無(いちじょうかんな)

隣に静かに立って、そうとだけ告げる少女。
全体的に浮き世離れしている彼女は、通う学校も年齢も明かさない。

時雨

俺は光野時雨
矢車第二高校の三年

春菜

み、三城春菜……です……
がっこうは、ええっと……
湯原学園っていって、わたしは三年です……

二人も何とか挨拶をこなして、次へと行く。
最後は……騒ぎの中でも平然と突っ伏して寝ていた奴が今頃顔を上げて起きた。

んぁ……?
なに、何かあたしに用事?

のそのそと起き上がる彼女は、眠そうに欠伸をしている。
死人が出た時も爆睡していたし、もしかして寝不足だろうか? クマができていた。

時雨

マイペースだな……
名前、教えてくれ

時雨が問うと、彼女はどうでもよさそうに言った。

あたし……?
あたし、海老塚桜

それでいいでしょ、と彼女は眠そうに目をこする。
丁度、彼女は隠した死体を見つけて、首を傾げる。

んん、そいえばさっき誰か死んだとか騒いでたね……
こいつが死んだヤツ?

……気付いていたのか。寝ていただけのなのに。
アレだけ騒いでいてぴくりとも動かなかった割には、鋭い。
天都が簡潔に肯定すると、ふぅんと一言残して流す。
気にしていない様子だった。

神無

…………桜海老……?

それよりも、神無が遺した一言の方が余程許せなかったらしい。
途端、大声でツッコミを入れた。

桜海老言うなしっ!

言うべきことはそこか、と誰しも思った瞬間だった。

神無

……そこ……?

いあ、略して桜海老だけどね?
あたしはブラックタイガーの方が好きなのよね

好みは誰も聞いていない。
立夏が困ったように黙り込む神無に代わって聞いた。

立夏

じゃあエビでいいじゃないですか
今から名称『エビ』でよろしく

エビねえ……
海老塚とか首塚みたいでいやだからこの際エビでいいかぁ……

……何というか、ツッコミは桜えびだけだった。
一応、自己紹介を終えた彼らは、何をするかと考えても思いつかなかったので、各々カードに従い部屋に戻ることにした。
死体は、天都と月子がえっちらおっちらとそいつの部屋まで運び込んで捨ててきたのだった。

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