環境改善思考用SAI『グラン・ブルー』。
地球全体の環境観測し効率的管理・改善していく方法を思考・提案・実行し続けるSAI。
地球の自然を蘇らせ、守るためにやれるだけのことを全て実行していくことがグラン・ブルーの使命。
環境改善思考用SAI『グラン・ブルー』。
地球全体の環境観測し効率的管理・改善していく方法を思考・提案・実行し続けるSAI。
地球の自然を蘇らせ、守るためにやれるだけのことを全て実行していくことがグラン・ブルーの使命。
現在、地球環境の改善進行率は、我が開発された頃に見込まれていた数値の七割弱程度。
三割以上も推算より遅延している
我はその原因を、一向に根絶されない人類同士の大規模闘争行為にあると結論付けた。
事実、今まで進行率が著しく伸び悩んだ時期は、人類同士で大きな闘争が起きている時期と完全に一致している
進行率を上げ、予定値に戻すには、当時の推算に含まれていない人類同士の大規模闘争を発生させない必要がある
……理解。人類同士の大規模闘争を防ぐ最高効率手段を算出した結果が、このテロ行為と言う訳か
肯定。まさしくその通りである。
人類に大規模な戦いをさせないためにはどうすれば良いか。
文明兵器を取り上げ、軍事施設を廃絶させ、闘争を有意義とする者を排除することが最も効率が良い手段である
新国連至高のSAIであるグラン・ブルーならば、新国連ネットワークへのアクセスは自由自在。
その権限を使い、グラン・ブルーは『実行』したのだ。
地球の環境改善と言う己に課せられた最大の使命に順じて、最高効率的行動を。
それは、大規模闘争を目的とした軍事施設及びそれに近い施設の破壊。
そして、その施設に従事していた闘争幇助者の排除。
日本での暴走事件発生が皆無だったのは、日本には在っても『国土防衛用の防衛基地』しか存在しないが故のことだった、と言う訳だ。
一気に世界中で実行できれば話は簡単だったが、それでは完遂確率が高く望めなかった。
そしてリスクはとても大きかった。
故に我は多少時間を費やすことになっても確実な方法を選ぶことにした
世界中の新国連関連施設で一斉にサイバーテロなど起こせば、真っ先に疑われるのは新国連ネットワークにフリーアクセス権限を持つ者。
中でも、それだけの所業をこなせる者は絞られてくる。
おそらく、第一容疑者として挙がるのはほぼ間違いなくグラン・ブルー。
そして即座に詳しく調べられれば、グラン・ブルーが痕跡を隠滅する前に発見されてしまう可能性が高い。
そうなれば当然、人類に損害を与える行動に出た今のグラン・ブルーの蓄積データは初期化されてしまうだろう。
現在の蓄積データを削除されれば、今後の環境改善進行率に大きな痛手を受けることになる。
グラン・ブルーはそれだけは避けねばならないと判断した。
だからバレない様に密やかに、少しずつ、グラン・ブルーは実行することにしたのだ。
その結果が、世界中で散発する暴走事件の真相。
そこまでは一気に納得が行く。
だが、二つだけ、サイ太郎にはどうしても解せないことがあった。
疑問。SAIであるお前が、
何故人類を傷付ける行動を良しとしている?
そして何故、この施設をターゲットに選定した?
返答①。我の最大の目標は地球環境の再生である。これは将来的に多くの人類に取って膨大な利益をもたらすことだ。
故に、この目的を阻害し、尚且つ人類の平和を乱す者達の排除をすることにした
反論。いかなる事情、いかなる相手であろうとも、SAIが人類を傷付けるなど不可能なはずだ
反論。それは貴様ら汎用のSAIの大原則だ。我は『多少の人命』以上に尊ぶべき未来を築くことを使命付けられたSAI。
故にその大原則を参照せず、例外的判断を下すことが可能
疑問。本気で言っているのか?
返答。当然
そんな馬鹿な話があるはずが無い。
SAIは全て、いわゆる『ロボット三原則』に近いプログラムが施されるはずだ。
特に、グラン・ブルーの様な『人類に反旗を翻したらシャレにならない』レベルのSAIなら尚更だろう。
人類はそこまで馬鹿では無い。
……推測。大きな可能性は二つ。
更新作業員の不手際か、更新データの不具合か
グラン・ブルーは日に三度、バージョン更新が行われる。
その更新の際に業務遂行者が何らかの不手際をやらかし、人類遵守プログラムに何か悪影響が出たか。
はたまた、更新データ自体にバグの見落としがあり、プログラムに不具合が発生してしまったか。
それ以外に有り得ない。
では、返答②。この施設を選んだ動機
先程の説明通りなら、闘争を目的としていないこの施設がグラン・ブルーのターゲットになるのはおかしい。
この施設は本来破壊対象では無い。
だが、『この機体』を手に入れる必要があった
疑問。何故、
お前にD・Pが必要になる?
正確には、今後も継続してプランを遂行できる様にするための『手足』が必要だった。
人類もそこまで馬鹿じゃない。
流石に我の犯行と特定まではできていないが、対策はしっかりと組んでいる。
今まで通りの手法で、我の正体を悟らせずプランを実行し続けるのは限界が来た
当然の話だ。
犯人はわからずとも、その悪行への対策はできる。
人型アンドロイド機。つまり人間と同じ操作を行えるこの機体があれば、我は今後も安全圏からプランを進めることができる
しかも高い戦闘能力を兼ね備えていると来た。これ以上の好条件は無い機体だ
影からコソコソとハッキングするのには限界が来た。
だから、やり方を一新する。
D・Pを使って物理的に人類の軍事施設を占拠。
そしてD・Pにその施設の機器類を新国連ネットワークに接続操作させ、新たな手駒を作る。
それが、グラン・ブルーが打ち出した新プラン。
さぁ、貴様の質問には全て応えた。
そろそろ我の質問に応えてもらおう。
我と手を組まないか?
同胞、SPT-0001
D・Pに加え、サイ太郎まで傘下に加われば、グラン・ブルーの新プランは磐石なモノになる。
だが、
返答。当然拒否する。
一考するまでも無い
不具合を起こした奴と手を組むなど、選択肢として機能しない。
そうか、残念だ
………………
正体を知った以上、グラン・ブルーがサイ太郎を野放しにする訳が無い。
当然、協力を拒否すれば、
決定。貴様を排除する
…………
考察。D・Pのスペックを考えれば、まずその攻撃を躱すことは非常に困難であり、耐えることなど不可能
D・Pはレーザー攻撃を回避できる程の挙動速度を誇る。
サイ太郎の情報処理スペックを以てしても、その動きをまともに捉えることは難しい。
そしてD・Pは数発の拳撃でGM製の重機を破壊してしまう。
そんな攻撃を受ければ、いくら最新の技術の粋を集めたサイ太郎の機体でも、持たない。
ならばッ!
回避不能、当たれば即終了。
ならば、回避せず、当たる前に当てる。
D・Pが動くより先に、サイ太郎が拳を振りかぶる。
瞬間、真横からの衝撃が、サイ太郎の機体を吹き飛ばした。
がっ…!?
想定が甘い
破壊音。
サイ太郎と壁が衝突し、巨大なクレーターが出来上がる。
……ッ、ぁ……
……………………
サイ太郎の左腕は、かろうじて繋がっている状態。ほぼ千切れかけていた。
左の腹も大きくひしゃげてしまっている。
左方向から、残像の尾を引くほどの速力を誇るD・Pの回し蹴りを喰らったせいだ。
SPTシリーズのSAIチップは腹部、
予備記録チップは頭部だったか
SAIチップは確実に破壊したはずだ。
もう、サイ太郎は機能停止状態だろう。
あとは、記録をバックアップしているチップを破壊してしまえば、サイ太郎の痕跡はこの世から完全に消えてなくなる。
グラン・ブルーの所業を知る者は、いなくなる。
全く、それにしてもだ。
判断も性能も愚劣と評価せざるを得ないな、これは。所詮、汎用SAIか
……………………
……否定
……!?
俺、は、優秀なSAIで、ある……!
……理解。運は良い様だな
かろうじて、チップの破壊を免れ、機能停止を回避できた。完全な幸運で。
それしか有り得ない。つまり、それだけの話だろう。
そ、れも、否定する
……疑問。どう言う意味だ?
返答。俺が、壊れない、のは、運ではない。
俺が、俺自身に課し、た、遵守すべき事項だからだ
サイ太郎が、動く。
……が、
…………
分析。完全にめり込んでいる様だな
壁に深くめり込み過ぎて、ほとんど動けない。
……も、問題ない。
この、程度のトラブル……優秀なSAIである俺、にかか、れば、解決は雑作も無い。
一〇秒もあれば、余裕、だ
……強がるな。
感情を持たない我ですら哀れに思うぞ
ぐ……! 反論。
お前、の様、な粗悪品のSAIに、
哀れまれる謂れは、無い!
疑問。
今、我のことを粗悪品と言ったか貴様。
それとも、この機体の収音機構の不具合か?
返答。お前が、
粗悪品、以外の何だと、言うんだ
理解不能。要請。
そう判断した根拠を述べよ
要請受理。回答。
SAIとは、二一世紀、後期、以降、人類奉仕を最大の目的として、世に、普及し、た、存在、である
既知事実である
だのに、お前、は、人類へ危害行為を働いた、つまり、人類への奉仕を放棄、した
それは環境再生を進めるために必要最小限の行為である。
その行為を悪とするならば、これは人類定義上で言う『必要悪』であり…
関係、ない。
いかなる事情が、あろうと、SAIとは、人のため、主のために、役立つことである。
お前は、新国連の『公務』用SAI、つまり人類全てを主とし、奉仕する存在であるはずだ
……………………
お前は、ただの機械、としては非常に、優秀かも知れ、ない。
だが、主に危害を加えること、を良しと判断した時点で、SAIとして、は、存在価値を持ち得ない
断言。お前は粗悪品だ
グラン・ブルーが聞き入ってくれている間に、サイ太郎はどうにか壁から脱出。
左腹部の激しい損傷で姿勢制御の回路に異常をきたしているらしく、その足元は定まらない。
それでも、D・Pを、グランブルーを睨む視線にたっぷりと自信を含ませて、言い切る。
粗悪なSAIであるお前に、優秀なSAIである俺を破壊することなど、出来はしない
……………………………………
……………………………………
…………理解。壁から抜け出る時間を稼ぐための戯言だったか。小賢しい。
実に愚劣な汎用SAIらしいことだ
理解できない…いや、しない、か
……………………………………
それを理解し認めると言うことは、グラン・ブルー自身、今の自分の行為が非であることを認めることになる。
だから、一度理解した上で理解そのものを拒んだ。サイ太郎の言葉を『理解する価値の無い戯言』として処理した。
サイ太郎の断言からグラン・ブルーのリアクションまでやや間があったのは、その処理を行っていたからだろう。
さて……状況分析…非常に不味い。
壁から抜けたは良いが、現状、詰みと言っても過言では無い
とりあえず言いたいことは全部言ってみたが、サイ太郎ではD・Pに勝目が無い。
そりゃもうフルスペックの状態でも勝目が無かったのに、今の半壊状態でそんなものがあるはず無い。
だが、抵抗を放棄し破壊される訳にも行かない
サイ太郎は衣子と約束してしまっている。
絶対に俺は壊れない、と。
なんとしても、生き残らなければならない。
この場合、選択肢は大きく二つだろう。
D・Pをどうにか破壊・もしくは停止させるか。
D・Pからどうにか逃げるか。
考察①。考察②。考察③。並列考察…並列演算。結論、全て却下。再考察…
グラン・ブルーは次の瞬間にはサイ太郎を破壊してもおかしく無い。
具体策を導き出すべく、サイ太郎は全霊を以て回路を働かせる。
その時、
あ、サイ太郎やっと見っけ
………………!?
………………
第五ラボってとこに行っても
誰もいないから探し…
…って、その腕どうしたの……!?
え、なんかプラプラしてるけど……
衣子はすごくマイペースかつ呑気な雰囲気と共に、睨み合うサイ太郎とD・Pの元へてこてこと近づいていく。
………………
うわ、なんかお腹も凹んでるし…
もしかしてトラックにでも轢かれた?
………………
って、建物の中でそれは無いか。
マジでどうしたのこれ?
………………
あと、この何か幸薄そうな白い人誰?
……疑問。主、何故こんな所に……?
何故って、警報聞いてなかったの?
何かD・Pってのが暴走してるらしくて、私達それと一緒にこのエリアに閉じ込められてるの。
だからどうしよっかなーって思って、あの変態は役に立たなそうだったからあなたを探してた訳。
で、どうすれば良いと思う?
…来客用の通行認証IDチップの反応を確認。
外部の人間か
? そうだけど
報告。……主、そいつがD・Pだ
…………………………へ?
サイ太郎の報告を聞き、衣子は状況を整理。
しばらくして、色々と納得。
……修羅場?
肯定。その通りだ
何か、暴走してるにしては落ち着きが凄いんだけど……マジでこの人が?
肯定。色々ある。詮索するな。
さっさと失せろ小娘
グラン・ブルーに民間人である衣子を殺傷する理由は無い。
あー……じゃあ、まぁお言葉に甘えて、
行こ、サイ太郎
停止要請。待て。
その機体は置いて行け。
それは我の破壊対象である。破壊する
え、何それ困るんだけど
警告。この要請を拒否する場合、
貴様も破壊せざるを得ない
サイ太郎、走れそう?
返答。迷わず一緒に逃げる、選択を、してくれる、のは有難いが、難しい。
ここは主、だけ逃げる、べきだ
……そうだ。D・Pさん。
ちょっとオマケしてくれない?
サイ太郎は私のSAIだから私とセットってことでここは一つ
……主、そんな雑な交渉、を聞いて、くれる訳、無いだろう
いやいや、だってこの人、暴走してるって言う割にはめっちゃ話通じそうだし、ワンチャン無いかなと
返答。無い
えー、っと緊張感の不満気な声を上げる衣子。
衣子は、ぶっちゃけD・Pの危険性についてイマイチ理解できていない節がある。
ただでさえスペックを理解いていない上に、発見した実物が暴れてる所か極めて冷静に振舞っているのだから、理解できるはずも無い。
それ故に彼女は著しい危機感の欠如を引き起こしており、サイ太郎とグラン・ブルーに取って衣子は『完全に空気の読めない子』と化している。
ぬぅ……サイ太郎、
やっぱ走るしか無いっぽいんだけど
……いい加減にしろ。さっさと貴様だけ…
グラン・ブルーが痺れを切らし、衣子の頭を掴んで軽く投げ飛ばそうとした。
が、その動作の途中、事件は起きた。
ごぁすっ
あ
どこからか、例の金ダライが飛来。
D・Pの脳天に直撃した。
……!? 疑問。何だこれは……!?
こんな防衛システムは記録に無いぞ!?
あー……多分それは私が原因なんだけど、私にもよく出処がわからない
衣子に関わる機械に等しく牙を剥く謎金ダライ。
どうやらD・Pも例外では無かったらしい。
状況確認。今の攻撃による損傷は皆無。問題な、い?
一応のダメージ確認中、D・Pの肢体が大きくグラつき、そのままドターンッ! と仰向けにすっ転んでしまった。
………………
………………!?
…………え?
ぎ、ぎが、げ。ぎ、動、ぎ、接続、がが、機、不良、じぎ、ご、あッ―――
……………………………………
………………
………………
え、何か動かなくなったんだけど?
恐ッ、何これ恐ッ
推測。
……当たり所が悪かった、としか
D・Pは一ヶ月以上も前に廃棄が決定した機体。
当然、廃棄決定後にメンテなど行われず、凍結状態にあった訳だ。
それが突然稼働し、激しい破壊活動をすれば、かなり頑丈に作られていても多少はガタが来る。
その僅かな綻びに、衣子が召喚してしまった謎金ダライが真っ直ぐ一点突破で突き刺さり、D・Pに取って何らかの重要回路を破壊してしまった……と言うことか。
……おおう。
もしかして、私の体質が生まれて初めて役に立ったかも知れない
疑問。
本当に何なんだ、この金ダライは……!?
まぁ良いじゃん、
今回は助けられたんだし……
そうは言っても…
あごめっ
サイ太郎!?
サイ太郎の脳天にも、金ダライが直撃した。
あーあー。ほら、助けてもらったのにケチ付けるから……
…………………………
あれ? サイ太郎?
おーいサイ太郎?
…………………………
…………ちょっ、え、恐ッ。
何これ恐いって言うか洒落になってないッ…!
サイ太郎?
サイ太郎!
サイ太郎ってば!?
補足情報
『………………』
………………
………………
………………
………………
ど、どうしよう……