ひと騒動あってから、更に30分ほど経過。
どうやら、全ての参加者が揃ったらしい。
遅れてきて、漸く全員が互いに顔を合わせる。
男子は天都と時雨と三人で五人。
女子は残りの七人という内訳だった。
取り分け、男子の中で危険扱いされているのは天都だった。

天都

思った以上に知り合いが多いなぁ……
どうしてこうなったんだが……

時雨

俺の場合はお前の危機を感じてすっ飛んできただけだがな

落ち着いた天都は知り合いの多い、やりづらい環境に何度目かの溜息をつく。
月子はまだしも、春菜、時雨に加えて立夏まで着ている羽目になるとは。
立夏は殺してもいいけれど、あいつらは困る。
人狼ゲームは、推理をするゲームだという。
一応、下調べはしておいたが、天都はド素人。
勝ち残る為に誰かの面倒を見ている余裕はない。

時雨

願わくば、お前と俺が陣営が同じことを祈りたいな
最悪、殺し合いにならない関係でいたい

天都

じゃなきゃ困るぜ
俺はお前を殺したくねえし……

時雨もどういったゲームなのか知っているというし、敵になったら……万が一、人狼と村人になろうモノなら。
殺し合いをしないといけなくなる。
この時ばかりは祈るしかなかった。

そんなことを話し合っていると、天井についているスピーカーから機械音声が聞こえてきた。
ゲームの説明をするから席についてくれ、との指示だ。

天都

始まったな……
健闘を祈るぜ時雨

時雨

ああ
お前も死ぬなよ

二人は互いに指定された席に着く。
そう広くはない室内で、バラバラに分散された場所。
天都は壁際の椅子だった。

天井から流れてくる音声は、まずはゲーム参加者に前提のルールを告げた。
ここは命懸けのゲーム。
ルール遵守してもらえない場合、その代価は生命そのものであるので注意である。
以下のことが絶対の禁止事項。
あらゆる暴力行為、器物破損、及び進行の妨害は即、死亡との警告だった。
ちなみに天都のあの一件はゲーム開始前のことなので見逃すが次回はダメと念を押された。

天都

思った以上に親切だな……

場違いに困惑しているのは春菜。
意識の回復した月子が仕方なさそうに事前説明をしていたが、ドッキリだと思っていたらしい彼女は、改めて覚悟を決めさせられている。

これから始まるのは人狼ゲーム。
村人に紛れ込んだ狼を見つけ出し追放するゲームだ。
勝敗は村人全滅、あるいは狼全滅。
その時点で、ゲームは終了。
陣営に関係なく、最後まで生き残った人物には消金が支払われる。
参加者は12名。そのうち人狼と村人は2名ずつ。
ゲームの概要が説明されるが、彼は最低限しか聞いていなかった。
それよりも、と周囲を見る。
真剣に聞いている人もいれば、狙えそうな奴を探す奴もいる。
そして……余裕ぶっこいて、寝ている奴発見。
馬鹿がいた。あれはただの馬鹿だと思う。
天都は天井を見上げる。
探りをしていることをバレないように、表情を逸らす。
警戒している二人ほどと目があったが、睨まれただけ。
まだ、前哨戦に過ぎないのだ。

ツッコミはさて置き、音声に従い、椅子の下にくっついていた、封筒を取り出した。
そこに役職を書かれているカードが同封されているという。

天都

俺は……

頼むから人狼だけは勘弁してくれ、と願いながら引いたカード。
この時のために、ほかのメンツから盗み見防止を予て離れているのだと確信する。
怖々天都が見たカードは……。

天都

『共有者』……?

天都が引いたカードは『共有者』というカードだった。
確か、陣営は村人サイド。
能力持ちの役職で、二人ひと組みで動くという奴か。
……素人には難しい、テクニカルな役職を引いてしまった。
確かに誰が誰だかわからない状況で、確実に一人味方がわかるというのは大きい。
白が確定しているわけだから。
だが同時に、それを周囲に信じてもらえるかと言えば……きっと天都には無理があると思う。
過去の天都のコミュニケーション能力は前提として、春菜のおかげで何とか取れていた。
現在一人で高校に通っているが、決して友達は多くない。むしろ空気としてその場にいるだけだ。
居ても居なくてもいい、その程度の存在。
そんな奴が、率先して白だと言い張って、信じてもらえるだろうか? 答えは否だ。
それほど舌戦に強いわけでもないし、むしろ脆く弱い彼を信じてくれるのは……。

春菜

参ったなぁ……
天ちゃんは何を引いたんだろう……?

時雨

悪くはない、悪くはないが……
天都が何を引いたかで大きく分かれるな……

立夏

にゃはー!
面白い役引いちゃったー!
たーのしー!!

黒花

うわ、最悪だ……

信じてくれるのは、春菜と時雨。あとは月子だ。
彼らは付き合いが長い。
特に月子は、絶対信じてくれる。

月子

私が……?
これじゃ……兄さんと……

月子は困惑する表情を慌てて直す。
動揺を悟られたら、付け入る隙ができる。
いくら自分が最悪なモノを引いてしまったとしても。
生きていれば、勝てるのだ。最悪、裏切ってでも。

天都

もう一人は誰だ……?

カードにはもう一人の参加者の名前が書いている。
それが誰だか、分からない。多分男だと思う。
つまり天都は、彼と同じ陣営なのだ。
だが……。

その彼が呻き声を上げた。
突然のことだった。

天都

!?

天都も、他の参加者も、突然の事に驚いて、彼を見る。
彼は呻き声を上げながら、そのまま椅子を転がして倒れ込む。
苦しそうに喉元を押さえながら、青くなった唇で何かを必死に言おうとしている。
俺は何もしていない、俺は無実だ。
そう、天都には聞こえた。

だがそんな漏れ出す声も、次第に弱くなっていく。
痙攣する身体が、大人しくなるまで一分もかからなかった。
音声は言ってるそばからルール違反を確認したので殺した、と無機質に告げた。
そしてそのことには触れず、ゲームの流れを一方的に伝えていく。
だが、誰も聞いていない。そんな余裕はなかった。

倒れる彼を見下ろして、まっ先に悲鳴を上げた女子。
波及するように春菜が叫び、他の女子にも伝播していく。
みな、部屋を出ていこうとして、施錠されていることに気がついて更にパニックになる。
男子たちは、呆然と彼をただ見つめているだけだった。

天都

……おい、嘘だろ……?

天都は絶望した。
只一人、絶対的に信頼できる相方が、早速違反で処刑されてしまった。
何をしたかは知らないが、天都の立場は一気に不利になったのは間違いなかった。
お先真っ暗に、愕然と立ち尽くす。

黒花

ああ、成程……そういうことですか
彼、スマホを使って遠距離盗撮してたみたいです
これは確かに、ルール違反ですねえ
主催している方は、特に見張りや拘束が無くても、わたしたちを自由に殺せるってことですか
興味深いですね

立夏

わぁー
本当に死んでる……
どうやって死んだんだろ?

そんな中黒花が、死んでしまったであろう彼に近づき、脈と呼吸を調べ、死んでいるのを確認してから冷静に違反の原因を調べる。
不謹慎に倒れた彼を靴で小突いて確かめている立夏。
不思議そうに首を傾げているが、恐れていない。
恐慌状態に陥った室内の中で、彼女達だけが異質そのものだった。
その様子を見ていて、天都も次第に冷静になっていく。
どこかで思い出すことがあった。
小さい頃、まだ入院していた頃の思い出。
病院で発作を起こしてああして死んでいく老人を何度も見たことがあった。
みんな最期は、あんなふうになるのだ。
それと同じことが起きただけ。
年齢が違うだけだ。
今更騒いだり、怖がったりしても、変わらない。
それに彼だけは違う意味で絶望していたのだ。
たった一人の共有者。出来ることは少なくても。
出来ることは、確かにある。
立ち直らないと、死ぬのは自分。
冷えた頭が現実を見る。

天都

時雨、春菜!
それ以上騒ぐなッ!

天都は親友たちの名を叫ぶ。
彼の怒号が、悲鳴をかき消す。
ピタリと止む混乱。彼は続ける。

天都

これ以上騒ぐと、俺達もそこのバカみたいになる可能性があるぜ
月子、わかってるな?

月子

把握しました、兄さん

似たような境遇の月子も落ち着いていた。
子供の頃から、死人が出たことを何度も見ている夜伽兄妹には、この程度ではメンタルにダメージは入らない。

立夏

先輩流石に冷静ですねー
さすが立夏の旦那様♪

天都

黙れ立夏
狂ってるお前と一緒にするな

茶々を入れてくる立夏を無視して、天都は他の参加者にも言う。

天都

見てのとおり、なんかするだけで俺たちは殺される
これ以上進行を妨げると、全滅しちまうぜ
アナウンスが黙ってるの、気付いてないのか?

月子

そこでくたばっているアンポンタンと同じになりたくなくば、さっさと着席したらどうです?

黒花

同感ですね
死人が出るって分かりきってるのに何慌ててるんですか?

立夏

あははははは!!
ちょーたのしい!
こいつばかだー!

冷静な三人に一人は完全に楽しんでいる。
お腹を抱えて笑っているのだ。
さっきまで生きていた死体を指差しバカバカと笑いながら罵っている。

春菜

…………

時雨

…………

笑う立夏に絶句する時雨と春菜。
彼らは続きをスピーカーに促して座っている。

未来

……そうね
式見は兎も角、夜伽兄妹の言ってることは正しいわ
バカの二の舞はごめんよ

未来も死体をなるべく見ないようにして着席する。
アナウンスは違反には冷静に対処するように、参加者に告げる。
あまり騒ぐと騒いだ全員処罰するとご丁寧に釘まで刺してくれた。
今日はまだゆっくりしてくれていい、と与えられた個室で休むように指示された。
但し違反者は殺す、と言われながら。
残りは11名。
天都のみが知る、死亡者は『共有者』の情報。
まさかのいきなりの死亡者を出しながら、デスゲームは始まりの雄叫びを上げた。

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